「決められない病」の処方箋 〜イノベーションを止める“決断疲れ”からの脱出法〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「やるべきことは見えているのに、なぜか決められない」「資料を集めても、結局どうするか決められない」
これは、イノベーションに関わる多くの人が陥る“あるある”です。

情報が多いほど、判断ができなくなる。これは現代における典型的な“決断疲れ”の症状とも言えるでしょう。



なぜ「決められない病」に陥るのか?


意思決定ができない原因は、大きく分けて次の3つに集約されます。

1. 情報過多
「調べれば調べるほど、他にも選択肢がある気がして踏み出せない」

2. 失敗回避志向
「これを選んで失敗したらどうしよう」という不安が、決断を先延ばしにする

3. 合意形成の難しさ
「自分では決めたいが、チーム内の温度差が気になる」

どれもイノベーション現場ではありがちな状況であり、特に組織内で新しい挑戦をする場面では、この“決められない病”が頻繁に顔を出します。

「意思決定=勇気」ではない


「決断できる人=勇気ある人」と思われがちですが、実際には決断とはプロセスです。準備の質と、問いの立て方次第で「納得感ある決断」は可能になります。

決断力を高めるための3ステップ


ステップ1:選択肢を絞る
すべての情報を網羅しようとせず、「現時点での最善」に集中する。
フレームワークとしては、2軸マトリクス(緊急×重要など)やMECE(モレなくダブりなく)が有効です。

ステップ2:「何を守るか」を明確にする
判断基準は「目的」から逆算して設定しましょう。
「このプロジェクトで、最も失いたくない価値は何か?」を明確にすることで、決断にブレがなくなります。

ステップ3:小さく決める・動く
「完璧な正解」は待っていても来ません。不確実性が高い時代だからこそ、「まずは一歩だけ決めてみる」ことが次の情報や判断を呼び込みます。

ケース紹介:チームで動ける決断とは?


あるメーカーの新規事業検討会議でのこと。複数のアイデアが出るも、どれも決め手に欠け、数ヶ月が経過。そこで「まずは、誰に一番響くかだけを検証してみよう」と仮説検証型のアプローチを取り入れたところ、社内の意思決定スピードが飛躍的に上がりました。

“決める”というより、“決めながら考える”スタンスが、現代のイノベーションには欠かせません。

決断における「越境」の視点


最後に重要なのは、“意思決定の壁”もまた越境によって乗り越えられるということです。

  • 現場と経営の視点をつなぐ
  • 感情と論理のあいだを翻訳する
  • 失敗のリスクと、挑戦のベネフィットを両立する


これらを橋渡しするのが、イノベーションのカタリスト(触媒)としての役割でもあります。

まとめ:決断は「技術」である


  • 決断できないのは、情報や基準の整理が不足しているから
  • 判断は、正解を選ぶことではなく、納得できる選択肢を定義すること
  • 越境的な視点が、決断の支援となる




壁を越えるイノベーション実践録(14/50)

次回予告:
「“安心して失敗できる場”が、イノベーションを育てる」〜挑戦の芽をつぶさない“心理的安全性”のつくり方〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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