騒音計の指示値と測定値は違う
前回のコラムでは騒音測定における雨の影響についてお話しました。
今回は「セミの鳴き声」です。
雨の音の対策は簡単です。
天候の良い日に変更すればよいのですから。
しかし、セミ音の場合はそうはいきません。
時期が来るまで毎日発生するからです。
都内でセミ音が発生する時期は 7月中旬から 9月中旬までの約 2ヵ月間です。
この間、ほぼ休むことなく毎日発生します。
セミ音が発生しないのは、強風や強雨などの悪天候の時でしょうか。
しかしながら、こういった悪天候の日は測定も出来ないのです。
では、セミ音は騒音測定にどの程度の影響があるのでしょうか。
下図はセミ音が発生している時の騒音レベル波形です。
青い線がセミ音が支配的な本来のレベルです。
うす緑色の線は、ソフトウェアによりセミ音の軽減を行ったレベルです。
セミ音の影響で全く見えなかったレベル変動が見えてきました。
「なんだ、セミ音は軽減できるんじゃないか」と思われたかもしれませんが、これはあくまで参考として作成したもので、セミ音を完全に取り除いているわけではありません。 また、セミ音を軽減する過程で、本来あるべき音にも、僅かながら影響が出てしまいます。 したがって、セミ音の軽減処理は「参考資料」や「研究開発用」としては有効ですが、環境騒音の評価を目的とした測定には使えません。
では、どの程度のレベルであれば問題ないのでしょうか。
ある騒音を測定しようとしたとき、背景騒音(暗騒音)とのレベル差が 10dB 以上であれば、背景騒音(暗騒音)の影響を無視する事が出来るとされています。
背景騒音(暗騒音)とは、ある一つの特定騒音に着目した場合、それ以外の全ての騒音を言います。
つまり、対象となる音(例えばエアコン室外機騒音)が 70dB であったとしたら、セミ音が 60dB 以下であれば、セミ音の影響を無視して問題ありません。
もしレベル差が 10dB 以内であった場合は、下の補正を加える事で暗騒音の影響を補正する事が出来ます。
例えばセミ音が定常的に 70dB で発生している環境で、対象音が発生した時のレベルが 74dB であった場合、上記の補正値を参考の補正を行うと、対象音のレベルは 72dB という事になります。
しかしこれはセミ音のレベルが対象音のレベルより低い場合であって、高い場合は上記の補正は使えません。 つまり先ほどの図のような場合は、測定不可能と判断する事になります。
セミは個体数が多く、飛行する事で広範囲へ移動も出来ます。
どういった場合が則手可能かは、測定を行ってみないと分かりません。
どう判断するかは、測定者にとって悩ましい問題です。