「決められない病」の処方箋 〜イノベーションを止める“決断疲れ”からの脱出法〜
「言ってることは正しいけど、納得できない」
「正論ばかり並べられても、動けませんよ」
これは、組織内の変革を試みる人なら誰もが一度は聞いたことのある反応かもしれません。
正論は、理屈としては間違っていない。
けれど現場が動かないのはなぜか?
そこには、「正しさ」と「納得感」の間にある、見えない断絶が横たわっています。
正論が届かない理由
イノベーションを推進する立場にある人ほど、正確なロジックや分析、数字を重視します。
一方、現場が動くのは、感情やタイミング、人間関係といった「空気」の側面です。
つまり、
論理で正しいこと=「頭で理解できること」
納得できること=「心が動くこと」
この2つは、必ずしも一致しません。
「正論→反発」の悪循環
「なぜできないの?」と詰める
→ 現場は萎縮して本音を言わなくなる
「ちゃんとデータを見て」と説得
→ 「上から目線」に受け取られ心が離れる
「常識で考えればわかる」と言う
→ その“常識”が現場とズレていることに気づけない
このように、正論を強く押し出すほど反発を招く構図になりがちです。
納得感を高める3つのアプローチ
1. 事実より「文脈」を語る
正しいことを主張する前に、「なぜ今この話なのか」を丁寧に説明しましょう。
背景や動機、問題意識の共有が、納得への第一歩です。
例:「この企画を通したい」ではなく、
「今の売上構造では来年度にリスクが出る可能性がある。その中で新たな収益源が必要だと思っている」など。
2. 反論される前に“共感”する
「わかります。私も最初はそう思いました」
「現場に負担がかかることも承知しています」
このような共感のワンクッションがあるだけで、相手の心の扉が開きやすくなります。
3. 「自分ごと」になる問いを投げかける
正論を押しつけるより、問いで巻き込む方が、行動につながります。
例:「このやり方を変えないといけない理由、あなたはどう思いますか?」
「もし〇〇さんが上司だったら、どんな判断をしますか?」
ケース紹介:新規システム導入プロジェクトの失敗と成功
ある企業で業務効率化のために新システムを導入した際、「このほうが合理的だ」「作業時間が減る」と本社が強く推進しました。
しかし現場からは、「また面倒なことを…」「どうせうまく動かない」と不満が噴出。
その後、現場の声を聞きながら「なぜ今、変えなければいけないのか」を物語として語り、一緒に考える場を設けることで納得感が醸成。
結果、利用率は導入当初の2倍に伸びました。
正しさでは人は動かない。動かすのは“感情の設計”
イノベーションの世界では、「正しい提案をすれば、理解されるはず」という前提が通じないことが多くあります。
なぜなら、人は“理解”して動くのではなく、“納得”して動くからです。
そのためには、論理だけでなく“共感・対話・問いかけ”の設計が欠かせないのです。
まとめ:正論ではなく、“納得感”で組織を動かす
- 正しさだけでは、現場は動かない
- 納得をつくるには、背景の共有と共感が必要
- 問いで巻き込むことで、主体的な行動が生まれる

壁を越えるイノベーション実践録(17/50)
次回予告:
「“忙しい”が口ぐせの職場にイノベーションを根づかせるには?」 〜時間がない中で新しいことに取り組む“余白”のつくり方〜



