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音色もタッチもそのままに。音量だけを小さくする画期的なシステム「NighTONE(ナイトーン)」

豊富な知識と独創的な技術力を備えるピアノ調律師

田上忠之

「NighTONE(ナイトーン)」の開発者で調律師の田上忠之さん
卓越した技術力を備えるピアノ技術者のみが製作できる

#chapter1

卓越した技術力を備えるピアノ技術者のみが製作する

 「音色を変えることなく、音量だけが小さくなり、繊細なタッチをそのまま表現できる」という特長を持つ、ピアノ用アナログ式超弱音システム「NighTONE(ナイトーン)」。昨今の住宅事情や多忙によって夜中しか練習時間が確保できない演奏者にとって、ピアノに取り付けただけで、時間を問わず自由に演奏が可能になると話題を集めています。グランドモデルの場合、予約は半年待ちという状態の画期的なシステムを開発した生みの親が、「TAGAMI-PIANO TUNE」の田上忠之さんです。

 田上さんの職業は「ピアノ調律師」。調律以外にも、修理、オーバーホール、修復などを行い、ピアノに関する多様な専門知識や技術が必要とされる職人の世界です。長年の経験によって培われてきた調律師の知識と技術力は、「NighTONE」にも存分に生かされています。ピアノといっても、各自が所持しているピアノはメーカーや機種や年代等が異なり、それは内部の設計や寸法にも及びます。そのため、「NighTONE」は完全なオーダーメイドで作成され、職人の手作業が必須。現在は後進の育成が進んだことでアップライトピアノは対応可能な人員が増えたものの、グランドピアノにおいては田上さん本人が設計、製作を担当する必要があります。

 一方、関西圏においては技術提携という形でノウハウを提供し、西日本の希望者にも対応できる体制を構築。さらに、全国展開のほか、ヨーロッパなど世界規模での反響があり、「NighTONE」をどう広めていくかが目下の課題となっているそうです。「NighTONE」は2010年から製品化が実現していますが、当初の予測よりも幅広い年代、用途、地域でニーズが存在し、「弾きたくても弾けなかった」という本物志向のピアノ愛好家にとっては、まさに救世主とも呼べる画期的なシステムです。その開発経緯には、田上さんだからこそ成し得た要素が随所に存在します。

#chapter2

職人気質である師匠の元に弟子入りしての修行時代を経て

 叔母夫婦が職人ピアノ調律師という環境に生まれた田上さん。幼いころから音楽に親しみ、家にあったピアノを遊びながら弾いていた大のピアノ好きとして育ちます。やがて、叔母夫婦の仕事に興味を抱き、中学2年生の時に弟子入りを志願。18才になって、かねてからの約束通り叔母夫婦の元へ正式に弟子入りしました。叔母の夫は、日本の調律師の先駆けと言われる第一人者の一番弟子でした。

 師匠の元で、調律師としての知識・技術を約8年仕込まれた田上さん。調律師は専門学校を卒業するのが一般的なルートで、毎年何十人もの生徒が卒業していきます。一方、師匠の元へ弟子入りして学ぶ職人タイプの調律師は、8年~10年以上かけて研鑽を積み、晴れて独立することが許されるという世界。どれだけ著名な調律師でも、生涯をかけて育成できる直弟子は数人程度。そうして生まれる調律師は、ピアノ技術者全体の中でも数%ほどしか存在しないと言われています。

 その後、田上さんは26歳で独立。しかし、当初は食べていくのがやっとという生活で、サイドビジネスとして特許に関わる仕事を始めます。もともと、幼いころからものづくりが好きで、将来的にはピアノに関する開発をしたいとおぼろげながら考えていました。

音色もタッチもそのままに。音量だけを小さくする画期的なシステム「NighTONE(ナイトーン)」

#chapter3

開発のきっかけは、自らの演奏意欲を満たすため

 そんな二足のわらじを履いていた経験が結実したのが、「NighTONE」でした。当時、仕事が順調に回り始めていた田上さんは多忙によって帰りが遅く、自分でピアノを演奏する時間が持てないことにストレスを感じていました。音色やタッチの変化だけでなく、何よりアコースティックピアノの良さを調律師として誰よりも理解していたため、電子ピアノやサイレントを使用する気にもなれません。「ピアノそのままの音を小さく出すしかない」と考えた田上さんは、自分の演奏意欲を満たすためにシステムの開発に乗り出します。

 驚くことに、夜でもピアノ本来の音質と感触のまま弾けるような基本的な仕組みが完成したのは、アイデアの着想からわずか2日後。そこで考えたのが、同じ思いを抱える人のため、製品化を実現することでした。試作と改良を重ねながら製品レベルにまで進化させるには、1年の月日を要したといいます。特許取得も同時に進め、最初の出願となる手続きは全て自分で行いました。まさに、調律師としての技術と特許に関する知識が融合し、生み出された結晶が「NighTONE」なのです。

 元々、調律師は一人一人の家を訪問して作業を行う、パーソナルな部分に焦点が当たる仕事です。必然、自分の手が届く範囲でしか役に立つことはできません。一方、「NighTONE」の普及が広まれば、世界規模でピアノを弾くことに困っている人の役に立てるのです。素晴らしくも画期的なシステムとともに、田上さんのピアノを愛する人達へ贈るライフワークもまだまだ続いています。

(取材年月:2014年6月)

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田上忠之

豊富な知識と独創的な技術力を備えるピアノ調律師

田上忠之プロ

ピアノ調律師

TAGAMI-PIANO TUNE

音色を変えず音量を小さくし、繊細なタッチを表現できるピアノ用アナログ式超弱音システム「NighTONE」の開発者。豊富な知識と独創的な技術力を持つ調律師が、夜中でも弾けるピアノの超弱音システムを開発。

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