“出すぎた杭”を育てる組織へ 〜個性や異端を押さえ込まず、力に変えるマネジメント〜
「この技術、ものすごく良いんですけどね……」
技術開発の現場で、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
優れた技術があっても、それが事業にならない——
その背景には、イノベーションの難所として知られる“死の谷(Valley of Death)”の存在があります。
今回のテーマは、「なぜ技術は社会実装されないのか?」そして「どうすれば死の谷を越えられるのか?」という問いに向き合います。
「死の谷」とは何か?
死の谷とは、技術開発の段階と事業化の段階のあいだにある、大きなギャップを指します。
どんなに優れたアイデアや技術であっても、
- 市場性が見えない
- 社内の理解が得られない
- 資金や人材の確保が難しい
などの理由から、日の目を見ずに終わってしまうことが多いのです。
実は、ここには“視点の違い”という厄介な壁が存在しています。
技術者は「ベネフィット」を語り、経営者は「リスク」を見ている
私は、企業のイノベーション支援を行う中で、技術と経営の“あいだ”に横たわる溝を、何度も目の当たりにしてきました。
たとえば——
技術者:「この技術は社会にとって価値があります!」
経営者:「で、それって儲かるの?本当に顧客がいるの?」
技術者は“できること”(シーズ)と“役に立つこと”(ベネフィット)を一生懸命語ります。
一方、経営者は“投資対効果”や“事業リスク”を最優先に見ています。
このすれ違いこそが、死の谷の正体です。
「翻訳者」がいなければ、橋はかからない
このギャップを埋めるには、「どちらの言葉も理解できる存在」が必要です。
技術者の熱意と技術的根拠を、経営者が理解できる“数字”や“戦略”に変換する
経営者の懸念や制約を、開発チームが前向きに受け止められる“問い”に変える
私は、自分のことを「どちらかに優れている人間ではない」と思っています。
けれども、だからこそ、両者の“あいだ”にある壁に、扉を見つけることができる。
その扉を開けて、翻訳者としての橋渡しをする——
それが、私の使命だと感じています。
死の谷を越える3つのステップ
死の谷を超えるには、以下のような視点が有効です。
1. 技術に「ストーリー」を与える
技術の価値は、機能や性能だけでは伝わりません。
「この技術が社会や人の暮らしにどう役立つか」を、ストーリーとして語れるかどうかが鍵です。
“人が主人公”のストーリーに変換することで、経営陣や投資家の心を動かすことができます。
2. 「問い」で価値を引き出す
経営側の「売れるのか?」「リスクは?」という問いに対して、
「お客様は何を解決したいのか?」「本当に困っているのはどこか?」という問いに変換して返す。
“価値の本質”を問う力が、両者の架け橋になります。
3. 小さな成功を“見える化”する
いきなり完成形を目指すのではなく、小さなPoC(実証実験)やプロトタイプを積み重ね、
「この方向ならいけそうだ」と実感できる場をつくることが、組織を前に進める原動力になります。
「橋を架ける人」がイノベーションを進める
イノベーションは、突出した天才が単独で生み出すものではありません。
異なる価値観をもつ人同士の“間”に立ち、
言葉を翻訳し、立場を理解し、信頼をつくる——
そうした“つなぎ手”がいてこそ、アイデアは社会を変える力になります。
まとめ:あなたの技術に、未来はある
技術と経営のあいだには、大きな壁があります。
けれど、その壁はきっと扉になります。
「何を実現したいのか」
「誰を幸せにしたいのか」
その問いがあれば、あなたの技術は、未来につながる力になるのです。
壁を越えるイノベーション実践録(6/50)
次回予告:
共創が生むイノベーションの種 〜“巻き込む力”が未来を拓く〜



