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【専門医解説】医師でも誤解している薬剤耐性菌の真実

北岡一樹

北岡一樹

テーマ:薬剤耐性菌


薬の効きにくい菌を「薬剤耐性菌」と呼びます。

皆さんももしかしたら、「抗生物質を沢山飲んでいると、薬剤耐性菌がついて薬が効きにくくなる」といったことを聞いたことがあるかもしれません。

実は、この表現は正しくありません。

しかし、医師として菌を研究している私ですら、研究を始めて数年経過するまで、このように思っていました。医師ですら多くの方が薬剤耐性菌について正しく理解できていません。

本記事では、「薬剤耐性菌」の正しい情報について、解説していきます。

*この記事は、世界で最も信頼性のあるメタアナリシス(様々な研究・文献を統合して判断すること)エビデンスの1つであるUpToDate(https://www.uptodate.com)をエビデンスとして記載しております。

薬剤耐性菌は”生まれる”?


薬の効きにくい菌を「薬剤耐性菌」と呼び、将来世界最大死因になると言われています(1)。
私はそれを食い止めたいと思い、医師として菌の研究を始めました。
しかし、研究を始めて数年経過するまで、抗生物質を飲んでいると、「菌」が変異して、「薬剤耐性菌」に進化すると考えていました。
そして、薬剤耐性菌を保有することとなり、薬が効きにくい体になってしまうと思っていました。
これは、完全に間違いというわけではないですが、正しくありません。

実は、薬剤耐性菌は、基本的に外からやってきます!

治療のために薬を飲み、それによって身体の中で発生するわけではありません。
もともと、薬剤耐性菌は世界中のどこかに存在していて、それが、伝播していきます。
そして、薬を飲むことで、その薬剤耐性菌が「選択」されて、身体の中で多く占めるようになり、保有するようになります。

今、世界で一番危険視されている薬剤耐性菌は、悪魔の耐性菌:カルバペネム耐性菌
と呼ばれるものです。
これは、インドの井戸水から発見され、そこからどんどん伝播されていきました(2)。

このカルバペネム耐性菌のように、薬剤耐性菌は身体の中で変異・進化をしていくものではありません。
もし、あなたが薬剤耐性菌を身体の中に保有しているとしたら、基本的には、誰かからもらってきたものです。

感染症には2パターンある


では、薬剤耐性菌を保有していると何が問題なのでしょうか?
 
まず、感染症には2つのパターンがあることを理解する必要があります。
1.身体の中から発生する感染症
元々、身体の中にはたくさんの菌が存在しています。
健康状態が変化すると、この菌によって感染症が引き起こされることがあります。
例:肺炎、膀胱炎など

2.身体の外からやってくる感染症
近年猛威を奮った新型コロナウイルスを含む風邪、性感染症、食中毒などが該当します。

この2つの内、薬剤耐性菌を保有していることが問題となるのは、前者の「身体の中から発生する感染症」です。

誰かからもらってきた「薬剤耐性菌」は、普段は問題を起こさず存在しています。
抗生物質を飲むと、他の菌は死んでいきますが、薬剤耐性菌は相対的に増えていきます。
その状況で健康状態に変化が起こり、感染症が引き起こされた場合、「薬剤耐性菌」が猛威を振るいます。

薬が効かず、対処は難しくなるのです。

後者の場合においては、薬剤耐性菌を保有しているわけではありません。
しかし、外からやってくる菌が薬剤耐性菌であった場合は、薬が効かず、問題となります。

正しい薬剤耐性菌の真実


「薬剤耐性菌」は身体の中で生まれるのではなく、外からやってきます。

薬剤耐性菌について正しい表現をすると、「抗生物質を沢山飲んでいると、身体の中にいた薬剤耐性菌の割合が増えてしまい、身体の中から発生する感染症(肺炎や尿路感染症など)を治すときに薬が効きにくくなる」となります。
風邪や性感染症、食中毒において、「抗生物質を沢山飲むことで菌が耐性を獲得し、薬が効きにくくなる」というのは誤りとなります。
正しくご理解いただければ幸いです。

1)O’Neill, J. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. 2016.
2)McKenna M. Antibiotic resistance: the last resort. Nature. 2013;499(7459):394-396.

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北岡一樹
専門家

北岡一樹(医師)

医療法人社団予防会新宿サテライトクリニック

大学研究員として日々進化する細菌学の研究・分析に参画、並行して性感染症診療クリニックで日々の臨床に携わり、研究と治療の両面から予防医療の進化に貢献。新たな予防法の研究・開発・実用化にも取り組む。

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