帝王学に資する、晏子のエピソード⑤
晏子が説く、組織にとっての3つの不吉
前回に続き、晏子のエピソードを『晏子春秋』にみていきたいと思います。見出しに掲げました「不吉」と言いましても、「奇瑞」や「吉兆」といった迷信的なものではありません。さっそく、景公の情けない不安事をとおし、晏子に学びましょう。
リーダーが常に念頭に置き、注意を払うべき「不吉」とは
景公が狩りに出向いた先で、山にて虎を、川辺にて蛇を目撃したことがありました。帰った景公は晏子を召し出して体験談を話し、不吉であると心配します。景公が言うところの「不吉」に、共感する人はいないことでしょうね。それに対して晏子は、確かに国家にとって三つの不吉なことがあると述べ、次のように指摘しました。即ち、
- 人材がいるのにそれが分からない。
- 人材であると分かっているのに登用しない。
- 登用しても信任しない。
これこそ君主が心配するべき「三つの不吉」であり、
- 山で虎を、川辺で蛇を見たのは、単に住処があっただけで、他に理由はない。
と景公の言うところの「不吉」を正し、君主のあるべき姿を明らかにしたのです。
UFOやUMAのようなものならばまだしも、虎や蛇を見たことを不吉と心配する景公の考え方は、現代人にはまこと理解に苦しむものがあるかと思います。しかし、中身が違うだけで迷信自体は今でも残っているあたり、我々の迷いの深さが知らされることでしょう。
「国家」を「組織」に読み替えて
晏子が指摘する「国家の三つの不吉」は、「国家」を「組織」に読み替えれば、いつの時代でも変わらぬ問題であることが分かります。古語に「國亡ぶるは、賢人無きに非ず、用ふること能はざればなり」という大変な名言がありますが、これは経営者やリーダーといった人たちが、金言とすべきものであります。組織の破綻は、人材がいないために起こるのではありません。人材はいるのに用いることができないために、崩壊するのです。世に千里を走る名馬はあれども、その名馬を見抜く伯楽(※)がいないことを憂うべきであります。短い説話ですが、深い教訓を与えてくれるものとなっていることがおわかりいただけることでしょう。
※伯楽…古代中国において、名馬の鑑定人として知られた人物。
蔵書の『晏子春秋』上下巻 帝王学に資する教えは、上巻に集中している。



