技術と経営の“死の谷”を越えるには? 〜ベネフィットとリスクをつなぐ視点〜
「どうせ言っても変わらないから」
「上が決めることだから、現場が何を言っても無駄だよ」
これは、現場支援の現場で幾度となく耳にする言葉です。
誰かを責めているのではなく、諦めのような、どこか寂しげな響きがそこにはあります。
現場には課題も知恵もある。だけど、それが活かされる場がない。
そのうち、誰も声をあげなくなる――。
“声を上げない文化”が、組織を内側から静かに蝕んでいきます。
「どうせ変わらない」は、本当か?
「どうせ変わらない」と言ってしまえば、楽になります。
自分の責任ではなくなるし、傷つくリスクも回避できます。
けれど、それは同時に「可能性の扉を閉じてしまう行為」でもあるのです。
私が出会ってきた多くの現場では、たった一人の“あきらめない人”が、空気を変えてきました。
「無理だよ」と言われながらも、問い続け、試し続ける人がいたのです。
小さな変化の積み重ねが、風景を変える
ある製造業の現場で、問題解決の研修を3年にわたって実施してきました。
当初は、
「また研修か…」
「うちは何をやっても変わらないから」
という反応が多く、正直、重たい空気でした。
けれど、少しずつ“変化の芽”が生まれていきました。
- 上司に「そもそもこの作業の目的は?」と問いかける部下が現れた
- そのやりとりを見た他の若手が、自分の考えを話すようになった
- 「なんか最近、空気変わったな」とつぶやく声が増えた
そしてついには、「部下の変化に上司がついていけない」と焦るマネージャーが現れるまでに。
「どうせ変わらない」は、思い込みだったのです。
“変化の火”を絶やさないために、必要なこと
組織に変化を起こすために、何より大切なのは「火種を消さないこと」です。
そのために私が現場支援で行っていることを、3つご紹介します。
1. 小さな成功を見つけて、言葉にする
「〇〇さんの提案、みんなで話し合えたの良かったですね」
「それ、前回の研修で出たアイデアですね!」
とにかく“変化が起きている”ことを言葉にして、見える化します。
それが、次の挑戦へのエネルギーになります。
2. 「上司も参加する」研修設計にする
若手だけに期待しても、上が変わらなければ、元に戻ってしまいます。
そこで、若手と上司、双方が共通言語を持てるように研修を設計します。
ときには、部下が自信を持って発表する姿を見て、
上司が「自分も変わらなければ」と語ってくれることもあります。
3. 「誰かのせいにしない場づくり」
「現場が悪い」「上が悪い」ではなく、
“組織”というシステムの中で、私たちは何ができるか?を問う姿勢を徹底します。
そのためには、講師やファシリテーターが率先して「対話の型」を示すことが求められます。
「変われない組織」なんて、本当はない
何年も停滞しているように見えた組織が、
ある瞬間から、まるで別人のように動き出す――。
そんな風景を、私は何度も見てきました。
それは、“正しいこと”を押しつけたからではありません。
- 「あなたにもできる」
- 「この職場は変われる」
- 「少しずつでいい」
そんなメッセージを、対話を通じて伝え続けた結果、組織の中に火が灯ったのです。
まとめ:あきらめない人が、組織の未来をつくる
- 「言っても変わらない」は、過去の出来事でしかない
- 火種は、必ずどこかに残っている
- 一人の“あきらめない人”が、組織の空気を変える
もし、あなたがその“一人”なら、私は全力で伴走します。
壁を越えるイノベーション実践録(11/50)
次回予告:
「現場からのイノベーション」は可能か? 〜「改善」と「革新」のあいだをつなぐ〜



