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保護者のための成年年齢引き下げ講座1 ~親権がなくなる!

池見浩

池見浩

テーマ:消費者教育

こんにちは。消費者考動研究所代表 消費生活アドバイザーの池見です。

多くの方がご存知のとおり、4月1日に、法律上の「成年」年齢が従来の20歳から18歳に引き下げられます。若者の社会参加の促進や自立意識の育成が期待される一方で、18歳の誕生日を迎えた時点で未成年者取消ができなくなるなど、消費者トラブルの多発が懸念されています。

では、自分が成年になるわけではない保護者にとって、「成年年齢引き下げ」はどんな意味合いがあるのでしょうか。また、保護者を含めた周囲の大人は、何をどのように考えて行動すればよいのでしょうか。更に、近い将来子どもが成年になる保護者は、今から何を準備すればよいのでしょうか。
18歳になる子ども向けの情報はたくさん流れていますが、周囲の大人向けの情報は意外と発信されていないように思います。このコラムでは、そうした情報を複数回に分けてお伝えいたします。

1.そもそも、「成年」の意味、「成人」「大人」との違いは?

よく「成人」「大人」と混同されますが、正確には異なります。
「成年」とは、主に民法上で規定された権利と責任を、自分自身だけで行使できるようになる年齢のことです。契約も結婚も、親権者などの同意なく自分の意思でできますし、その分自分で責任を負うことにもなります。
「成人」は、法律で規定された言葉ではありません。人として一定のレベルまで成長したなど、主観的な部分があります。その為、現時点では、成年年齢が引き下げ後も、大多数の自治体は成人式を20歳で行うことにしています。
「大人」はもっと概念的です。何歳になっても、考え方が幼い、あるいは大人だなどに言い方があるように、実は年齢に関係ない面もあります。

2.未成年者って、法律上どういう意味?

それは、契約などの法律行為を行うだけの、知識・判断力を含めた「意思能力」が不十分な「制限行為能力者」であるという意味です。「意思能力」が不十分だから、きちんと判断できる親権者が同意していない契約は正しい意思表示ではないという前提で、「未成年者取消」が認められています。

3.成年になるとは、保護者の親権がなくなること!

でも、ここでお気づきでしょうか。今回の成年年齢引き下げであまり語られていないキーワードがあります。それは「親権」です。
親権とは、未成年者の子どもの監護・養育、財産管理、そして子どもの代理人として法律行為ができる権利や義務のことです。具体的には、次のように定められています。

1.財産管理権

  • 子どもの財産を管理する権利
  • 子どもの法律行為に同意する権利

2.身上監護権

  • 身上監護権とは、子どもの利益のために、子どもの監督保護・養育を行う権利のことです。具体的に次のように決められています。
  • 身分行為の同意権・代理権:子どもが身分法上の行為を行うにあたり、同意や代理人となる権利
  • 居所指定権:子どもの住む場所を指定する権利
  • 懲戒権:子どもが悪いことをした時などに、監護養育上必要な範囲で叱ったりしつけたりする権利
  • 職業許可権:子どものアルバイトや就職、開業などを許可する権利

これらの権利は、子どもが未成年者だからこそ、保護者として法律上認められています。ところが、未成年者が成年になれば、必然的に親権はなくなります。
*養育費の負担については、親権と切り離して、子どもが自立できるまでとの考え方があります。

4.親権がなくなると、契約上は全く関係ない人になる

子どもが何か契約する例でご説明します。
子どもが未成年の時は、親権者は法定代理人なので、自動的に代理人として親が契約や解約などを行うことができました。
しかし、子どもが成年になると法定代理権を失います。子どもが契約トラブルに巻き込まれたとしても、親は契約上他人ですので、基本的には家族であっても交渉権がありません。その為、成年になったら、自分自身で対処することが要求されます。もし親が代理人になるとすれば、他人と同じように、子どもが親に代理権を与えて、親が自分は代理人だと交渉相手に名乗る必要があります。

逆に、未成年者は親の承諾があれば、親の名義でアパートを借りることができました。しかし成年になると親の承諾は不要となり、自分の責任で、自分の名義で自由に好きな所に住むことができるようになります。成年になった子どもは、親や家族とは契約上他人ですので、勝手に親の名義を使って契約すれば身分詐称になり、私文書偽造の犯罪に問われる可能性もあります。

更に、成年になった子どもが借金の返済に行き詰ったとしても、契約上他人の親に支払義務はありません。貸した業者も、関係ない親に請求してはいけないルールになっています。

5.成年年齢引き下げは子どもだけではなく親自身の問題と考える

相談現場では、成人した子どものトラブルについて、親御さんが子どもの代わりに相談されるケースがよくあります。もちろん、成年年齢を迎えたからといって「大人」に成長しているとは限らず、いろいろなご事情やご心配があってのご相談なのです。
しかし、中には「子どもは大学やアルバイトで忙しいので」「まだ社会人になりたてだからよくわかるはずがない」といった理由で、親権者としての立場のままの方もいらっしゃいます。
しかし、既にお子さんが成人されたのなら、トラブルになっている契約を解約したいのか、どう解決したいのかの決定権は、当事者であるお子さんにしかありません。

消費生活センターなどでは、基本的にお話は伺うものの、子どもさんご本人から再度ご連絡いただくようお願いしています。なぜなら、契約した時の言葉のやり取りや動機、ご本人の意思はご本人しかわからないからです。また、業者との橋渡しを行う場合は、代理権の無い方の依頼では動けませんので、必ずご本人とお話しするようにしています。

子どもが成年になるとは、自立への旅立ちのスタートラインです。
何事も、順調にスタートするには事前準備が必要です。未成年のうちから、成年になった時に必要な知識と考え方を身につけている状態を想定し、日頃よりアプローチすることが、トラブルなどに遭わないためにも重要です。
また、スタートしたら、自立に必要な経験や機会を積み重ねることでで、より大人として成長できます。未成年者時代のまま親が過剰に保護していたら、そのチャンスを失いかねません。もちろん、子どもも親離れが必要です。成年年齢引き下げは、子どもが成年になった後、親として子どもにどう接し、どうフォローするのかを見つめ直す機会と言えるかもしれません。

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池見浩
専門家

池見浩(消費生活アドバイザー)

消費者考動研究所

衣食住から法律、BtoCビジネスのコンプライアンス、消費者志向経営、エシカル消費、SDGsまで、幅広い専門知識で消費生活全般のトラブルに中立的に対応。教育現場や企業研修、メディアなどでの情報発信も行う

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