トヨタ・中村健也にみる「帝王学」 ①ー③
組織の力を引き出すリーダーの鑑|帝王学の体現者
今回は前回の続きをみていきましょう。以下の言葉についてでした。
中村主査という人は、「他人をいつの間にか信じさせ、従わさせてしまう大きな人。人にどんなことを言われても怒らぬ何と懐の深い人。目的がはっきりしており、責任感が強く、人を見る目があり、この世の中にこれほどの大人はまずいない」と思った。自然のうちにすべてを知り、自ら動く実行力と信念の人であった。(和田明広・編『主査 中村健也』)35頁
懐の深い人とは
「人にどんなことを言われても怒らぬ何と懐の深い人」―どんなことを言われても怒らぬ人というのは、残念ながら存在しません。欲が邪魔されれば怒り、怒ってもどうにもならない時は、妬み嫉みの心がとぐろを巻く。それが人間の実相です。実際怒っていないじゃないか、と反論されましても、腹の中は煮えくり返っています。つまり、ビジネスやリーダーシップにおいて大事なことは、「怒らない」ではなく、腹が立っても『表情などの、「見える形」で表さないこと』になります。簡単に思えるかもしれませんが、「言うは易く行うは難し」の典型です。顔や態度に出さないようにするには、相当の修養が必要になります。これが十分に行われているならば、傍から見ると「懐の深い人」となるのです。腹を立てない・怒らない人間がいるのではありません。帝王学を学んで行く際にここを誤ると、「どうしても腹が立ってしまう」と悩み、進めなくなってしまいます。人材育成の際にも、ここは気をつけねばなりません。
隔てなく聞き求める「兼聴」を事例に
帝王学の教科書『貞観政要』の「兼聴」についても、「腹を立てずに聞こう」と思うとできません。実際、『貞観政要』の主役である太宗・李世民も、重臣・魏徴の諫言に度々腹を立てるどころか、強弁したり激怒したりしている様子が伝わっています。心の中で、怒りの蛇がのたうち回っているところを、グッとこらえて顔や態度に出さない。リーダーでなくとも、これができているか否かで周囲の評価は違ってきます。逆を言うなら、リーダーなら尚更です。不機嫌な顔や不快な様子を前面に出し、あまつさえ睨みつけたり近くの物を叩いたりするようなことがあれば、もはやついてきてくれる者はいません。このことが分かれば分かるほど、中村健也が如何に身を修めていたか、また慕われるリーダーであったかが知らされてきます。
「懐の深い人」だけで思わぬ分量になってしまいましたので、今回はここまでといたします。続きはまた次回に。



