“安心して失敗できる場”が、イノベーションを育てる 〜挑戦の芽をつぶさない“心理的安全性”のつくり方〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「新しいアイデアを出しても、どうせ否定される」
「これ以上目立ったら、リスクを負うだけだ」

そんな声が現場から聞こえてきたら、イノベーションの芽はすでに萎れ始めているかもしれません。

イノベーションを阻む最大の壁、それは「失敗を許容しない空気」です。
その空気を変える鍵こそ、心理的安全性。
これはGoogleのプロジェクト「Aristotle」で世界的に注目された概念ですが、今やイノベーションの土壌をつくる上で欠かせない視点となっています。



心理的安全性とは?


心理的安全性とは、「このチームでは自分の考えや気づきを安心して発言できる」と感じられる状態のこと。
言い換えれば、間違えてもいい、異なる意見でもいい、失敗しても見捨てられないという信頼感のことです。

特に日本企業においては「空気を読む」「出る杭は打たれる」文化が根強く、心理的安全性の確保はイノベーションの前提条件とも言えます。

安全性の欠如が招くもの


  • 無難な意見しか出ない
  • 本音が語られない
  • 問題が潜在化する
  • チャレンジが抑制される


その結果、イノベーションの本質である「新しい価値の創造」が組織から消えていきます。

心理的安全性を高める3つの工夫


1. 「否定しない」フィードバック文化をつくる
アイデアに対して即座に反対や批判をするのではなく、まず受け止めてから問い返すことが重要です。
「なるほど、どうしてそう考えたの?」という問いは、チーム内の対話を促進します。

2. 上司が「弱さ」を見せる
上司やリーダーが「わからない」「失敗した」と正直に話すことが、部下の安心感につながります。
“完璧な上司”より、“人間味ある上司”のほうが心理的安全性は高まりやすいのです。

3. 小さな成功を称える
「失敗を責めない」だけでは不十分。
挑戦を称える文化が根づくことで、組織に安心感が広がります。
結果が出たかどうか以上に、「踏み出したこと」そのものに注目することが大切です。

ケース紹介:安心がもたらす行動変容


ある製造業で実施した問題解決研修では、当初は「上司の顔色を伺うばかりで、手が止まってしまう」状態だった若手が、回を重ねるごとに自信をもって発言し、最終回では上司に提案をぶつけるほどの行動変容が見られました。

きっかけは、講義中に紹介した「失敗談」でした。
「こんな大失敗をしたのは自分だけじゃない」と受講者が感じた瞬間から、場の空気が変わったのです。

越境によって安全を築く


心理的安全性は“心の問題”だけではありません。

  • 経営層と現場のギャップ
  • 正社員と非正規の立場の差
  • 本社と拠点の温度差


こうした見えない“断絶”が、安全性を脅かします。

役職や部署、立場の越境を可能にする対話設計こそ、イノベーションの触媒となります。

まとめ:心理的安全性は、最強のイノベーションインフラ


  • 安心して発言・失敗できる環境が、挑戦の原動力になる
  • リーダーの振る舞いや組織文化の設計が、安全性を左右する
  • 越境的な場づくりが、心理的安全性を組織全体に波及させる




壁を越えるイノベーション実践録(15/50)

次回予告:
「“やらされ感”を“やってみたい”に変えるには?」 〜モチベーションを科学するアプローチ〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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