“安心して失敗できる場”が、イノベーションを育てる 〜挑戦の芽をつぶさない“心理的安全性”のつくり方〜
「イノベーション」と聞いて、あなたはどんな光景を思い浮かべますか?
最先端のテクノロジーを使った新製品、AIやロボット、あるいはベンチャー企業による破壊的なビジネスモデル。そうしたイメージが頭に浮かぶ方が多いかもしれません。
確かに、それもイノベーションの一側面です。しかし、私が現場で向き合ってきた「イノベーション」とは、もっと身近で、もっと人間的な営みでした。
「変化」を起こすこと、それがイノベーション
イノベーションとは、単に“新しいもの”を生み出すことではありません。私の定義はこうです。
"イノベーションとは、人や組織に“変化”をもたらすこと。"
そして、変化とは決して技術だけで起こせるものではないのです。どれほど優れた技術があっても、人が動かなければ社会は変わりません。
私が富士写真フイルムでX線画像診断システムを開発していた頃、技術的には世界一と胸を張れる製品がありました。けれど、それを使いこなしてもらうには、病院の現場で「変わってもいい」と思ってもらうことが必要でした。
トヨタで超小型モビリティを企画したときも同じです。法制度の壁、既存の車社会の常識、社内の前例主義……数々の“壁”が立ちはだかる中で、変化を起こすためには、人の心を動かす必要がありました。
“愉快”が変化の起点になる
イノベーションの現場で私が何度も実感してきたのは、「愉快」が変化の火種になるということです。
「これ面白いかも」「やってみたい」
そんな感情が芽生えたとき、人は自然と前に進みます。逆に「やらされている」「正解がわからない」といった重たい空気の中では、どれほど優秀な人材でも動けません。
だから私は、企業研修でもコンサルティングでも、最初に「場を愉快にすること」にこだわっています。
「眉間にしわを寄せた状態」では、イノベーションは生まれない。
これは私の実感であり、信念です。
「技術」だけでは変わらない
私は20年以上、開発者としてさまざまな現場に立ち会ってきました。ロボット、医療機器、モビリティ。どれも素晴らしい技術でした。
けれど、社会を変えるには技術だけでは足りない。そこにいる人たちが、笑顔で、対話し、共に前を向けるようになって初めて、変化が始まるのです。
顧客と開発陣。
現場と経営。
理系と文系。
論理と直感。
それらの「あいだ」には、しばしば“壁”があります。でも私は、それを「扉」だと思っています。
どちらにも寄りすぎないからこそ、両者を“つなぐ”。
それが、私の役割であり、信じている支援のあり方です。
まとめ:最初の一歩は、「変わってみようかな」と思える場から
「イノベーション=すごい技術」
そう思っているうちは、なかなか変化は起きません。
「イノベーション=変化」
「変化=愉快」
そう考えることで、誰もが、どんな職場でも、小さなイノベーションを始められるのです。
次回からは、そんな“愉快な変化”を生み出すための実践的なヒントをお届けしていきます。
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壁を越えるイノベーション実践録(1/50)
次回予告:
「世界を変えるのは眉間のしわじゃない」 〜変化を生む空気と感情のマネジメント〜



