リスニングの真実/苦手が満点に
受験シーズンも大詰めですが、そういえばこんなことがありました。
大手予備校に勤務していた時代の話です。受験もひと通り終わり、ほっと一息つきかけた時です。北陸地方のとある短大の関係者がお二人、予備校を訪ねて来られました。少子化の時代にあっては大学が高校や予備校を訪れて生徒募集をするのは当たり前の風景です。生徒さんを「入れてやる」時代ではなく「入って頂く」時代になっています。
しかしながら時期を鑑みるに、来年度募集の時期ではありませんし、本年合格者の報告には早すぎます。怪訝に思いながら(当時)予備校校長だった当館が応対いたしました。お名刺を拝見しますとお一方は入試担当の教授、もうお一方は事務方の課長さんだったと思います。
「つかぬことをお伺いしますが、失礼ですが、御校に大学に受からなかった生徒さんはいらっしゃいませんか?」
質問の意味をつかみかねておりますれば「もし進学先が決まっていない生徒さんがおられましたら本学の特別入試を受けてみたら如何でしょうか?」「まだ本年度の募集枠に余裕があります。今からでも入れますから如何ですか?」と必死の面持ちで仰るのです。
事の次第が飲み込めました。学生数の充足には大学の生き残りがかかっています。定員が埋まらなかったのだと察しがつきました。そこで、その時点で進路が決まっていなかった男子生徒さんお一人を紹介しました。もちろん事前に本人にお話をして了解を取りました。「話は聞いてもいい」ということでしたのでお引き合わせしたのです。
すると担当者お二人は生徒さんを伴って「お茶でも飲みませんか」と出ていかれたのです。「面接をします」とのことでした。30分ほど経ったでありましょうか。戻ってきた大学関係者のお顔が心持ち上気しておられます。
「合格です!」
「???」
「面接を実施しましたところ合格しました」と仰います。「~~君、是非、本学で一緒に頑張りましょう!」と熱く語りながら帰っていかれました。残されたご本人はポカンとしています。
「どうだったん?どういう意味?」と御本人に尋ねましたら「喫茶店へ連れていかれて世間話をしただけ、いきなり合格って言われても・・」と困惑しておられます。「せっかくご好意を示して下さったんだから思い切って進学する手もあるんじゃない?」と言ってみたのですが、「こんなことのために浪人したんじゃない、行かん」と憮然となさっています。
大学もここまで追い込まれているという現実があるのです。その短大は程なく廃学になりました。富山でも昨年、4年制大学が募集停止になっています。少子高齢化の中で受験産業を取り巻く環境は冬の時代を通り越して氷河期に入っていると言えるでありましょう。一方、射水市に新たな4年制大学開学の予定が発表されたりしています。氷河期だからこその攻めの姿勢も面白いやもしれませぬね。