相続の弁護士費用・報酬の相場はいくら?
相続は難しいものです。
「遺産をどのように分けるのか」といった相続人での話し合いがしにくいデリケートな問題に加え、登記変更のための書類、税務申告など複雑で煩雑なことが多く、戸惑う方が大半でしょう。しかも、近親者の「死」という問題に向き合いつつそういうことをすることになります。
相続の手続きに関する専門家には、「士業」と呼ばれる、司法書士、税理士、そして弁護士がいます。そして、それぞれに専門領域があります。
今回は相続手続について、誰に何を相談すべきか、そのあらましをお話ししましょう。
相続を相談できる専門家
相続については、相続財産をどう分けるかという問題だけではなく、役所への届け出などもあって、「何をどうすればいいか、わからない」ということが多いでしょう。そうした際、知識や実務力を備えた専門家の存在は心強いですし、相続をスムーズに進めるにあたっては専門家に相談されることをおすすめします。
相続手続きについて相談できる専門家としては、弁護士、司法書士、税理士が挙げられます。相続について困ったとき、どんな相談をどの専門家に相談すればいいのかをご説明します。
● 司法書士「親の家を相続することになったが、どうすればいい
相続財産に不動産が含まれる場合、亡くなった人(被相続人)から相続した人へ不動産の所有名義を移転しなければなりません。
司法書士は不動産登記の専門家で、登記申請の代理権を持っています。
あなたに代わって登記申請を行ってくれるので、不動産の相続については司法書士が頼りになります。
司法書士の場合、裁判所に提出する書類作成をしてくれますが、代理人として他の相続人との協議をしたり、調停に同行してあなたの利益を守る活動はできません。簡裁訴訟代理権認定を受けた司法書士であっても、家庭裁判所の遺産分割事件は扱えませんので、よく気をつけてください。
あくまでも、裁判所に出す書類だけ作ってくれると考えておいたほうがよいです。その後の調停での協議に関するサポートはできません。
● 税理士「相続税はどうすればいい?」
税理士は税の専門家ですので、相続税の計算や申告が税理士の専門領域です。
たとえば、親の家を相続した際の相続税については「小規模宅地の特例」があります。このような特例を利用することで、相続税を大きく節税することができることもあります。
また、亡くなった方(被相続人)が会社を経営していた場合、その事業承継も問題になります。こうした点について力を入れている税理士もいますが、税理士の扱っている事業承継はその方が生きているうちに、計画的に事業を承継するためのものですので、亡くなった場合にはあまりアドバイスはできないかと思います。
遺産分割・相続のトラブルが発生した場合には、税理士が間に入って協議をしたり、遺産分割協議をまとめることはできません。また、遺産分割の実務では、不動産は課税上の評価額ではなく市場価格を基礎としていますが、税理士さんは課税上の評価額を使おうとすることがあり、知らないでいると、これによって不利益を受ける相続人が出てしまいます(つまりあなたが不動産の価値をお金でもらいたいというような場合、市場価格が評価額より高いと損をしますが、東京では概ね市場価格の方がかなり高くなっています)。
ですので、自分の利益を守るためには、遺産分割の方法については税理士さんの意見をそのまま受け入れるのは慎重になったほうがよいでしょう。
● 行政書士は協議書を書いてくれる?
