ニデックの会計不正から考える「プレッシャーとハラスメント」の境界線

加藤一郎

加藤一郎

テーマ:経営

※ この記事は、ポッドキャスト第12回の内容をもとに、補足・再構成したものです。

ニデックの問題が投げかけたもの

ニデックの会計不正問題が話題になっています。第三者委員会の報告などからうかがえるのは、上位者から下位者への強烈な業績プレッシャー、そして監査法人に対する圧力が背景にあったということです。

ポッドキャストでも話したのですが、このニュースを見たときに感じたのは、「これはハラスメントの問題と地続きではないか?」ということでした。

達成困難な目標を設定し、未達を厳しく詰める。立場の力を使って相手の判断を歪める。こうした構造は、私たちが「パワハラ」と呼んでいるものと、実はよく似ています。

今回は、ニデックの事例をきっかけに、ポッドキャストで話した「パワハラ・カスハラ・ハラハラ」という3つのハラスメントについて、あらためて整理してみます。

パワハラ ― 「業務上の指導」との境界はどこにあるか

パワハラ(パワーハラスメント)は、職場のハラスメントの中でも最も認知度が高いものです。2022年4月からは中小企業にもパワハラ防止措置が義務化され、制度面の整備は進んでいます。

ただ、現場で最も悩ましいのは「適正な業務指導」と「パワハラ」の線引きです。

ニデックの事例が象徴的なのは、まさにこの点です。「目標を達成しろ」という指示そのものは業務上の正当な要求に見えます。しかし、それが達成不可能な水準であり、未達に対する叱責が常態化し、結果として現場が数字を作るしかない状況に追い込まれたとすれば、それは構造的なパワハラと呼べるのではないでしょうか。

ポイントは、パワハラは「怒鳴る」「暴言を吐く」といった分かりやすい形だけでなく、仕組みや空気として存在し得るということです。経営者や管理職の方にこそ意識していただきたい視点です。

カスハラ ― 「お客様は神様」の呪縛

カスハラ(カスタマーハラスメント)は、顧客や取引先から従業員への理不尽な要求や攻撃的言動を指します。近年急速に社会問題化しており、東京都ではカスハラ防止条例も制定されました。

ポッドキャストでも話題になったのですが、カスハラの厄介さは「顧客」という立場がある種の正当性を与えてしまう点にあります。パワハラが「上司と部下」という社内の権力関係を背景にするのと同様に、カスハラは「買い手と売り手」「発注者と受注者」という商取引上の力関係を背景にしています。

実は、ニデックの監査法人に対するプレッシャーも、構造的にはカスハラに近いものがあります。監査報酬を払う側と受け取る側という経済的依存関係が、本来対等であるべき監査判断を歪めてしまうリスクがある。立場の違いが圧力に変わるという意味では、パワハラもカスハラも根っこは同じです。

企業としては、自社の従業員をカスハラから守ると同時に、自社が取引先や外部専門家に対して「カスハラする側」になっていないかを振り返ることも大切です。

ハラハラ ― 善意が生む新たな問題

ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)は、比較的新しい概念です。正当な業務指導や注意に対して「それってパワハラですよね」と過剰に主張することで、指導する側を萎縮させてしまう現象を指します。

ポッドキャストでは、このハラハラについてもかなり議論しました。ハラスメントへの意識が高まること自体は良いことですが、その結果として「何も言えない上司」「指導できない管理職」が増えているとすれば、それは別の問題を生んでいます。

ここで重要なのは、ハラハラの存在を理由にハラスメント対策を後退させてはいけない
ということです。「ハラハラがあるから厳しく指導できない」という声は理解できますが、それは「適切な指導の仕方を学ぶ」ことで解決すべき問題であって、「ハラスメントの基準を緩める」ことで解決する問題ではありません。

3つのハラスメントに共通する構造

パワハラ、カスハラ、ハラハラ。それぞれ登場人物や場面は違いますが、共通しているのは「立場の非対称性」が背景にあるという点です。

誰が 誰に対して 背景にある力関係
パワハラ 上司・経営者 部下・従業員 人事権・評価権
カスハラ 顧客・取引先 従業員・受注者 経済的依存関係
ハラハラ 部下・従業員 上司・管理職 制度・世論の力


ハラハラだけは方向が逆に見えますが、「ハラスメントと言われたら終わり」という社会的制裁の力を利用しているという点では、やはり一種の「力」の行使です。

ニデックの事例から学べるのは、こうした力関係の歪みは、個人の性格やモラルの問題ではなく、組織の構造や仕組みの中に埋め込まれているということだと思います。

おわりに ― 「仕組み」で考える


ハラスメントを防ぐために必要なのは、「ハラスメントはダメ」という標語ではなく、権力の非対称性が暴走しにくい仕組みを組織の中に設計することです。内部通報制度の実効性、評価制度の透明性、外部専門家の独立性の確保。地味ですが、こうした仕組みの積み重ねが、パワハラも、カスハラも、そしてハラハラも抑制していく土台になるのではないでしょうか。

ぜひポッドキャスト本編もお聴きください。
Apple podcast
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/2x2-cents/id1868129417

Spotify
https://open.spotify.com/episode/6ze0XZ7KHAqkkw1Ll6L1qJ

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加藤一郎
専門家

加藤一郎(公認会計士)

加藤会計事務所

大手監査法人で多くの企業支援の経験をもとに、仕組み作りで、経営改善や成長に貢献します。創業やIPO、事業承継など企業のさまざまなステージもサポート。個人向けの相続対策・申告にも力を入れています。

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