遺産分割協議は弁護士へ
「親の家を相続することになったけれど、他に大きな遺産はないので売却して相続人でわけるしかない」「誰も住まない家をもっているより売却したほうがいい」というようなケースがよくあります。
そう思っていても、何をどうすればいいのか「わからない」という方が多いのではないでしょうか。相続人でうまく話せないということもあるでしょう。
相続した不動産を売却するためには「相続登記」を行わなければなりません。また、それまでにやるべきこともあります。今回は、相続した不動産を売却するまでの流れや、売却時の注意点などについて、お話しします。
不動産相続の流れ
はじめに、相続の発生から不動産の相続までの流れをざっと確認しておきましょう。
◆1:相続の発生(死亡時)
被相続人(亡くなった人)の死亡診断書を医師からもらい、死後7日以内に死亡届とともに役所に提出します。
◆2:遺言書の確認
遺言書がある場合、相続は原則としては、遺言書にしたがうことになります。まず、遺言書があるかないかを確認しましょう。
ただし、自筆証書遺言(亡くなった人が書いた遺言)の場合、相続人で勝手に開封してはいけません。必ず、家庭裁判所で開封し、検認を受ける必要があります。心配なら弁護士に手続きを依頼しましょう。
2019年の法改正で、自筆証書遺言を法務局が保管する制度ができました。その場合、家庭裁判所での検認が不要になりますが、施行時期は2020年7月10日です。
公正証書遺言(公証役場で公証人に作成してもらった遺言)であれば、家庭裁判所での検認手続きは必要ありません。公証役場が保管しています。
◆3:法定相続人の確定
相続においては、法定相続人を確認する必要があります。たとえば、父親が亡くなって、相続人は子である自分たちだけと思っていても、実は昔、認知している子がいた、ということもありえます。知らないうちに長男の子が養子縁組していて、縁組の有効性が疑わしいというようなことも多々あります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本を取得し、法定相続人を確定します。
◆4:相続財産の確定
相続財産を確定します。相続財産はプラスの財産とは限りません。相続財産には借金などマイナス財産も含まれます。その点を確認しておかなければ、相続人が大きな借金を受け継がなくてはならないということになります。
次の遺産分割協議を進めるうえでも、相続財産の確定は大切です。
◆5:遺産分割協議
遺言書がない場合、法定相続人の間で、どのように遺産を分割するかを話し合います。これを遺産分割協議と言います。
相続財産の法定相続分(各法定相続人が受け取ることができる財産)は、民法に定められています。
法定相続人が、亡くなった人(被相続人)の3人の子ども、長男Aさん、次男Bさん、長女Cさんの場合、それぞれの法定相続分は1/3ずつになります。
相続した不動産を売却して3000万円を得たとすれば、1人あたり1000万円ずつ受け取ることになります(ただ、法定相続分通りに分割しなければならないということはありません)。
協議の結果、同意が成立したら遺産分割協議書を作成しましょう。遺産に不動産が含まれるような場合、きちんと弁護士に作成を依頼しましょう。
相続不動産の相続登記
遺産分割協議の中で、ある人が不動産を取得してその人が一定の代償金を他の人に払うという解決方法をとることができます。その時、取得した人が相続した不動産を売却してお金をつくりたいなら、売却する不動産の名義をその人に名義変更したうえで売却します。
この、「相続登記」を行ってからでないと不動産を売却することはできません。上の例で言えば、たとえば長男Aさんの名義に変更したうえでAさんがひとりで売却するということです。
しかし、こうするとAさんがきちんとお金をはらってくれるかB、Cが不安になることがあります。
この不安がある場合には、相続人の間で売却をすることの合意をして売却を先行させます。そして、その代金の分配方法を決めておくのです。たとえば、土地・建物のうちまずは売ってもよいということになったものを売ってしまうことで、遺産の一部を分けやすいお金にしてしまって、現実の遺産分割協議をまとめやすくするのです。
