既製服が合わない方へ|立体裁断と仮縫いで仕立てるオートクチュール

三宅矢寿子

三宅矢寿子


袖を通すたびに、どこかが少しだけ違う…。既製の服でそんな違和感を覚えたことが、誰しも一度や二度はあるのではないでしょうか。

オートクチュールは、王女や女優など特別な方だけのものだと思われがちです。しかし私は、そうではないと考えています。立体裁断でお一人ひとりの体に合わせて仕立てていくことで、その「少しだけ違う」という違和感を、かなりの部分まで解いていけるからです。

「オート(高い)」「クチュール(縫製)」を語源とするこの言葉が指しているのは、着る方の体形や個性、雰囲気、生活習慣までくみ取って仕立てる、世界に一つだけの服のことです。身長の関係で既製服が合わない方、事故や病気で体に左右差のある方からも、私はよくご相談をいただきます。

今日は、ご相談をいただいてから一着ができあがるまで、私が何をどの順番で行っているのか。そして、どこにいちばん時間をかけているのかをお話しさせてください。

デザイン画から縫製まで、一人で通して担う理由

これは、初めてアトリエにいらした方が最初に驚かれることのひとつなのですが、私のところでは、ご要望を伺ってデザイン画を描くところから、立体裁断、仮縫い、本縫いまでを、私が通して担当します。

フランスのオートクチュールでは、デザイン、立体裁断、仮縫い、縫製など、それぞれの工程を専門の職人が担当します。
私は、その環境の中でデザインから立体裁断、仮縫い、縫製、仕上げまで一連の工程を一人で行えるように特別に仕込まれました。

このデザインから仮縫い、縫製までを通して行い、そこで得た知識を、お客様お一人ひとりの「美しく着る」に結びつけていく。私がこの形にこだわっているのは、それこそが本当のオートクチュールだと考えているからです。

立体裁断とは、ボディに布を直接当てて型をつくる工程

立体裁断とは、まず採寸によりお客様の身体を忠実に、ボディ(人体模型)に再現します。そのボディにシーチングという生地を利用してデザイン画通りに洋服を作成します。そして、そのシーチングの生地での仮縫いをした後、そのシーチングがお客様の唯一の型紙として使用され縫製に移ります。よって、平面の製図から入る方法との違いは、まず第一に、直接本生地を切ることはありません。また、デザインのフィット感と仕上がりの着心地が全然違います。

さらに、平面の製図から入る方法と比べると、途中で確かめられることが違います。ドレープのひだがどう落ちるのか、肩から袖にかけての線がどう流れるのか。そうした複雑な質感やシルエットを、まだシーチングの生地の状態のうちにご本人に確認していただきます。

本生地の糸、ボタンもこの段階でご一緒に選んでいきます。同じデザインでも、選ぶ生地が変われば微妙に雰囲気が変わります。よって、さらに本生地でもう一度仮縫いを行います。

私がパリのオートクチュール組合洋裁学校に提出した卒業制作は、腕や肩の可動域を出すために、人の体に合わせて立体的に仕上げるラグラン袖の作品でした。ありがたいことに最高点をいただきましたが、そのとき体で覚えたのは、動ける服をつくるには平面で考えているだけではたどり着けない、ということでした。

その感覚は、今も毎回の裁断で使っています。マガジン仕立てのホームページに載せている服も、すべて立体裁断で型をつくり、縫製したものです。
https://coquetterypiggy.com/

いちばん時間をかけるのは、立体裁断のあとの仮縫い

工程のなかで私がいちばん力を入れ、いちばん時間をかけているのは、立体裁断のあとの仮縫いです。ここを急ぐと、あとの工程でいくら丁寧に縫っても取り返しがつきません。

仮縫いでは、試作をお召しになっていただき、少し歩いていただき、腕を上げ下げしていただきます。そこで出てきたわずかなずれを直し、また着ていただく。これを何度か繰り返します。

