なぜあの人の提案は通るのか? 〜イノベーションを動かす“巻き込み力”の正体〜
「お客様の声を集めましょう」
「アンケートを取りましょう」
「ヒアリングをしましょう」
これは新商品開発や新事業企画の第一歩として、多くの企業で当たり前のように行われていることです。
しかしー
本当に“声”に耳を傾けるだけで、イノベーションは生まれるのでしょうか?
本当のニーズは、語られない
お客様が口にするニーズには、次のような特徴があります。
- すでに言語化できている(=既存の商品と近い)
- 現在の不満に基づいている(=過去志向)
- 他社でも同じようにヒアリングしている(=差別化が難しい)
つまり、「聞こえるニーズ」には限界があるのです。
本当に価値ある発見とは、「お客様自身もまだ気づいていない不便さ」や「言葉にできないもやもや」といった、“潜在ニーズ”の発掘にあります。
「観察」から始めるニーズ探索
そこで有効なのが、「観察」によるアプローチです。
たとえば、
- スーパーで高齢者がどのように買い物しているか
- 工場現場で作業者がどのように道具を使っているか
- オフィスで中堅社員がどんな手間をかけて報告書を書いているか
これらを黙って見て、感じて、違和感を探す。
それが、「観察」による気づきです。
ケース:気づきから生まれたヒット商品
ある紙製品メーカーでは、「トイレットペーパーの最後の1巻を取り替えるときが面倒」という、ユーザーの“言葉にならない不便”に着目しました。
観察から得た仮説:「ユーザーは芯がなくなる直前で予備を用意しに行く」
→ 実際に家庭で観察すると、「トイレットペーパーが切れると気まずい」「誰が替えるかで軽い夫婦喧嘩になる」など、生活に根差した“情緒的な不満”が明らかに。
そこから生まれたのが、芯なし・長巻きトイレットペーパー。
結果、大手スーパーで大ヒット商品となり、全国展開されました。
「観察力」はスキルである
観察力は、天性の才能ではありません。
以下の3ステップを意識するだけで、観察の質は飛躍的に高まります。
① 注目する:目の前の行動を“意図”と切り離して見る
「なぜそうしたのか?」ではなく、「何が起きているか?」に集中します。
② 違和感を拾う:当たり前に流されず、微妙な“ズレ”を記録
「なぜこの人はここで止まった?」「あの表情はなぜ曇った?」と問います。
③ 感情を探る:行動の裏にある“感情の揺れ”を探る
イノベーションの種は、驚き・戸惑い・面倒くささなど、日常の感情の揺れの中にあります。
まとめ:「聞く前に、観る」
- ユーザーが語る声には限界がある
- “観察”は、潜在ニーズを発掘する最初の扉
- 違和感や感情の揺れにこそ、イノベーションの種がある

壁を越えるイノベーション実践録(28/50)
次回予告:
「アイデアが出ない病」の処方箋
〜創造性を刺激する“ずらし”と思考の技術〜
創造のプロセスを体験する「発想力研修」や「行動観察ワークショップ」も行っています。
ニーズ探索を現場で本気で始めたい方は、お気軽にご相談ください。



