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建物だけでなく人と人とのつながりや時間までデザインする建築設計事務所

環境や時間をデザインするランドスケープアーキテクト

山内彩子

環境や時間をデザインするランドスケープアーキテクト 	山内彩子さん
ご主人で一級建築士の大川信行さん

#chapter1

環境・街・自然全体をデザインするランドスケープアーキテクト

「私は建築士というよりはランドスケープアーキテクトです」

と話すのは、東京・西荻窪の建築設計事務所・有限会社東風意匠計画の山内彩子さん。一級建築士としてご主人の大川信行さんと共に設計事務所を経営しながら大学の講師として教鞭を取り、そしてランドスケープアーキテクト、建築家として活躍しています。

 ランドスケープアーキテクトとは、建築物だけでなく造園や景観、自然、歴史などを考慮して、環境全体を美しくデザインして設計する専門家のことです。もともとはアメリカの資格で、日本では「登録ランドスケープアーキテクト」として2016年に国土交通省に「登録技術者資格」に認定されました。

「私がランドスケープアーキテクトに興味を持ったのは、建築家が格好良く合理的な建築物を作ることを求められていたのに対し、造園や環境という人に寄り添う方向に進みたい気持ちがあったからです」と話す山内さんは、大学院を卒業後、実践的に勉強するために造園の企業に入社。その後独立して、東風意匠計画を設立しました。大川さんが建築設計専門で、山内さんがランドスケープアーキテクトとして庭の造園や環境全体の設計ができるので、うまく役割分担ができています。

「建築家の多くは造園や外構などの外部の設計はほとんど訓練していないので得意ではありません。その点当社は建築も造園も分かるので、他の設計事務所から『建築は自分でできるが周りの環境まではデザインできないからやってくれない?』と頼まれることがあります」

 このように東風意匠計画は、建築と造園の両方ができることで他の設計事務所と一線を画しています。

#chapter2

建物だけでなくそこに住む人と人のつながりを意識して設計する

 東風意匠計画では、集合住宅の設計の依頼が多いそうです。その設計で山内さんがこだわってきたのは、建物だけでなくそこに住む人と人との関係をデザインすること。住民がどんな暮らし方をするかを考えた上で設計していくそうです。例えば二世帯住宅だとしたら親と子の関係、シェアハウスだったら友達関係というように。中でも注目しているのは、縁もゆかりもなかった人たちが集まって一緒に住む「コーポラティブハウス」や「コレクティブハウス」という集合住宅です。

「コーポラティブハウス、コレクディブハウスともに、多世帯住宅の他人版。近年では高齢化・シングルが増えてきているのでニーズは増えてきそうです」と語る山内さんは、実際に自分で設計した集合住宅を事務所・自宅として利用しています。

「例えば七夕のとき、うちの子供が家の前に笹を飾り『ご自由にどうぞ』と書いて短冊を置いたことがあります。するとそれを見た住民の方々が、短冊に願い事を書いて笹に飾ってくれました。住民同士のちょっとした関わりや多少の気配を感じられる関係がいいのかもしれません」と話します。

 また、ご主人の大川さんは、マンションの設計を数多く手がけ、独立してからは不動産の運用・管理面も勉強し、宅建やマンション管理士などの資格も取得してきたそうです。そのため集合住宅については建築設計だけでなく運用面でも造詣が深いです。

「運用を改善することで築30年の団地を再生して住民がより暮らしやすくなるお手伝いをしたことがあります。集合住宅では組合による運営が必要で、人数が増えるほど人と人との関係を考えることが重要です」と話す大川さん。運用面からも住む人が暮らしやすくなるかを考えられるのは、建築設計事務所としては大きな特徴といえるでしょう。

有限会社東風意匠計画 施工事例

#chapter3

時間をデザインして土地の使い方を時間で考える

 今、山内さんがもっとも興味があるのが、「土地継承」です。
「親の世代が継いできた土地に庭があって樹木が茂っている。メンテナンスは無理、と思う反面、良い環境を子供たちに引き継げないか、という気持ちもある」
こうしたご相談に、資産管理面だけでなく環境継承の観点で次を考えます。オーナーの住まいと多世帯の住まい、メンテが楽な庭や駐車場も、今あるものを生かしながら美しくデザインすることは可能だと思います。
 土地継承が面白いのは、場所と引き継ぐ人がどれを残してどれを新しくするかを考えていくところなのです」

 東風意匠計画の業務をする上で大切にしているコンセプトが4つあり、その一つに「時間のデザイン」があります。土地継承や建物のライフサイクルを見越し、その生涯において価値が増していくことを目指して時間の流れをデザインしていくのです。

「建物を作るとき、完成した瞬間が一番新しくて綺麗だと言われます。しかし、ランドスケープアーキテクトは環境全体を育てていくもの。木も植えたばかりの頃は小さいけれど、10年から50年ぐらいの期間で考えて大きくなっていくことを含めてデザインしていきたいんです」と想いを語る山内さん。

 東風意匠計画では建物を完成させてそれで終わりではなく、そこから長い時間をかけて価値が成長していく過程までをデザインしている稀有な設計事務所なのです。

(取材年月:2019年3月)

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専門家プロフィール

山内彩子

環境や時間をデザインするランドスケープアーキテクト

山内彩子プロ

一級建築士

有限会社東風意匠計画

戸建住宅や集合住宅、リフォーム、インテリアを含め、あらゆる形の住宅を設計しています。広範なノウハウをフィードバックさせ、様々な要求に対して柔軟なソリューションを提案することを目指しています。

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