離婚・相続で悩む「家」の扱い方〜分けにくい財産だからこそ知りたいトラブル防止のコツ

山内和美

山内和美

「家」は原則として物理的に分けられない財産


「家」は、通常は建物とその敷地(宅地)を一体の不動産として扱います。

建物を物理的に半分に切って分けることはできず、土地についても分筆できるような場合はありますが、形状や面積、法的要件などの制限があるため、どう分けるかが悩ましいところです。

ただし、不動産登記上は建物と土地は別々の財産とされており、相続や売買の際には個別に扱われることも可能です。つまり、建物だけを一人に相続させ、土地の持分を共有にするなどの方法は法的には可能ですが、現実には使用関係や管理、処分の問題から慎重な対応が求められます。

そのため、相続や離婚の場面でも現物分割は難しく、代償分割(住み続ける人が他の相続人にお金を支払う)や換価分割(売却して現金で分ける)といった方法が一般的に選ばれます。建物と敷地を一体として考えたうえで、分け方を検討することが必要です。

離婚時の家の扱い方


夫婦が築いた共有財産は原則1/2ずつに分ける決まりです。土地建物が夫の単独名義であっても、結婚後に取得した場合は妻にも財産分与の権利があります。

分け方は主に以下の2つです。

・売却し、売却代金を分ける

・一方が住み続け、他方に持分相当額を支払う(代償金方式)

後者は支払い資金が必要であり難しい場合は売却せざるを得ません。

住宅ローンが残っている場合は複雑さが増します。ローン残債が多いと売却しても手元に残らないことがあり、マイナス財産も原則1/2ずつ分けます。

ローンが完済されている場合は、金融機関への名義変更や返済方法の相談は不要ですが、抵当権抹消登記がきちんとされているかの確認が必要です。抹消登記が未了の場合は、金融機関に依頼して手続きを進めましょう。

住宅ローンが残っている場合、金融機関への名義変更や返済方法の相談が必要となることが多いですが、金融機関によって対応は異なります。特に、相談者の収入や信用状況によっては承諾されないケースも少なくありません。名義変更が認められなかったり、返済の引き継ぎが難しい場合は、結果として「家」を売却せざるを得ないことも多いのが現実です。

ローン名義が夫単独の場合、支払い義務は夫にありますが、住む人と返済する人が異なることはトラブルの原因となりやすいです。

相続時の家の扱い方


相続財産の中心が「家」だけで、同居している子どもがいても他の相続人には法定相続分が認められます。遺言で一人に相続させても、他の相続人には遺留分侵害額請求権(民法1046条)があり、持分相当額の金銭請求が生じる可能性があります。

「家しかないから大丈夫」と思っても、「家」は建物と敷地を含む分けにくい財産であり、かつ思い入れも強いため、相続人間の調整が難航しやすいのです。トラブル防止には、生前に親が意思を伝え、十分に話し合うことが重要です。

遺留分の問題も含めて納得してもらうことの意味


遺留分は法律で決められた最低限の取り分なので、親の希望に関係なく請求されることもあります。

親が生前に「家を誰に相続させたいか」などの気持ちを子どもたちに伝え、みんなが納得できるように話し合うことは、将来のトラブルを防ぎ、家族の仲を保つために親が果たすべき責任と言えるのではないでしょうか。

話し合いがまとまらない場合はどうなる?


離婚や相続で話し合いが不調に終わった場合、家庭裁判所の調停や審判によって解決を目指します。裁判所は事情を踏まえ、公平な分割や居住継続の可否を判断しますが、希望通りになるとは限りません。

なぜ相続登記が進まない家が多いのか?

裁判は解決手段ですが、以下の理由で長期間解決しない家が多くあります。

・裁判や調停には時間や費用がかかる場合がある

・当事者間の感情的対立が根深い

・不動産評価や共有持分の複雑さ

・登記手続きの負担や無関心

これらが積み重なり、相続登記が「宙ぶらりん」のまま放置されるケースが多いのです。

相続登記の義務化について


令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。相続開始から3年以内に、不動産の相続登記を申請しなければなりません。

登記を怠ると過料が科される可能性がありますが、相続人が不明であったり、全員の同意が得られないなどのやむを得ない事情がある場合は、法務局に申し出ることが求められます。

この義務化は、不動産の所有者不明問題を減らし、土地の有効活用や適正な管理を促すための措置です。

親が元気なうちにできること


親が自分の意思をはっきり子どもに伝え、どの子に家を相続させたいか、納得してもらうことが大切です。遺言だけでなく、「なぜそうしたいのか」を生前に話しておくことが、トラブルの防止に繋がります。

「他の子が寄り付かなくなるのでは」と心配する声もありますが、それで離れてしまうなら、すでに心が離れていた可能性もあります。

親が子に残すもの


親が子に残すのは財産だけでなく、生き方や信念、愛情も含まれます。お金では示せない愛情も、お金でしか示せない愛情もすべて伝えることが親の責任と言えるのではないでしょうか。

離婚や相続で「家」をめぐる問題は、法的にも感情的にもそして経済的にも複雑であり、さらには生活面や家族関係の面でも難しい問題が絡み合います。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としております。具体的な法的問題や個別のご相談については、弁護士や司法書士など専門家へのご相談をおすすめいたします。

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山内和美
専門家

山内和美(不動産コンサルタント)

カズシン株式会社

大学中退や離婚を経験した代表が人生の窮地に立つ人の不動産取引をサポート。宅地建物取引士のみならず産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格も生かし、メンタル面でも成約まで顧客を支える。

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