トヨタ・中村健也にみる「帝王学」 ①ー②
組織の力を引き出すリーダーの鑑|帝王学の体現者
今回から『主査 中村健也』を教材に、帝王学を体得するとどんな人になるのか?どれほど役に立つのか?という疑問に答えるシリーズを始めたいと思います。「こんなリーダーになることができます」という理想的なリーダー・中村健也をみていきましょう。
中村主査とはこんな人
完璧な人間は存在しない以上、賛否両論あるのが普通です。しかし、否定的な評価がないと言って過言ではないのが、中村健也というリーダーです。以下は、評した言葉の1つになります。
中村主査という人は、「他人をいつの間にか信じさせ、従わさせてしまう大きな人。人にどんなことを言われても怒らぬ何と懐の深い人。目的がはっきりしており、責任感が強く、人を見る目があり、この世の中にこれほどの大人はまずいない」と思った。自然のうちにすべてを知り、自ら動く実行力と信念の人であった。(和田明広・編『主査 中村健也』)35頁
この言葉は、「帝王学を体得するとどうなるのか?」という疑問を氷解させるものとなっています。1言を以て答えるならば、「トヨタの中村健也のようなリーダーになることができるよ」です。
身を修める―1つの到達点
他人をいつの間にか信じさせ、従わさせてしまう―これは地位や役職、規則といったものを当て力にしていて、できる芸当ではありません。以前コラム記事で触れましたが、所謂、「力」を以て人を治めようとする者ですね。これでは面従腹背の関係になってしまうため、信頼で結ばれる関係にはなりません。
鈴木貫太郎の奉公十則でも学びましたが、「いつの間にか信じられている」リーダーとは、
- 窮達を以て節を更ふべからず
- 常に徳を修め智を磨き日常の事を學問と心得よ
- 公正無私を旨とし名利の心を脱却すべし
- 言行一致を旨とし議論より實践を先とすべし
- 常に心を静謐に保ち
- 危急に鑑みてはなほ沈着なる態度を維持するに注意すべし
このようなことが日常的にできている者です。先人たちが指摘するとおり、信用は一朝一夕には築けません。実業家・大倉喜八郎は、毎日の積み重ねで得られるものであると述べ、日本のケインズ・高橋是清は「人に尽くした結果として与えられるもの」と明らかにしています。古典では「民は信無くば立たず」と教えられるとおりですね。
人は心服させよ
組織の力を引き出せるリーダーは、力で人を動かすのではなく、徳義によって「従わさせて」しまう人です。中村健也は、その理想的なお手本だったことが、このシリーズで明らかになりましょう。「世界のトヨタ」は、この男から始まった―その意味も、よく分かる時が来ます。続きはまた次回に、今回はここまでといたします。
この帝王学が、ビジネスどころか、人生においても役に立たないはずがありません。経営者やリーダーのみならず、広く知って学んでいただくことを願っています。