なぜそこまでするのかというと、人の体は左右対称ではないからです。肩の高さがわずかに違う、片方だけ動かしにくい、いつも決まったほうに重心がかかる。こうした差は、まっすぐ立って鏡を見ているだけでは、なかなか見えてきません。

仮縫いは、その差を布の上で見つけていくための時間です。事故や病気で体に左右差のある方の場合も、洗練された着こなしになるよう、全体のバランスに気を配りながら調整していきます。ご本人がコンプレックスを感じずに袖を通していただけること、そこを目指しています。

そして仮縫いを終えてからの本縫いは、手縫いと足踏みミシンで、ひと針ひと針進めていきます。「体のラインをきれいに見せながら、着ていて楽であること」を両立させるためには、仮縫いで詰めた形があってはじめて、実現できるようになります。

体形が変わっても着続けていただくための設計

もうひとつ、仕立てるときに縫い代を必ず二センチ残すのがオートクチュールの決まりです。体形は、年齢や生活の変化とともに変わります。そのときにお直しができるよう、あらかじめ布を残しておく。一着を長く着ていただくための、目立たない準備です。

服を大切にすることは、自分を大切にすることだと思っています。落ち込んだ日には心を支え、うれしい日には気持ちを高めてくれる。経営者や学者のお客様が、勝負服としてあつらえてくださることもあります。

だからこそ、流行を追うことはしません。世代を超えて受け継いでいける普遍性を備えていること。いつの時代も色あせない美しさを宿していること。オートクチュールの魅力は、そこにあると考えています。

母の介護をしていたころ、介護中もおしゃれを楽しんでほしいという思いから生まれたのが「ストールベスト」です。ストールベストとは、ボタンやマジックテープを使わず、腕を通す穴を二つ開けただけの仕様で、上下・前後・裏表を問わず着られる羽織もののことです。

仕様はこれ以上ないほど単純ですが、立体裁断でつくっているため、羽織ったときに美しいドレープが出ます。羽織もののほかに、ひざ掛けや、胸元・腰に巻くパレオとしてもお使いいただけます。生地には、通気性がよく肌ざわりのやわらかい日本の伝統織物「播州織」を用いています。

この独自の意匠と構造で、2016年に特許(特許第5945033号)を取得しました。2019年には、東京都大田区などが手がける「大田のお土産100選」に入選しています。介護という日常の必要から生まれたものでも、オートクチュールの技術を土台にすれば、長く使っていただける形になることを実感した出来事でした。

まとめ

体に合う一着は、採寸の数字だけでは決まりません。立体裁断で形をつくり、仮縫いで何度も確かめていく時間こそが、その方らしく美しく着ていただくための近道だと私は考えています。

・既製服のサイズがどうしても合わず、着るたびに気になる箇所がある方
・体に左右差があり、それを気にせず着られる一着をお探しの方
・大切な場面のための服を、時間をかけて仕立てたい方
・思い出の生地を活かして、長く着られる服にしたい方


洋服についてのご質問やご相談はもちろん、機会があれば立体裁断の実演を通して、オートクチュールの服作りの技術もお伝えします。
ストールベストを扱うセカンドブランド「Sur la Seine」とあわせて、装いのご相談を承っています。どんな服がお好きか、どんな場面で着たいか。そのあたりからで構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。

ホームページはこちらです(https://coquetterypiggy.com)。
ストールベストについては、セカンドブランドのサイト(https://surseinejp.com)もあわせてご覧いただけます。

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Mybestpro Members

三宅矢寿子
専門家

三宅矢寿子(モデリスト(立体裁断師)、スティリスト(デザイナー)、クチュリエール(洋裁師))

アトリエヤスコ

パリのオートクチュール組合洋裁学校を首席で卒業し、「NINA RICCI」で10年以上勤務。立体裁断と縫製の技術で、顧客一人一人に寄り添い、その人らしい魅力を引き出す世界に一着だけの服を仕立てます。

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