行政書士は、役所に提出する公的な書類作成の専門家です。紛争性のある事件に関与することはできませんので、全く争いがない遺産分割であれば、遺産分割協議書の作成だけを頼むことができるでしょう。
しかし、紛争性がない遺産分割というのはあまりないのが実態です。
行政書士は、弁護士よりは通常は安価ですが、現実の裁判実務に関与できる資格ではなく、不動産登記実務、民事執行の代理人業務も行っていないので、将来的にトラブルが出ないかというような現実の確認については、精密にできない可能性があります。
● 弁護士「遺産がどのくらいあるかわからない。そのうえどう分けるかでトラブルになりそう。いろいろ先にもらった人がいたり、横領してしまった人がいそう。遺産の全体をきちんと知って法的にきちんと権利を守って公平にわけたい!」というとき
このような場合、弁護士は、相続に関する相談相手として最も頼りになる専門家です。
不動産の登記だけなら司法書士、相続税の申告については税理士が専門領域ですが、弁護士は相続を専門のひとつとしている人なら、遺言作成、相続(遺産分割)の入口から出口まで親身に対応ができます。
たとえば母親が亡くなり、実家の家と土地(市場価格=4000万円)、そして預金2000万円が残されたとしましょう。法定相続人は長男Aさん、次男Bさん、末娘のC子さんとします。
遺言書がなかったので、遺産分割協議をした結果、母親と同居していた長男Aさんは、実家の家と土地を相続したいといい、次男Bさんと末娘C子さんが預金を半分ずつ(1000万円)分けることにしたいと言っているとします。
この場合、司法書士は実家の家と土地の名義を長男Aさんに変更する手続きをしてくれます。税理士は、各自の相続税の相談に応じてくれるでしょう。行政書士は遺産分割協議書がまとめればその内容を代書はしてくれます。
しかし、上記の分け方で三人は満足するでしょうか?
たとえば、次男Bさんから長男Aさんに「4000万円と1000万円じゃ額が違いすぎる。全体で6000万円あったのだから、せめて1500万円はほしい」というような要求が出たとしたら、どうでしょう。
長男Aさんが要求をはねつければ、争いに発展する可能性が高いです。
また、末娘のC子さんも、夫が最近リストラにあって教育資金が必要だから法律で認められた額を欲しいといい出すことは十分ありえます。
こういった場合、Bさん、C子さんの立場は民法では認められた正当な言い分ですが、長男が意固地でこれに対応してくれないと家から追い出すことはできないし、BさんもC子さんも何ももらえないまま、時間だけがすぎます。こういう相続トラブルを解決できるのは、弁護士だけです。
司法書士、税理士、行政書士、いずれもBさんやC子さんの代理人として、このトラブルの解決に関わることはできません。なぜなら、弁護士だけが「紛争における代理権」を有しているからです。
相続についての専門家利用(メリット・デメリット)
相続において、どの専門家に相談するのが得で、どの専門家に相談するのが損か、これを相談にかかる費用だけで測ることはできず、事案によります。
円満な遺産分割が、相続人の間で合意できるなら、弁護士は必要ありません。しかし、不動産が遺産に含まれると現実にはそうしたケースはそう多くはありません。調停まで必要ではなくても、一定の協議が必要でしょう。
また、介護を主としていた親族が預金などを預かっていることが多く、数千万円が消えていて、かなりが横領されているらしい・・・・というような事案もよくあります。
しかし、そういう疑いが実は勘違いで、きちんと管理されていたというようなこともあります。
最近はマンションの資産保有会社があるが、なぜか長男が代表取締役になってしまって、保有マンションの賃料をすべてもらっていて、どこに保管してあるのかすら教えないというような、深刻な横領のような使途不明金のケースもあります。
遺産分割の紛争、相続トラブルは、相続人の間に深刻な傷を残し、仲の良かった兄弟姉妹が憎しみ合い、絶縁状態になってしまうこともあるのですが、それも早めにきちんと代理人を立てて、冷静な協議をすればさほど大きな傷にならないですむこともあります。
本来は遺言の段階で相続にまつわる問題を回避しておくのがよいのですが、なかなかそうもいかないことが多い(死んだときのことを考えたくない高齢者が多いのでしょう)ため、遺産が残されて、それをケーキを切るようにうまくわけることは当事者だけでは困難でしょう。
うまく遺産を分けられない、そもそも遺産が何なのかはっきりしていないので協議ができないというような場合、なるべく早く解決することが大事で、それが各自の権利の保護のため、相続においてとても大切なことです(時間がたつと資料なども、なくなってしまいます)。
そのためには専門性のある弁護士に、早めにご相談されることが大事です。裁判沙汰にしたくないとういう場合には、協議だけを依頼することもできます。