賢い相続のポイント⑦【遺産分割の方法】
配偶者居住権
「意義と法的性質」
[配偶者居住権]
意義
配偶者に、被相続人の遺産のうち配偶者居住権という使用収益することに限定した権利(制限の無い所有権の取得よりも低い価格で評価される権利)を取得させることにより、預貯金などの生活資金を確保する余地が広がります。残された配偶者の住み慣れた居宅での居住権確保と一定程度の生活資金を確保するための仕組みです。
相続税における配偶者居住権の評価はこちらを参照
→国税庁ホームページ配偶者居住権等の評価へリンク
法的性質
配偶者のみの一身専属権とされ、賃借権に類似するものとして債権として位置づけられました。無償使用ができる点では使用貸借にも近い性質があります。 登記のみが対抗要件とされています。
「権利取得の方法」
被相続人の配偶者が、遺産に属する(被相続人が単独で所有していた、または配偶者と共有であった)建物に、相続開始時に居住していたことを前提として、以下のような場合に配偶者居住権が成立します。
①遺産分割(協議、調停、審判)
共同相続人全員の協議に基づき、配偶者居住権を取得させることができます。遺産分割調停や遺産分割の審判においても取得させることができます。
ただし、配偶者以外の相続人に特定財産承継遺言によって建物所有権を取得させたり、配偶者以外の者に遺贈や死因贈与によって取得させた場合は遺産分割によって配偶者居住権を取得することはできなくなります。
②遺贈
「配偶者に配偶者居住権を相続させる」旨の記載(特定財産承継遺言→遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(法第1014条第2項)。いわゆる相続させる旨の遺言のうち遺産の分割の方法の指定がされたもの。)によって配偶者居住権を取得することはできません。
もっとも、「遺贈」を登記原因とする配偶者居住権の設定の登記の申請において、配偶者に配偶者居住権を相続させる旨の記載がされた遺言書を登記原因証明情報として提供する場合にあっては、遺言書の全体の記載からこれを遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り、配偶者居住権に関する部分を遺贈の趣旨であると解して、当該配偶者居住権の設定の登記を申請することになります(令和2年3月30日民二第324号)。
③死因贈与
死因贈与契約においても、遺贈に準じて配偶者居住権を取得させることができます。
配偶者が相続放棄した場合であっても、遺贈や死因贈与によって配偶者居住権を取得することは可能です。ただし、債務超過にある相続財産に対して、相続放棄により債務を免れた場合に、当該取得行為が、詐害行為取消請求の対象となり得ることは注意しなければなりません。
「配偶者居住権の内容」
使用収益
配偶者は、居住建物の全部について無償で使用収益することができます。建物の使用収益にあたっては用法遵守義務が課されており、従前の用法に従って使用収益しなければなりません。配偶者居住権を譲渡することはできませんが、所有者の承諾を得れば、居住建物の改築増築をし、または第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができます。また、建物所有者には、配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務があります。
存続期間
配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間とされます。例外として、遺産分割の協議や遺言あるいは家庭裁判所の審判において別段の定めがなされた場合には、その定めるところによります。存続期間の満了時に、配偶者居住権の期間を更新したり、伸長したりすることはできません。
第三者への対抗力
配偶者居住権は登記をすることによって第三者に対抗することができます。
配偶者居住権の各種登記申請書はこちらを参照
→法務局ホームページ/不動産登記の申請書様式ページにリンク
配偶者短期居住権
意義・法的性質
夫婦の一方が死亡したとき、残された配偶者が、被相続人の所有する建物に居住していた場合に、直ちにその建物から出て行かなければならないとなると、精神的にも肉体的にも大変な負担となります。配偶者短期居住権は、残された配偶者が、被相続人の財産に属した建物に、相続開始時に無償で居住していた場合に成立し、引き続き一定期間、無償で住み続けることができる権利です。この配偶者短期居住権は、配偶者のみに認められた一身専属権とされ、これを譲渡することはできず、第三者対抗要件も認められていない(登記することはできない)ことから、使用貸借類似の権利とされています。
存続期間
遺産分割をする場合は、遺産分割確定(遺産分割の協議がまとまるか遺産分割の審判がされる)まで、建物に住み続けることができます。早期に遺産分割が行われた場合も、被相続人の死亡から6か月間は、配偶者短期居住権が存続します。
ぜひ当事務所ホームページも、ご覧ください。
石原法務司法書士事務所
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