創立50周年記念品。ある創業社長との忘れられない出会い
ある経営者が求めた世界に一つだけの価値。~その奥に秘められたもの~
最高級コードバンで漆黒×ロイヤルブルーの名刺入れを
奥様とご一緒に
ある企業の会長秘書(男性)から「当社の会長が名刺入れのオーダーメイドを希望しているのですが、一つだけ対応可能でしょうか」というお問い合わせをいだだきました。
もう15年近く前のことです。当時は個人のお客様向けにバッグや財布、名刺入れなどを販売しており、自由が丘の店舗にも商品がございました。お客様にゆっくりお座りいただくスペースもあり、そちらでオーダーメイドを承ることにいたしました。
「会長の奥様も一緒に参りますのでよろしくお願いします」とのこと。あくまでもプライベートでお越しになるというスタンスでしたので、ご夫妻でゆっくりとオーダーメイドのひとときを楽しんでいただこうという気持ちでお迎えすることにいたしました。
素材は最高級のコードバンで
まずお目にかかって驚いたのはご夫妻の若さでした。会長というイメージからある程度の年齢をイメージしていましたが、どう拝見しても30代後半から40歳手前。会社の創業者でいらっしゃり、IPOされて間もない頃だったと思います。
ともかく、ご希望はオーダーメイドの高級な本革名刺入れ。まずは革素材からお選びいただくことにいたしました。
ソファーにお座りいただき、レザー見本や店舗内にディスプレイされた革小物をテーブルに並べ、お好みの革をご検討いただこうとした瞬間、お客様(会長)の携帯電話が鳴ります。もちろん仕事のお電話。途中で席を外され、革素材については奥様にご提案しながら会長をお待ちするというかたちになりました。
「こちらはいかがでしょうか?」「そうですね、、」と首をかしげ、あまり好みではないとお返事。「それでは、こちらは?」と、数種類ご提案差し上げている途中で会長が戻られます。奥様のおすすめでお選びいただいたのは最高級のコードバンでした。革のダイヤモンドといわれる希少性の高い馬の革、漆黒のブラックです。会長もご納得のご様子でした。
緊急電話が再び
さて、今度は名刺入れの内側、内装のカラーを決めます。と、この瞬間また携帯電話が鳴ります。あきらかに緊急を要する電話。再び会長は席を外されました。
そこでまた再び奥様と私の打ち合わせ。コーポレートカラーがブルーであることを存じ上げておりましたので品のあるロイヤルブルーをご提案いたしました。会長のお好きなカラーであるということが分かり、今度は悩まれることなく第一候補にしていただきました。奥様と何気ない会話を重ねているうちに、やがて会長が戻られます。
黒のコードバンとロイヤルブルーのスエードを合わせてご覧いただくと「あ~ いいね」と即決です。ステッチカラーを決定いただき、完成に近づいてきます。
最後の決め手は名入れ刻印
そして最後にお決めいただくのは会長のお名前刻印です。イニシャルにするか、フルネームにするか、頭文字ドットで姓名どちらかをフルにするか、ここは悩みどころ。ここで会長の携帯は鳴りません。これまで、ほぼ即決の流れから一転、「う~ん」と迷われていらっしゃいました。
記念品制作のプロである私も、お名前刻印だけはアドバイスさせていただくことはなく、お客様にご判断を委ねます。すると、奥様からのご提案がありました。「〇〇が良いんじゃない?」と会長に。
それは、イニシャルでもフルネームでもなく、奥様が普段ご主人(会長)を呼んでいる下のお名前の省略版、いわゆる愛称でした。全く想定していなかった刻印のアルファベット。
思わぬご提案に会長は一瞬躊躇されたものの、うなずかれ、そちらの愛称に決定です。奥様の愛情、ご夫妻の絆をひしと感じさせていただいた瞬間でした。
世界に一つだけのかけがえのない価値
ゆっくりとオーダーメイドのひとときを楽しんでいただこうという、私の願いは見事に叶わず、電話の対応で席を外されることが多かった、少し慌ただしかったとも思える時間。
それでも会長は、とてもご満足されているようで「出来上がりを楽しみにしています」と、笑顔でいらっしゃいました。
上場企業の経営者として、会社では常に経営判断を委ねられるお立場。この名刺入れという作品づくりには奥様に判断を委ねました。会長が望まれたこのオーダーメイドの名刺入れは、決してご自身の主張を通したものではなく、奥様の深い愛情を具現化したものでした。
そこから生み出される唯一無二のモノこそが、会長にとっては最高級のコードバンをも超える、世界に一つだけのかけがえのない価値だったのです。



