壁は、思考の中にある 〜創造性を阻む“思い込み”を超える方法〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「私にはアイデアを出す才能がないんです」

これは、研修やコーチングの場でよく耳にする言葉です。でも、私はこう答えるようにしています。

「アイデアが出ないのではなく、“出さないように”脳がブレーキをかけているだけですよ」

私たちの創造性を最も制限しているのは、実はスキルや知識の不足ではありません。思考の“クセ”、つまり「思い込み」が、その源泉をふさぎこんでいるのです。



“自由な発想”ができない理由


たとえば、新製品のアイデア出しの場で、こんな言葉が出てきたとします。

「お客様が混乱するかもしれません」
「社内で稟議が通らないですよね」
「この前失敗したし……」

これらの発言には一見、理屈が通っているように思えます。でも、その背後には、

「うまくやらなければならない」
「失敗してはいけない」
「常識から外れてはいけない」
という“思考の壁”が隠れています。

壁の正体は、「正解を求めすぎる心」

日本の大企業では、特に「正解を出すこと」が重視されます。学生時代から続く「減点方式」の価値観が、思考の枠をつくってしまうのです。

しかし、イノベーションにおいて「正解」など、最初から存在しません。むしろ、“変なアイデア”こそが突破口になることが多いのです。

つまり、「正しくあろう」とする気持ちが、創造性の芽を摘んでしまっているのです。

「思考の壁」を超える3つの仕掛け


では、どうすれば思考の壁を超えて、創造性を解き放つことができるのでしょうか。

私が実際の研修やコンサルティングで取り入れている方法を、3つ紹介します。

1. あえて「常識外れ」を言語化するワーク
たとえば、「この製品を宇宙人に売るには?」といった“とんでもない”お題を出します。

一見ふざけたワークですが、既存の価値観から一度離れることで、脳が解放され、本質的なニーズが見えてくるのです。

2. 他業界の視点を持ち込む
たとえば自動車業界の研修で、「飲食店の接客サービスに学べることは?」と問いかける。

異なる業界の事例を通して、固定された自社の“当たり前”を揺さぶることができます。

3. “失敗談”の共有から始める
「私も以前、アイデア出しの会議で一言も発言できなかったんですよ」――そんなエピソードを講師が先に共有すると、参加者の警戒心が解けます。

自分だけが“できていない”のではない、と感じた瞬間、人は前に出る準備が整うのです。

それでも「出ない」ときはどうする?


それでもアイデアが出ないときがあります。そんなときに大切なのは、「出すこと」を目標にしないことです。

むしろ、「考えることを楽しむ」「誰かの発想に乗っかってみる」といった、“遊び”の感覚を持ち込むことが効果的です。

思考を“働かせる”のではなく、“躍らせる”。

この感覚を得たチームは、必ずイノベーションの種を見つけます。

まとめ:扉の鍵は、あなたの中にある


「私は創造的ではない」と思っている人のほとんどは、ただ、思考に壁をつくっているだけです。

その壁は、自分の手で開けられます。

「正解でなくてもいい」
「ちょっと変でも、言ってみる」

そう思えた瞬間、あなたの中に眠っていた創造性が、扉を開けて飛び出してくるはずです。



壁を越えるイノベーション実践録(3/50)

次回予告:
「問い」が変われば、未来が変わる 〜イノベーションを導く“問い”の力〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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