こういった複雑な売却になると、相続人に代理人弁護士が必要になってきます。具体的にはなるべく裁判所の調停を使って、進めていくのが安全でしょう。
相続した不動産については、三人が相続の権利を持っていますから、3人の共有名義にまず変更して、三人がまとまって売ることになります。なお、相続した持ち分だけを売ろうとしても市場では通常持ち分のみを買ってくれる人はいません。
遺産を売るのはもったいないということで、賃貸に出して賃料を分けるという解決もあり得ます。そういった解決をするのであれば共有のまま、3人で所有して、その管理方法を遺産分割協議書に書いていくことになるでしょう。こういったフレキシブルな解決には法的知識が必要ですので、弁護士の介在が不可欠になると思われます。
次に「相続登記」の手続きについて見てみましょう。手続きは次のようになります。
■ 1:相続する不動産の登記事項証明書を取得
「登記簿謄本」と言ったほうがピンとくる方もいらっしゃるでしょう。登記されている不動産の名義人や権利関係が記載された書類です。
■ 2:遺産分割協議書の作成
遺産分割協議の内容を示すものですが、上記のようにいろいろな解決法があるので、それにしたがった内容になります。また、お金のやり取りがきちんとされるように、不履行となったら遅延損害金を払わせるようにするなど、工夫が不可欠です。調停では、協議成立の日に現金や弁護士の預かり口座でやり取りをすることで確実にお金が支払われるようにすることもよくあります。弁護士は、現実の支払いがどうされるかについては、いつも気を使っているのが普通です。
■ 3:相続登記申請書の作成
相続登記の申請書は、法務局のホームページからひな形をダウンロードすることができ自分で作成される方もいらっしゃいます。しかし、慣れないと時間がかかりますし、不動産登記の専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。
■ 4:相続登記申請
被相続人の戸籍謄本など(被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、被相続人の住民票の除票)、相続人全員の現在の戸籍謄本や住民票、戸籍謄本などを添付して、法務局に申請します。場合によってはかなりの量となります。弁護士に依頼していれば弁護士が取得します。
以上で、相続登記が終了します。
相続不動産を売却する際の注意点
相続した不動産の売却については、不動産会社に依頼することになるでしょう。その際、不動産会社と契約を結ぶことになりますが、これを「媒介契約」と言います。
このとき共有のままで売る場合には共有者全員が契約当事者になります。
不動産業者は紛争になっている売主を嫌う傾向があるので、共有のまま売るのであれば共有者全員(相続人全員)が売ることに賛成していることを示すためや、円滑に売ることができるように、相続人の代理人弁護士が、通常は必要でしょう。たとえば、売買契約を締結してから引き渡しができないと売主は責任を負いますので、他の相続人が売ることと、売却価格について現実に納得していることが重要です。
そして、この媒介契約には「(1)一般媒介契約」「(2)専任媒介契約」「(3)専属専任媒介契約」があります。
「(1)一般媒介契約」は、同時に複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことができます。しかし、「(2)専任媒介契約」と「(3)専属専任媒介契約」は1社としか契約できません。
不動産会社としては、自分のところだけと契約を結んでもらったほうがいいわけですから、「(2)専任媒介契約」と「(3)専属専任媒介契約」をすすめる場合が多いでしょう。
しかし、まず数社と話をし、そのうえでどの会社と、どういう契約を結ぶか判断されることをおすすめします。不動産業者のご担当によって今後の取引がスムーズに、気持ちよくできるか、買う相手にも良い印象をもってもらえるか、変わってきます。
代理人弁護士が介在して遺産を売るような場合には、当事務所では大手の業者複数から依頼者と相手の方々と合意できる業者を選び、代理人に適宜報告をしてもらい、決済時にきちんと合意に沿った代金処理ができるようにします。
誰かが代金を独り占めにしないよう気を付けて売却しましょう。