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風通しの良い組織づくり|帝王学の教科書『貞観政要』を読む④ー2

都泰寛

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テーマ:貞観政要

特定の人を偏り信じる弊害を掘り下げよう

 前回は、風通しの良い組織や風土づくりについて、帝王学の教科書『貞観政要』の「兼聴」―隔てなく意見を求めるという言葉をとおしてお話しました。今回は、魏徴が述べた言葉の続きをとおして、偏った意見の聞き方がもたらす禍について見ていきましょう。

風通しを悪くする原因

 歴史を振り返ってみると、リーダーが組織の実態や内情を知らない間に、取り返しのつかない事態まで悪化し、そのまま瓦解…このような事例は枚挙にいとまがありません。拙著『人格修養のすすめ』ではその事例の1つとして、ナチス政権を取り上げています。なぜそうなるのでしょうか。ここではその原因について探求してみましょう。

リーダーへの情報を遮蔽する存在

 特定の人物の話ばかり聞くことを「偏信」と教えられますが、その「特定の人物」とは、多くの場合、常に近くにいる存在―所謂「側近」と言われる存在です。この側近の人選も、安定した組織運営や風通しの良い組織や風土づくりには大事な要素になります。
 この側近の人選についても、『貞観政要』では言及されていますが、それはまたの機会に触れることにします。地位が高くなればなるほど、上げるべき情報は順を追って精査されたものになりますので、当然リーダーへ直接入ってくる情報は少なくなります。問題は、リーダーへ入る情報の、直接の橋渡し役となる人物です。ここに信頼に足る人物をあてなければどうなるでしょう。
 人間にとっての善人・悪人の定義は、大多数の人間にとって、自分にとって都合が良いか・悪いかで決まります。自分の利益にならなかったり、地位を脅かしたりする可能性があれば、どんなに公益にかなう情報であっても「都合の悪いもの」にしかなりません。側近の人選を誤ると、組織やリーダーにとって有益であっても、ここで止まってしまい入ってこなくなるのです。魏徴はその事例として

  • 宦官・趙高を偏信した秦の2代皇帝・胡亥
  • 高官・朱异を偏信した梁の武帝
  • 宰相・虞世基を偏信した隋の煬帝

を取り上げています。上記で述べた、拙著『人格修養のすすめ』で取り上げたナチス政権においては、ヒトラーの秘書長を務めていたマルティン・ボルマンがピッタリ当てはまります。
 ボルマンは「自分の都合」をモノサシとしてヒトラーに上げる情報を選別していたために、ヒトラーは判断を誤り続けることになったのです。意見が受け入れられない・却下される事態がまかり通るのは、まさにこれがためであります。
 また、ボルマンはヒトラーの側近たちの弱味まで握っていたために、高位にあった古参の党員や古株すらなす術がありませんでした。「影の総統」と呼ばれていた理由が、よくお分かりになるかと思います。ボルマンが秘書長となってからのナチス政権は、およそ考え得る限りの最悪な組織となってしまっていたのです。古語に曰く、殷鑑遠からず(※)。絵に描いたような組織運営の失敗の手本として、また前車の覆轍(※)として、我々は学ばない選択肢はないでしょう。

側近の人選は、慎重を期すべし

 今回は、組織の風通しが悪くなる原因について、「偏信」がもたらす弊害の大きさをとおして掘り下げました。側近の人選は、往々にして得失を分けます。能力だけをみて判断することがないように…そんな視点を、新たに取り入れてみてはいかがでしょうか。
 今回はここまでといたします。最後に、今回の『貞観政要』の文言を掲載しておきます。

殷鑑遠からず…我々が手本・戒めとすべきものは、遠い歴史を振り返らずとも近くにある、ということ。

前車の覆轍…先でひっくり返ってしまった、前を進んでいた車のわだち。後人が戒めとすべきこと。

人君、兼ね聴きて下を納るれば、則ち貴臣、擁蔽するを得ずして、下情、必ず上通するを得るなり、と。太宗甚だ其の言を善しとす。(原田種成・著『貞観政要』33頁)

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都泰寛(講師)

株式会社因幡古典探究舎

漢学や古典を多様な視点からわかりやすく読み解き、ことわざや近現代の書籍、ビジネス書なども活用して講座や勉強会を開催。教養や読解力を身に付けるだけでなく、教育やビジネス、実生活に役立つ学びの場を提供。

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