こんな時、あなたはどう反応する?事例集1
三菱の根底に常にあった「公益」
歴史に名を残している経営者や創業者に共通するものの1つに、「公益」「国益」があります。今回は、明治政府の東北開拓事業に対する、岩崎彌太郎の輸送事業から、経営哲学に資するものをみていきましょう。
明治政府の一石二鳥の移住政策
明治維新という大きな時代の変わり目の時、士族は身分と食い扶持を失ってしまうことになりました。政府として捨て置くなどということはできませんから、色々と政策を打ち出したわけです。授産所の設置―現在のハローワークのようなものは、その代表と言えましょう。「木村屋総本店」は、我が国で「あんパン」を生み出した木村安兵衛の創業ですが、彼もまたこの授産所に出入りしていた士族の1人です。
さて、明治政府は
- 士族へ仕事を与えるための授産事業
- 地方の開発
この2点を目的として、地方の士族を北海道・東北への移住させることにしました。岩崎彌太郎の地元・土佐(高知県)では、福島県への移住を募ったところ、なんと100人を超える希望者が出ました。現在でも、高知から福島まで新幹線を乗り継いで行こうとするならば、片道数万円かかります。
この多額の交通費は捻出できないため、後の奈良県知事・水野寅次郎は事情を述べて、三菱の汽船を無料で使わせてほしいと願い出ました。これを読んだ皆さま、あなたならどんな返事をしますか?
公益のためならば損をすることも辞さない―岩崎彌太郎の経営哲学
岩崎彌太郎は即座に承諾し、「会社の規約で無賃輸送はできないから、自分が負担する」と社内規則は守りつつ、自腹で輸送を引き受けたのです。
自社利益の追求だけを彌太郎が考えていたならば、こんな返事が即座にできるはずがありません。まずはいくらかかるのか、算盤をはじいて―と動くのが、標準的ではないでしょうか。
損得は二の次にして、公益になるならば即決する―たとえ一時的に大きな損をすることになっても、損の分だけ信用につながります。結局、利他に徹することが、長期的にみても最後は恵まれることになるのですね。
余談ですが、近藤廉平が豊川良平から荷物の輸送を頼まれたことがありました。親友かつ三菱の一員だということで便宜を図り、規則で禁じられている無賃輸送の手続きを行ったのです。後日彌太郎の耳に入ったところ、叱責されたうえに、月給20円→5円まで減らされる処分を受けてしまいました。
公益にならない、個人的な便宜のための規則違反は許さない―
決して「なあなあ」で済ませない信賞必罰は、統制には大切なことです。今回のお話を、是非ご自身の経営哲学の一助にしてください。
『岩崎彌太郎傳』下巻 扉絵



