もし日産の立て直しについて相談を受けたならば―2
仮定のお話
世間に何らの影響力もない身ゆえ、今回は日産からの経営コンサルティングを引き受けたという完全なる空想という設定で、帝王学を最大限活用したコンサルティングを、忌憚なく述べたいと思います。
帝王学の真髄・日本型組織の底力
日産は一体何を迷走しているのか…カルロス・ゴーンの時から何も学んでいない。人員削減は手っ取り早い・手間いらずという利点に対し、
- 持続力の消失
- 技術力の低下
- 士気の著しい低下
- 技術者の流出
と欠点のほうがはるかに上回り、長期的な視点で考えるならば、人員削減とは最後の最後に頼る、やむを得ない最終手段であることを理解していない。ゴーンの「V字回復」のツケが回ってきていることを、上層部はどれだけ分かっているのか。
君道―リーダーの心構え
まず総大将が取り組むことは、「人員の」削減ではない。役員数と役員報酬の大幅な減額である。社長は、再建完遂という条件付きの完全成功報酬くらいにしなければならない。自身の報酬は確保しておきながら、大事にすべき人員を削減するなど言語道断、以ての外の次第である。かかる危機的状況に対しては、自ら背水の陣を敷き、命懸けで事にあたる覚悟を内外に示す必要がある。リーダーは退路を絶って臨まねばならない。
齊将・田単の事例
古代中国、東の大国・齊は、かつて2つの都市を除きすべて陥落。滅亡寸前まで追い込まれたことがあった。田単(でんたん)を大将にかついだ齊は「火牛の計」という奇策をもって反撃、見事国家を復建させた。ところが、残る都市を取り返すことができない。遊説家の魯仲連(ろちゅうれん)がその理由を田単に
- 滅亡寸前の時は退路がなく、勝たねば亡びるだけであった。
- ところが今、田単は広い領地も財産もあり、負けても悠々自適の生活が保障されている。
- 退路があるゆえに、無意識に気の緩みを生じている。ために組織力を引き出せなくなっている。
このように助言した。目が覚め、今1度大奮起した田単は部下と一体になり、あっという間に残った都市を取り返したのである。
三菱創業者・岩崎彌太郎の事例
三菱が海運自主権の確立を成し遂げるべく、明治政府の援護を受けながら、世界を股にかける列強の巨大海運会社と戦っていた時のこと。岩崎彌太郎は真っ先に自らの月給を半減。それ以上何か指示をしたわけでもないのに、幹部もまた自発的に月給削減を申し出た。このように経費の削減に尽力し、三菱によって我が国の海運自主権は確立されたのである。危機に際して、まず何を削減すべきか―明らかであろう。
さらに岩崎彌太郎から学んでおきたい。彌太郎は「資本的支出はいくらでも構わないが、無駄遣いや浪費はわずかでもしてはならない」という戒めを、次のような例えで示していた。
樽の酒を柄杓で酌み出すは可なり。穴よりは一滴も洩すべからず。 (岩崎彌太郎・岩崎彌之助傳記編纂会・編『岩崎彌太郎傳 下巻』1967年発行 凸版印刷)667頁
彌太郎の弟・彌之助が、領収書を張り付ける際に、綺麗な白紙を使っていた。それを見た彌太郎は怒鳴りつけ、「全国にある支社が同じことをしたら年間いくらになるのか。計算してみよ」と命じた。結果、400円(時価)にものぼることが明らかに。三菱患部の月給が20円だった時もあることを考えれば、「塵も積もれば山となる」―積み重なった無駄遣いや浪費が如何に軽視できるものではないことか、分かることだろう。
豊田商事事件の事例
豊田商事事件で弁護団の大将をはった中坊公平は言う。
「指揮官というものは、退路を自ら断たないと駄目なんですよ。この人も賭けているなと、もううしろに下がりようがない。その姿を見せない限り、周りも本気ではやってくれない。」(プロジェクトX制作班・編『プロジェクトX』4巻 日本放送協会)289頁
1200億を超える被害を出した、空前絶後の詐欺事件・豊田商事事件。絶望的な状況の中、戦い抜くことができたのは、リーダー・中坊公平が背水の陣で臨んだからこそ。率先垂範こそ影響力の要。まずは己の姿にかけて示すことを疎かにしてはならない。
あまりにも長くなってしまったため、この空想の続きはまた後日にできたら―と思います。
『岩崎彌太郎傳 下巻』扉絵



