風通しの良い組織づくり|帝王学の教科書『貞観政要』を読む④
組織運営について
安定し、尚且つ円滑な組織運営を行う方法は、いつの時代も需要が尽きぬ話題です。組織運営における管理職の役割、円滑にするにあたって必要なリーダーシップやマネジメントなどなど…今回はそんなお悩みに答える、『貞観政要』の次の文言を見ていきましょう。
若し天下を安んぜんとせば、必ず須く先づ其の身を正すべし。未だ身正しくして影曲り、上理まりて下亂るる者は有らず。朕常に之を思ふ。其の身を傷る者は、外物に在らず。皆、嗜欲に由りて、以て其の禍を成す。(原田種成・著『貞観政要』29頁)
前回の太宗・李世民の言葉の続きになります。リーダーは必ずまず人を大事にすべきことを説いたうえで、「天下」―この言葉は「組織」と読み替えると良しょう―「天下を安んぜん」とは「安定した組織運営をしたいなら」ということになります。ここに目が釘付けになる方もいらっしゃるかもしれないですね。そのためにはどうするのかと言いますと、「必ず須く先づ其の身を正すべし」―「必ずまずすべきことがある。それは、身を修めることだ」と説かれます。
組織に与える、リーダーの影響|良くなるも悪くなるもリーダー次第
そう聞きますと、こんな声が聞こえてきそうですね。
- ええ?組織内の人間関係やマネジメントが知りたいのに、「身を修める」とはどういうことや?
- 「身を修める」とやらで何で組織運営が安定するんだ?
- 意味が分からない。なんか期待外れだな…
ちょっとお待ちを。結論を出すのは、最後まで聞いてからでも遅くありませんよ?
組織に与えるリーダーの影響とは、普段あまり意識しないかもしれませんが、大なるものがあります。「君主(リーダー)が好むものは、臣下(部下・民)もまた好むようになる」と中国古典では説かれます。実際の歴史をみても、奢侈淫逸(しゃしいんいつ・贅沢や女性を好むこと)な君主の元では、臣下もまた同じようになり、民もまた贅沢に走ったという事例はいくらでもあります。リーダーとは、見本であり模範です。そのリーダーが自らの人格を磨くことなく、
- 人を使い捨てのコマのように扱う
- 独りよがりで人の話をまったく聞かない
- 物品を大事にしない
- 自分のことしか考えない
このような人間だったらどうでしょうか。断言してもいいですが、そんな組織の人員もまた、物を大事にしなかったり、自分さえ良ければ構わないと考えていたりするものです。そして、常に外にしか目が向かない人間は、自分のことは棚に上げて、人を責めます。人間の愚かさは、実にここにあります。部下からすれば、「アンタは人のことを言えるのか」と口に出さずに行動に出しているのですが、内に目が向かない限り、気が付くことはありません。ますます上と下はバラバラになるので、安定した組織運営などできるはずがないのです。有効な管理・マネジメントもまた然り。このことを、太宗・李世民は
「未だ身正しくして影曲り、上理まりて下亂るる者は有らず。」(前掲『貞観政要』29頁)
と喝破している次第です。直立しているのに影が曲がっているという現象は存在しないように、リーダーが身を修めているのに下が乱れて統制がとれないということは未だかつて存在しないとまで断言されています。
蒔いたタネは必ず生える
世に広く、また数多く出回っているのは、大半が小手先の人心掌握術に分類されるもので、即効性に優れる分、長続きはしません。その一方で、中国古典に基づいて身を修めることは、即効性はない代わりに、一定の水準まで到達したならば、必ずその効果を実感することができます。蒔いたタネは必ず生えます。中長期的な視点で、この中国古典に基づく帝王学を取り入れることで、円滑かつ安定した組織運営や強力なリーダーシップ、組織力を引き出すマネジメントが可能となるのです。それは、この帝王学の教科書『貞観政要』が説いているとおりですね。
魏徴の同意
側近の魏徴は、古代中国・楚の賢者である詹何(せんか)が、組織を治める要諦を聞かれた際に「ただ身を修めるだけです」と重ねて答えた逸話を引き、太宗の言葉に同意しています。「身を修める」―指導者が人格を磨くことこそが組織運営の要諦です。この視点は、まったく新たなものであると言えるかもしれませんね。納得いかない方ほど、是非実践しましょう。
学問に基づく組織運営に関する、コンサルやセミナーなどをご希望される方は、お気軽にお問い合わせください。中国古典に基づく帝王学は、大きな力となってくれることでしょう。
今回はここまでといたします。



