【日本理化学工業(株)大山社長】講演会
~突然の退職を防ぐカギは、“小さな期待”に気づくこと~
社員が辞める理由の多くは、「大きな不満」ではなく、「小さな期待が満たされなかったことの積み重ね」です。
その“アンメット期待(満たされない期待)”を、どう見極め、どう応えるか――これは今、地方中小企業にこそ求められている課題です。
社員が離職を考えるとき、表向きの理由は「給与」「休日」「仕事内容」など様々ですが、実際に掘り下げてみると「自分の意見を聞いてもらえなかった」「成長のチャンスがない」「自分の存在が認められていない」といった、心理的な“満たされなさ”が根底にあります。
こうした感情の積み重ねが、いわゆる“静かな退職(Quiet Quitting)”の温床になります。
つまり「まだ辞めるとは言っていないが、心は離れつつある状態」。この段階で手を打てるかどうかが、組織の定着力を左右します。
では、企業側ができることは何でしょうか。
第一に、「定期的な1on1面談」の実施です。
評価や指導ではなく、あくまで“近況確認”の場として設けることが大切です。
「最近どう?」「困っていることはある?」といった雑談から、職場や家庭の変化、人間関係の兆しを感じ取ることができます。
この“対話の積み重ね”が、信頼関係を築く最初の一歩です。
第二に、「キャリアの棚卸し機会」を設けること。
社員にとって“自分は今どの位置にいるのか”“どんな成長を望んでいるのか”を見つめ直す時間は、日常業務の中ではなかなか取れません。
定期的にキャリア面談や自己申告制度を取り入れることで、社員の将来像と会社の方向性を擦り合わせることができます。
結果として、「会社が自分の成長を応援してくれている」という実感が、離職防止に直結します。
第三に、「上司教育」。
多くの離職は、仕事内容よりも“人間関係”、特に上司との関係で決まるといわれます。
上司が“期待を伝え、成果を認め、変化に気づく”ことができる組織は、離職率が低い傾向にあります。
管理職にも「キャリア支援者である」という意識改革を促すことが不可欠です。
そして、見落とされがちなのが【外部キャリアコンサルタントの活用】です。
社内の関係性が近いほど、社員は本音を話しづらくなるもの。
第三者である外部キャリアコンサルタントが関わることで、社員が素直な思いを打ち明けやすくなります。
相談内容を個人情報として守りながら、企業には「組織としての傾向」や「改善の方向性」をフィードバックすることが可能です。
特に、管理職と若手の間に“キャリア意識のズレ”が生じている場合、外部の専門家がその橋渡し役を担うことで、組織全体の風通しが大きく変わります。
外部の視点を取り入れることは、「社員の声を聴く仕組み」を社内に定着させる第一歩です。
社員のキャリアを支援する姿勢を示すことが、結果的に「この会社で働き続けたい」という心理的安心感につながります。
“アンメット期待”を放置すると、やがて組織全体の温度が下がります。
社員が退職を考える前に、「期待に気づき、応える」――その仕組みづくりの一つとして、外部キャリアコンサルタントの活用を検討する価値は十分にあります。



