歴史に影響を与え得る、事前の情報共有・伝達
通報者保護の対策
法改正の後も、内部通報した者が特定され、左遷や解雇される事案が後を絶たない―
そのような事態が問題視されていると話題になっているようです。とにかく通報した個人が特定できないように窓口・担当者を置いて、ITを駆使した取り組みをしているところが増えていると聞きます。成果を上げていることもあるようですが、完全に特定できないとなると、嫌がらせや個人的な報復目的での虚偽の通報も可能になってしまうわけであります。これはこれで、対策として有効な一手に違いはないでしょうが、別の視点―帝王学の観点から考えてみてはどうでしょうか。
帝王学に基づく提案
『貞観政要』に、「兼聴」が教えられています。「兼ねて聞く」―隔てなく意見を求めることを言ったもので、度々取り上げているものですね。全体に損害を与える不正の通報は、本来称賛されるべき「直言」の行動でありながら、逆に左遷や解雇で応じるなどということは言語道断、以ての外の次第です。
身を修める―安定した組織運営の秘訣
これは、受け取る立場にある者が、「自己の修養」ができていないことに起因すると理解する必要があります。いくら「隔てなく聞けよ」と説いたところで、受け手が曲がっているような状態では逆効果です。この故に、『貞観政要』では「天下を安んずる」―安定した組織運営のための不可欠要素として、「其の身を正すべし」と、「人を大事にする」君道と並んで筆頭に説かれるのです。
その身が真っ直ぐであれば、影もまた真っ直ぐになるように、上に立つ者によって、組織自体が影響を受けます。それで不正や問題が消滅するなどということはありませんが、減少することにはなります。リーダーが「身を修める」ことで組織自体が安定し、問題が起きても届きやすくような風土づくりこそ、目指すべきではないでしょうか。即効性はない代わりに、じっくり取り組んだ先には、盤石な土台が形成されることでしょう。「直言の士」の数は、リーダーの程度に比例する―古典に説かれるとおりです。
今回はここまでといたします。
漢学のススメ|新釈漢文大系シリーズ



