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日産の迷走について

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テーマ:時事

帝王学の視点から考える、日産の再建

 日産が迷走を続けている。役員の責任を果たさぬまま、報酬だけはキッチリもらって退任するという責任感の欠落ぶりと、その無理筋をとおし、人を大事にしない組織。凋落は当然の帰結と言えるだろう。職責を果たしてこなかったのであれば、最低限、役員報酬の返上はすべきである。
 行っている事業の経験や知識は大事だが、それ以上に経営者やリーダーに必要となるのが、学問教養である。組織運営の考え方や判断基準・経営戦略、また人材育成などを適切に行うには、指針や参考にするべきものがないと困るが、学問はそれを授けてくれる。これを、高橋是清は次のように指摘する。

ある一部の人は『學問ばかりあつたつて、世の中といふものは判るものではない。世間には、學問以外、理屈以外のことが澤山あるではないか』といつてゐる。なるほど、これも一理はある。だが、大體において、ある程度の學問の基礎がないと、物事に對する判断を誤ることが屡々ある。(高橋是清・遺著『随想録』)124p

 帝王学の教科書『貞観政要』や、渋沢栄一や漢学の大家・諸橋轍次が大いに勧める『論語』といった中国古典は、まさにリーダーに必要な資質が凝縮された、必読の指南書となっている。これらに説かれている教えを学び、実践をとおして己の人格を陶冶していく。知識や技術、経験とは別に、自らを鍛錬していかねばならない。その先には、全幅の信頼を与えられるリーダーとなった自身が待っている

我々技術員のみならず、現場の職制全員が中村さんに対して強い信頼感をもっていた。この良好な人間関係があったからこそ、中村さんが以後計画された全プロジェクトに対し、部下全員が積極的な協力をしたのです。(和田明広・編『主査 中村健也』)61頁


気位の高い職人は、並大抵の器では認めてくれない。初代クラウン開発の総責任者・中村健也は、1つの完成された、理想的なリーダー像である。帝王学を体得することで、このように、組織の力を最大限引き出すことが可能となる。経営者やリーダーが努めるべきは、『貞観政要』が説くところの「其の身を正す」であることを、誤ってはならない。されば、リーダーシップは意識せずとも発揮することもできる。目標地点としては高いものになるが、高橋是清が1つの目安を示している。

職務に成功し業を成就せんとするには、先づ以て修めたる學問を活用せねばならぬ。正直であらねばならぬ。忠実であらねばならぬ。誠心誠意であらねばならぬ。其分に安んぜぬばならぬ。剛直にして人に對して敬愛の念を有し、以て信用を博さねばならぬ。自惚心を起こしてはならぬ。確実の目的なしに借金してはならぬ。強き信念を有し、且つ不撓不屈の忍耐力を有せねばならぬ。かうした諸要件を具備した若き人々にして、始めて赫々たる成功の彼岸に到達し得るのである。(前掲『随想録』)144~145p

ここを目標地点に、鈴木貫太郎の奉公十則の1つ「常に徳を修め智を磨き日常の事を學問と心得よ」を心掛けていくのが良いだろう。

日産の自動車技術の歴史

 「技術の日産」の「技術」は、かつて吸収合併(国によって進められた業界再編)した「技術のプリンス自動車」の「技術」だ。プリンス自動車は紆余曲折があって社名を何度か変更しているが、その技術力の大元は「立川飛行機」と「中島飛行機」まで遡る。特に中島飛行機は、かの有名な戦闘機「零戦」に搭載されていたエンジン「栄」の他、「誉」などの強力なエンジンを開発したことで知られている。「日産スカイライン」で知られるスカイラインも、元はプリンス自動車の技術で開発されたもの。富士スピードウェイで行われた第3回日本グランプリでは、トヨタやポルシェといった強豪たちを相手に優勝している。並外れた「技術」―日産が宝と誇り、また守るべきものとは、その技術をもつ「」である。日産の上層部や株主がこのことを理解しない限り、真の再建を果たすことは困難を極めるだろう。

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専門家

都泰寛(講師)

株式会社因幡古典探究舎

漢学や古典を多様な視点からわかりやすく読み解き、ことわざや近現代の書籍、ビジネス書なども活用して講座や勉強会を開催。教養や読解力を身に付けるだけでなく、教育やビジネス、実生活に役立つ学びの場を提供。

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