もし日産の立て直しについて相談を受けたならば―2
円滑に物事を運ぶのに大事な「根回し」
何かを決定したり実行したりする際、関係者を事前に回り、予め大体の理解や賛同を取り付けておく「根回し」。即断即決が求められる時に、いちいち報告したり許可を待っていたりすると、行動が遅くなってしまうのはやむを得ないことではあります。だからといって独断専行で話を進めるのもまた、後の禍根ともなりえます。官僚にはバリバリ実務をこなす「実務型」と呼ばれるタイプと、関係者のところを駆け回って調整する「調整型」と呼ばれるタイプがあると聞きますが、円滑に物事を進めるならば、この「調整」は欠かせません。この根回しや調整が、歴史を分けた事例があります。
ワシントン条約を締結させた、加藤友三郎の統制力
加藤友三郎は、海軍大臣や内閣総理大臣を歴任した、広島出身の偉人です。井上成美が、数多の海軍大将の中で、山本権兵衛と並んで無条件に一等大将と評した1人でもあります。この加藤友三郎が海軍大臣・日本全権として臨んだのが、ワシントン軍縮会議です。
- 外:イギリス全権のバルフォアや議長のヒューズといった、海千山千の老獪な列強の政治家
- 内:加藤寛治や末次信正ら強硬派
国内外の障害や難敵を前に、基本的にポーカーフェイスを崩すことなく会議に臨み、海外のメディア関係者から「アドミラル・カトー」と称賛されるほどに活躍。締結に際し、大きく貢献しました。
ただ1人、本国への根回しを怠らなかった加藤友三郎
加藤友三郎が中間報告の形をとり、海軍省を通じて東郷平八郎海軍元帥へ電報を打たせた時のこと。随員は必要性を感じなかったようですが、加藤友三郎は東郷の影響力や後の禍根を鑑みて、「予め」手を打ったのです。
果たして、加藤友三郎の予想どおり―会議が終結して帰国した後、加藤寛治らが東郷を担ぎ出して軍縮を潰そうとしましたが、丁寧な根回しが功を奏して失敗。加藤友三郎はその手腕・強力な統制力を発揮して、この難局を切り抜けたのです。
根回しをしなかったロンドン会議の結果
時代が下り、財部彪が海軍大臣の時に開催されたロンドン会議ではどうだったでしょう。事前の情報伝達や理解を取り付けることをまったくしなかったために、軍内の強硬派が東郷平八郎を担ぎ出して軍縮を問題化させ、議会では「統帥権干犯問題」という存在しない問題が浮上するなど、国家の将来に甚大な影響を与えることになりました。
丁寧な根回しは、円滑に物事を決定・実行するための「調整」です。時には歴史的な動乱を招くこともある―軽視することがないよう心掛けたいものです。
蔵書 加藤友三郎の人物伝



