こんな時、あなたはどう反応する?事例集1
今回も、三菱創業者・岩崎彌太郎に伝わる逸話をみていきたいと思います。
今回は幹部の一人・石川七財にまつわるお話です。
「投機の失敗」を転じた彌太郎
三菱創業間もないころのこと。彌太郎は川田小一郎と共に、米相場に手を出したものの大失敗。相当な損害を出したのか、二人は二度と投機に手を出さないと約束したのであった。
石川七財の米相場挑戦に賛成する彌太郎
彌太郎と川田は約束したものの、そうとは知らない石川七財。米相場をやると言い出した七財に対し、意外にも彌太郎は賛成する。約束が違うと怒る川田をなだめた彌太郎だが、その意図は如何に―
すべており込み済みだった彌太郎
果たして、七財は3000円(時価)というとんでもない損害を出して帰ってきた。頭を下げ、金輪際相場には手を出さないと誓う七財に対し、彌太郎は「この経験で相場の難しさを理解したならば、この3000円は安いもの」と川田を顧みて笑ったと伝えられる。
この逸話にみる帝王学
石川七財は士族の出身で、有能だが、たとえ社長の彌太郎相手にも言い出したら聞かない、たいへんな頑固者として知られていました。そんな七財相手に、「我々も失敗したんだから」などと言っても、「俺ならできる」と反発してうまくいきません。関係もこじれることを考えると、対応には工夫が必要となります。そんな七財であると「彼を知っていた」からこそ、失敗はおり込み済みのうえでさせたのです。笑いごとでは済まない大損だったはずですが、七財のためになったならば安いと言ってのける、この豪快さ。以前お話しましたが、リーダーに求められる要素の一つになります。ただ豪快というだけではなく、まことに人を大事にしていた彌太郎だったからこそ、後に津波のような困難に見舞われる三菱はそれに耐え抜き、今日につながっていったのです。損害を出して帰ってきた七財に対して「失敗」と言わずに「経験」の言葉を用いたのも、その一環ですね。同じ内容でも表現一つで、受け手の印象はまったく異なるものとなりますよ。
解説したいことはまだまだありますが、あまり長くなりましたので、今回はここまでといたします。
参考文献…・岩崎彌太郎・岩崎彌之助傳記編纂会・編『岩崎彌太郎傳 下巻』1967年発行 凸版印刷 661頁~663頁



