イノベーションは“現場”から起こる 〜ボトムアップで組織を変える仕掛け〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「イノベーションって、経営層の意思決定が必要なんでしょう?」

よく聞かれるこの問いに、私はこう答えます。

「たしかにそうです。でも、火がつくのは“現場”からです」
イノベーションの芽は、会議室よりも、実は現場の“モヤモヤ”や“違和感”の中にこそ眠っています。



変革の出発点は「現場の違和感」


ある製造業の若手社員が、こんなことをこぼしていました。

「この作業、10年前からずっとやってるけど、本当に必要なんですかね…?」
その一言からはじまった問い直しが、最終的に年間1,000時間の業務削減につながったのです。

このように、現場には“問いのタネ”が無数に埋まっているのです。

なぜ、現場の声は届かないのか?


ではなぜ、こうした「現場の気づき」がイノベーションにつながらないのか。

理由はシンプルです。

  • 「言ってもどうせ変わらない」という諦め
  • 「上司に否定されたら面倒」という遠慮
  • 「前例がないから」という思い込み


“壁”は技術ではなく、コミュニケーションと心理的安全性の中にあるのです。

小さな挑戦から、組織は変わる


私が研修でよく取り入れるのが「1日1問い直しワーク」。

「今日、自分の仕事の中で“当たり前”を問い直してみよう」というだけのシンプルなものですが、これを1週間続けるだけで、現場の視点が変わります。

「この順番、変えたら早くなるのでは?」
「この説明、相手にとって本当に伝わっているか?」

“言われたことをやる”から、“考えて動く”へ。
そんなマインドの変化こそが、イノベーションの種になるのです。

「ボトムアップ」を機能させる3つの鍵


現場発の変革を組織として活かすには、以下の3つがポイントになります。

1. 安心して「おかしい」と言える場をつくる
まず必要なのは、正直に違和感を言える心理的安全性です。

「どんな意見でもまず受け止める」
「批判ではなく“問い返し”で返す」
こうした文化が育つだけで、発言は倍増します。

2. 小さく試す余白を残す
アイデアがすぐに稟議や実行計画に吸い上げられると、現場は萎縮します。

「小さく試してOK」「失敗しても学びに変える」
そんな“試行の余白”を制度として認めること
が大切です。

3. 経営とつなぐ“翻訳者”の存在
現場のアイデアは、経営層から見ると「夢物語」に見えることもあります。

そこで、現場と経営の両方の“言語”を理解し、翻訳する役割が求められます。

私自身、かつて技術者と経営企画のあいだで何度もその橋渡しをしてきました。
まさに、イノベーションを起こす「カタリスト(触媒)」としての働きです。

「ひとりの問い」が、組織を動かす


実際、私が支援したある企業では、若手の「なぜこの手順が必要なのか?」という疑問からスタートし、最終的にはその業務そのものの廃止につながりました。

上司はこう振り返っていました。

「あの一言が、みんなを目覚めさせてくれた」
そう、イノベーションは特別なことではありません。
「このままでいいのか?」という、ひとつの“問い”から始まるのです。

まとめ:現場こそ、未来を動かす原動力


イノベーションは、経営会議で生まれるのではなく、現場の気づきから育つもの。
それを活かすには、組織に“耳”と“余白”と“翻訳”が必要です。

「あなたの問いが、会社の未来を変えるかもしれない」

私はこれからも、そんな“問い”に火を灯し続けたいと思います。



壁を越えるイノベーション実践録(9/50)

次回予告:
上司が変われば、現場が変わる 〜マネージャーに求められる“問いの力”〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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