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リーダーシップの5つの要素・君臣一体の組織作り|最高の戦略教科書『孫子』を読む⑥

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テーマ:孫子の兵法

リーダーシップの5つの要素|五事

 いよいよ、拙著『孫子』の本文に入っていきたいと思います。お話したとおり、『孫子』の中核となり柱となっているのはたったの3つ。すなわち、

  1. 五事
  2. 彼を知り、己を知らば、百戦して危ふからず
  3. 情報

ここからの解説は、わずかこの3つのことだけです。世界最高の兵法書の教えを、是非学び身につけてください。今回からは、経営者やリーダーが知りたいリーダーシップについて、孫子が5つのことを備えなさいよと説く「五事」を見ていきましょう。これを知る者が勝つと説かれる要素です。

一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く將、五に曰く法。(中略)之を知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。(天野鎮雄・著『孫子 呉子』)23頁


『孫子』冒頭の計篇にて、指揮官が備えるべき要素|リーダーシップとして、

この五つの要素を説いています。それぞれ

道とは民をして上と意を同じくせしむるなり。
天とは陰陽・寒暑・時制なり。
地とは遠近・險易・廣狹・死生なり。
將とは智・信・仁・勇・嚴なり。
法とは曲制・官道・主用なり。           (前掲『孫子 呉子』)23頁

と述べられるものです。どのようなものか、さっそく見ていきましょう。

道|「民をして上と意を同じくせしむる」一枚岩の突破力

 これはリーダーと部下が一体となっていること、つまり「君臣一体」を表します。上下がお互いに理解し、どこまでもリーダーについていこうとなっている状態です。洗脳や恐怖、力と言ったもので構築される関係ではなく、また共通の利害によって結ばれるものでもありません。「信頼」によって立つものであることに留意しなければなりません。リーダーがこれを備えている組織は平時から強力でありますが、危機的状況において最も力を発揮します。逆の場合は、沈む船から鼠が逃げ出すが如く、人は逃げ去ります。

欲得ずくの御家来衆は 上辺つくろい 附いては来るが 嵐が来れば 見えもへちまも あるものかはと お前を棄てる(シェイクスピア・著、福田恆存・訳『リア王』)76頁

「四大悲劇」の作者として知られる、ウイリアム・シェイクスピア。その戯曲『リア王』に登場する、リア王お付きの道化の台詞です。利害のためについてきている者は、そうとは知られぬように表面上は取り繕っているが、嵐―困難や危機が襲来すれば、アッという間に関係を絶ち逃げ出してしまう。この部分は、古今東西変わらぬ、そんな関係の脆さをズバリ指摘する内容となっています。
 秀吉亡き後の豊臣家は、まさにこの状態だったではないでしょうか。そんな秀吉と対照的に、君臣一体の関係にあった、徳川家康の言葉を見ておきましょう。

リーダーが真にお宝とすべきもの

我等を至極大切に思入り、火の中、水の中へも飛入り、命を塵芥とも存ぜぬ士五百騎所持致したり、此士共を至極の寶物と存じ平生秘藏に致たす。(岡谷繁實・著『名将言行録』後編・上巻)69頁

(大意)私のためであれば、例え火の中水の中であっても、飛び込んでくれるような部下が五百人おります。彼らを最高の宝物とし、普段から大事にしております。

 豊臣秀吉が、集めてきた宝物を自慢しながら、家康はどんな秘蔵のお宝を所持しているのかと尋ねた時に答えたものです。具体的に挙げられている「粟田口吉光の銘の物」は、現在皇室所有の刀であり、集めた天下の宝はまさしく自慢に値するものだったことに間違いありません。だからこそ、「私のためならば命をも惜しまない臣下」を秘蔵の宝という答えは予想外のものであり、すぐに思い浮かぶような臣下もいなかった故に、赤面して何も答えられなかったのです。二人の命運を分けた原因の一つは、まさにここにあります。

絶体絶命の状況から復帰できた、徳川家康の組織力

 もう一つ、家康の事例を見ておきましょう。本能寺の変の一報を受けた時、家康は現在の大阪府にいました。大至急三河へ戻らなければならない状況のなか、家康が選択した最短経路は伊賀越え。明智光秀の手の者だけではなく、土豪や落ち武者狩り、山賊・盗賊などが跋扈する八方敵だらけに対し、家康は総勢わずか三十人。絶対不可能に思われたこの脱出劇を切り抜けたのも、「君臣一体」の賜物です。第一の難関・山城越えは本多忠勝・茶屋四郎次郎清延が、最大の難関・伊賀越えは徳川四天王と呼ばれる榊原康政・酒井忠次・井伊直政・本多忠勝が中心となり、君臣共に知力・財力、そして死力を尽くして突破に成功しました。(『その時歴史が動いた』29巻114頁~159頁)
 家康が「道の利」を備えていなかったならば三河へ生還することはできず、歴史は変わっていたことでしょう。歴史を分け得る―それほど影響を及ぼす要素です。
 「道の利」の項目はもう少し続きますが、今回はここまでといたします。

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都泰寛(講師)

株式会社因幡古典探究舎

漢学や古典を多様な視点からわかりやすく読み解き、ことわざや近現代の書籍、ビジネス書なども活用して講座や勉強会を開催。教養や読解力を身に付けるだけでなく、教育やビジネス、実生活に役立つ学びの場を提供。

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