待遇も大事だけど―それ以上に求められる、リーダーの姿勢とは
糟糠の妻は堂より下さず
皆さんは、この故事成語をご存じでしょうか。「糟糠の妻」の部分のみ知っている、という方もいるでしょう。このシリーズでは、その成り立ちと意味をお話していきたいと思います。なかなか面白いですよ。
成り立ち
後漢の建国者・光武帝には、冷静沈着で正直な臣下が多かった。宋弘(そうこう)はその1人である。
光武帝には湖陽長公主(※)という姉がいた。早くに夫に先立たれてしまい、やもめ暮らしを余儀なくされていた長公主だったが、立派な宋弘との再婚を望んでいた。その願いを叶えてやりたいと思った光武帝は、姉のために一計を案じる―
ある時、宋弘が参内した。光武帝は姉を屛風の後ろに隠れさせ、宋弘に対して
「裕福になると貧しかった時の友を変え、顕職につくと出世する前の妻を変えたいと思うのが、人情ではなかろうか?」
と謎かけをした。もちろん言わんとするところは、「今の妻から、再婚を望む姉に乗り換えないか?」である。皇帝と親戚関係となる話で、何も考えなければ乗らない選択肢はないだろう。しかし宋弘は
貧賤の交はりは忘る可からず、糟糠の妻は堂より下さず(林秀一・著『十八史略 上』 一九六七年発行 明治書院)368頁
「貧乏だった時の友を忘れてはならないし、苦労をかけてきた妻を追い出してはなりませぬ」
とハッキリキッパリ答えた。
この返答を予測していたのか、光武帝は姉が隠れている屏風を振り返り、「これはうまくいかんぞ」と話しかけた。かくして、長公主が希望した宋弘との再婚は、果たされることがなかった。
意味
この故事から、「貧しかった時から支えてくれた妻は大事にしなければならない」ことを「糟糠の妻は堂より下さず」と言うようになったのである。
人は大事にすべし
この「人」に、限定はかかっていません。配偶者もまた然りです。まともな収入もない中、努力精進できるよう支えてくれた妻は、大切にして然るべきでしょう。「おかげさまで」という謙虚さは美徳の1つにして、リーダーに求められる要素です。今回はここまで、次回はまた別の故事成語をみていきましょう。
余談になりますが、弁護士になるために毎日必死に勉強し、収入もない中、妻の支えのおかげで見事試験に合格、晴れて弁護士になった男がいました。ところがこの男は、成功するや若く美しい女性に乗り換えます。それにとどまらず、弁護士の知識を最大限利用し、「糟糠の妻」からすべてを奪い去り、極限まで追いつめました。裏切られて捨てられ、全てを失ったこの「糟糠の妻」は、元夫を殺害…アメリカで実際にあった惨劇です。
※長公主…先帝の娘を指す。つまり、皇帝の姉妹のこと。「公主」は皇帝の娘を指す。