“忙しい”が口ぐせの職場にイノベーションを根づかせるには? 〜時間がない中で新しいことに取り組む“余白”のつくり方〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「そんなの、やりたいけど忙しくて無理です」
「新しいことに手を出す前に、まず目の前の仕事を終わらせてほしい」

──こうした声は、どの職場にも存在します。
特に人手不足やタスク過多の状況が続く今、
“忙しさ”はイノベーションの最大のブレーキになりがちです。

しかし、本当に「時間がない」ことが問題なのでしょうか?
あるいは、「余白のつくり方」を知らないだけなのでしょうか?



なぜ“忙しさ”がイノベーションを阻むのか?


イノベーションは「未知のこと」に取り組む行為です。
未知に向かうには、考える時間、試す時間、失敗を許容する時間が必要です。
つまり、一定の“余白”が前提になります。

一方で、日々の業務は「既知のこと」に対処する行為。
効率化・標準化されるほど、ルーティンの処理能力は高まりますが、
余白はどんどん失われていきます。

この結果、「とにかく今は手一杯」という言葉が合言葉になってしまうのです。

忙しさの“正体”を探る


「忙しい」とは、実は単なる感覚であることも多いのです。

たとえば、

  • 毎日会議に追われているが、内容は重複している
  • 緊急対応が多く、重要な業務が後回し
  • 誰も優先順位を決めていない


そもそも“やめていい仕事”が棚卸されていない
こうしたケースでは、「忙しい」の正体は構造的ムダにあります。

“余白”をつくる3つのアプローチ


1. 「やめることリスト」をつくる
やるべきことよりも、やめることに目を向けてみましょう。
たとえば

  • 意味のない定例会議
  • 毎回ゼロから作る報告資料
  • ルールだからやっているだけの手続き


これらを見直すことで、思いがけない時間が生まれます。

2. “1時間だけ未来の時間”を設定する
毎週1時間だけ、「今すぐ役に立たないが、将来につながることを考える時間」を設けましょう。
この時間は、内省・発想・共創に使います。
最初は小さな芽でも、継続すればイノベーションの源泉になります。

3. 「やらなければ」から「やってみたい」へ
忙しさは、“義務感”と結びつくことでさらに重くなります。
反対に、「ちょっと面白そう」「自分からやってみたい」と思える要素が加わると、
人は時間をやりくりしてでも動こうとします。

義務感ではなく、自発性に火をつける設計が、余白を生み出すカギです。

ケース紹介:ある中堅製造業の挑戦


「新しいことに取り組みたいが、とにかく忙しい」が口ぐせだったある現場。
そこでまず着手したのは、「定例会議の目的再設計」でした。
目的が明確でない会議は統廃合し、発想に特化した“未来会議”を月1回だけ設置。

結果、半年後にはこの会議をきっかけに、
新サービスの企画が2件、設備改善案が5件、実行に移されました。

キーワードは、“忙しいなかでも、少しならやってみよう”でした。

まとめ:余白は、意識してつくるもの


イノベーションには“余白”が不可欠
忙しさの正体は「ムダ」「曖昧な目的」「義務感」であることが多い
意図的に「やめる・考える・楽しむ」仕組みを設けることで、未来への時間が生まれる



壁を越えるイノベーション実践録(18/50)

次回予告:
「“現場が動かない”のは誰のせい?」 〜リーダーとメンバーの“認識ギャップ”を埋める方法〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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