組織を長久に保つ心得「居安思危」について掘り下げよう|帝王学の教科書『貞観政要』を読む⑤ー3
帝王学の教科書を読んでいこう
帝王学の何たるかについてばかりで、肝心の説かれている典籍の内容について書いていませんでした。そこで、その教科書と目される『貞観政要』について、少しずつ読み進めていきたいと思います。拙著『人格修養のすすめ』では紙幅の都合上、すべてを取り上げることができなかったので、全編を通して、解説をしていきたいと思います。
『貞観政要』とはどんな古典?
『貞観政要』と申しますのは、中国史上最高の名君と誉高い、唐の二代皇帝である太宗・李世民と側近・臣下との問答がまとめられた歴史書であり、思想書であり、哲学書です。誕生したはずの中国ではあまり重用されることがなかった一方で、我が国では古くから、多くの天皇や将軍、経営者といったリーダー層に読まれてきました。その故は、経営者やリーダーが備えるべき学問教養・帝王学が最大限に詰まっているからです。
- 安定した組織運営
- 長久に組織を保つのに必要な考え方
- リーダー育成
- リーダーシップ育成
- 人材育成
- 組織力の引き出し方
これらは凡そ、今日の経営者たちの興味関心が尽きることがないであろう要素ではないでしょうか。組織を運営していくうえで欠かせないことがすべて収まっているのが、この中国古典です。帝王学の「教科書」と呼ばれるのも頷けることでしょう。世の中の社長さんも驚天動地の知恵が、そこにあります。
中国古典を学ぶにあたって大事なこと
岡田英弘先生は、その著『妻も敵なり』の中で次のように述べています。
漢籍に「書かれていないこと」のほうが、実は中国理解にとって本質的に重要なのである。(岡田英弘・著『妻も敵なり』11頁)

これは『貞観政要』も例外ではありません。例えば、冒頭の「君道篇」にある次の文言を見ましょう。
君たるの道は、必ず須く先づ百姓を存すべし。(原田種成・著『貞観政要』29頁)
リーダーたる者は、必ず是非ともすべきことがある。それは「人」を大事にすることである―
ここには書かれていませんが、実は「形」以上に、「心から」大事にすることが肝要です。
見えないようで見える形をとって表れる、「心」
『貞観政要』を読む者は、「そうか、人を大事にすればいいんだな」と理解します。ところが、「心から」大事に思っていなければ、むしろ逆効果になることを知らねばなりません。例えば、「俺に意見をぶつけろ!」という意気込みに応えて、せっかく意見を出してくれていても、この心がないとどうなるでしょう。
- 上の空になっている態度
- 「なんだそんなことか」といった内心の不満
- 生返事
このように「目に見える形」となって、本心は無意識に表れています。気づいていないのは、本人だけ。相手の耳目には、ハッキリと聞こえ映っています。こんな態度を取られた方は、「なんだ。人を大事にするなんて口だけじゃないか」とあきれ返ってしまいますね。『貞観政要』を単独で学んでも、成果として出ていないことが多いのは、これがためです。「書かれていない」ことを読み取る力があった者が、誰に教わらずともその教えを体得できていた―まずはこれを理解しましょう。
『人格修養のすすめ』の書名の由来
人格を陶冶するとは、則ち心を鍛錬するということ。帝王学とは、このための学問教養です。故に、『貞観政要』の「本質」を、書名として表したのが、拙著『人格修養のすすめ』になります。『貞観政要』を学んでみたい方は、是非とも手に取ってみてください。疑問点やもっと学びたい方は、お気軽にお問い合わせいただけたらと思います。
今回はここまでといたします。『孫子』も進めたいところではありますが、他のシリーズも併せつつ、読み進めていきましょう。



