トヨタ 伝説の大主査―中村健也
組織の力を引き出すリーダーの鑑|帝王学の体現者
今回は前回の続きをみていきましょう。以下の言葉についてでした。
中村主査という人は、「他人をいつの間にか信じさせ、従わさせてしまう大きな人。人にどんなことを言われても怒らぬ何と懐の深い人。目的がはっきりしており、責任感が強く、人を見る目があり、この世の中にこれほどの大人はまずいない」と思った。自然のうちにすべてを知り、自ら動く実行力と信念の人であった。(和田明広・編『主査 中村健也』)35頁
身を修める|修養の1つの到達点
「目的がはっきりしており、責任感が強く、人を見る目があり」―我々日本人が昔から大事にしてきた美徳は、人格が十分に修養されているならば自ずと付随しておるとは、内閣総理大臣も務めた高橋是清の指摘のとおりです。まずは、はっきりした目的から見ていきましょう。
リーダーにとっての目的
チームや組織が同じ方向を向き、進む上で目的が重要となるのは、言うまでもありませんね。リーダーにとって、目的とはさらに大事な意味合いをもちます。
それは、行動の一貫性を与えるものだからです。ハッキリした目的があれば、言葉も行動もピタリと合致したものになります。所謂、「言行一致」ですね。向かうべき明確な到達点の有無は、成否を分け得るものになります。言動や決定が二転三転するリーダーは、このような判断をする際の基準・モノサシがないので、ブレるんですね。組織やチームの士気も上がりません。中村健也は「国産自動車の単独開発」という不動の大目的がありました。当然、技術を高めねばなりませんし、人材育成も併せて行わねばなりません。この大目的に沿った開発方針であり、またリーダーシップを発揮したからこそ、初代クラウンの開発プロジェクトは成功させることができ、「世界のトヨタ」の技術力を培うことができたのです。
並外れた実行力
「自ら動く実行力と信念の人」―組織やプロジェクトの大きさに比例して、トップの身軽さは失われるものですが、中村健也は違いました。用事があったり、また確認したいことがあったりすると、担当者のところまで足を運んでいたのです。度々リーダーの所在が不明になるのも困るという事情もあるが故に、普通は呼んで来てもらうことになるわけですが、中村健也は呼び付けるようなことはしませんでした。自らの目と耳で把握するように努めていたのです。
重責を担う責任者が直接足を運んでくれる―これは現場の士気にも良い影響を及ぼします。だからといって、リーダーは常に、直接現場へ向かえとは言いません。あくまでも、士気を高める手段・また実態を正確に把握する手段の1つとして理解していただきたいところです。
ビジネスにおいて、このようなリーダーシップを発揮することは、組織の力を引き出すうえで欠かせないものになります。3回に分けましたが、引用した言葉についてはここまでにしたいと思います。続きはまた次回以降に。



