プロフィールにある「移動する薬局」って何?
富士市富士宮市にて在宅医療に携わっている薬剤師の栗原です。
薬局というところについて皆様はどのようなイメージを持たれているでしょうか?
近年はドラッグストアが生活圏内にあり、医薬品とともに日用品も一緒に購入することも少なくないため、親近感を持ってくださっている方も多いのではないかと思います。
お薬には、OTCと呼ばれるテレビ広告で紹介されたりする一般医薬品と、病院からの処方箋なら基づいてお出しすることができる処方箋医薬品とがあります。
処方箋医薬品は処方箋がなければ手に入れることが出来ません。病院前の調剤薬局はこのような医薬品を取り扱っている薬局ということになります。
調剤薬局には「調剤室」という、処方箋医薬品を取り扱う専門の部屋が用意されています。
調剤薬局内には何があるか?調剤室は薬局内から見える設計がなされていますから少し興味を持たれる方もおられるのではないでしょうから
そこで今日は、調剤室を中心とした調剤薬局の内部にある設備と、そこでなされている働きについて少し詳しくお伝えしたいと思います。
Ⅰ.処方箋受付窓口
調剤薬局を訪問して頂くと、最初に対応させて頂くのが受付事務です。
調剤薬局は、皆様に親近感を持って頂くことで服薬指導も実を結ぶ面が少なからずあります。そのため出来るだけ堅苦しくないような形で受付させていただいてます。
かといって病院から処方された処方医薬品を取り扱いさせていただいているという固い面もありますので、どちらかというと控えめなフレンドリーさを醸し出す薬局が多いかと思います。
受付事務で重要な働きは、マイナンバーカードや保険証で本人確認を行うということです。
ドラッグストアで買い物をしても本人確認が求められることはまずありません。でも調剤薬局は「保険調剤」といって、健康保険を利用してお薬をお渡ししているという公的な側面があるので、この本人確認という作業は欠かせない作業となります。
本人確認に留まらず、保険情報を確認した上で、登録されている情報と実際の現状が適合しているか?の確認も必要となります(たとえば勤務する会社が変われば保険も変わることがあります)。
そういった照会事項をクリアした時点で、レセプトコンピューターと呼ばれる医事会計システムを用いて、実際に病院から渡された処方箋の受付を行い、診療報酬の明細書の作成に取り掛かります。
以前はこの処方箋の情報をコンピューターに手作業で入力していましたが、今は処方箋にQRコードがついており、スキャンすれば自動で処方情報がコンピューターに入力されるようになっています。
この変化は比較的最近のことではありますが、調剤薬局にとっては決して小さくない変化でした。なぜならその分、事務の負担が減るのに加えて、入力ミスも少なくなったからです。
この処方箋の情報の入力の段階で、皆様の服薬の状態を確認させていただいて、お手持ちの残薬の状況や、処方箋の内容の照会をさせて頂きます。
何か処方内容に疑義すべき点があれば、処方元の医院の方に問い合わせをさせていただくことになります。
また処方箋によっては、一包化や分割調剤など、少し手間のかかる処理も必要になるため、「お薬をお渡しするのにどの程度の時間が必要か?」などをお伝えすることもあります。
患者様によっては「では何時ごろに改めて来る」といったことを申し出される方もおられます。
またこの時点で大切な作業として、この処方箋の受付時点において、処方箋に記載されたお薬が店舗内にあるかどうかをお調べさせて頂くということです。
一般に処方箋に載ってくるお薬は、だいたい1000種類程度と言ってよいと思います。平均的に、中規模の調剤薬局のお薬の在庫がその程度です。
1000種類のお薬を在庫として抱えるということは大変なことです。それでも全ての処方箋に対応できるわけではなく、在庫になければ卸(おろし)さんに問い合わせて、入荷可能予定を確認し、それで問題ないか患者様に確認する手続きを取ります。
場合によっては近郊の協力薬局に問い合わせをして、幾分かのお薬を「小分け」(こわけ)してもらって患者様に対応することになります。
もしも患者様の必要に間に合わないことが分かった場合には、在庫のある可能性の高い薬局を紹介したりすることも必要になってくるのです。
・・というわけで、受付といっても、実際のところ、調剤薬局の受付でなされている処理課題はとても多いのです。
これらの事務には国家資格は必要ではありませんが、民間の団体が認定する調剤事務資格などを取ることでこの働きに入り易くなってます。
ハローワークでは国の補助金を活用してこの資格を取得することも可能ですので興味のある方はぜひ一度ハローワークにお問い合わせください。
さて、次に薬局で受付が完了したら、処方箋の情報が調剤室内にデータや印刷版、また処方箋現物によって入り、それに基づいて調剤行為が行われることになります。
以下、調剤室内の構成要素にも触れつつ、話を進めていきたいと思います。
II.調剤室
調剤室の中には以下のような設備があります。
1.薬品棚
薬品棚は、卸(おろし)さんから仕入れたお薬を管理する場所です。
お薬の内服は錠剤のものが一般的です。錠剤はお薬の成分を糖分やコーティング剤で閉じ込めて、水で飲み込みやすい形になっています。
錠剤は、通常、「ヒート」と呼ばれるシート状の土台にセロファン、アルミ、プラスチックなどで封印された10錠単位のものが、10枚、つまり合計100錠で小さな紙の箱に入れられて薬局に仕入れされます。1箱、1000円から数万円するものです。
決して安くはないので、薬局は毎日、在庫の動きを確認して、夕方には、翌日届けられる品の発注を終えます。
在庫の管理は小さな薬局にとっては死活問題でもあります。
そのため、多くの薬局の薬剤師にとって、この在庫管理の作業は、実際、1日仕事のかなりの部分を占めます。薬剤師だからといって処方箋と睨めっこしたり患者様対応をしていれば良いのではないのです。
実際、薬剤師の業務を法的に規定している薬剤師法の第一条には次のように記載されており、医薬品の管理運営は、薬剤師の働きの上で、実際のところかなり重要な働きであると言っても良いのです。
第一条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。 第二条 薬剤師になろうとする者は、厚生労働大臣の免許を受けなければならない。
薬品棚には、無秩序にお薬を羅列して良いのではありません。例えば劇薬は劇薬、毒薬は毒薬として、特別に区分けする必要があります。
医薬品の管理運営ということをミクロの視点に立てば、素早く的確にこれらのお薬を調剤するために取り出しやすくすることはとても大切な作業です。
お薬の在庫の動きは、定期的に来られる患者様の受診予定にも影響を受けるため、比較的取り扱いの少ないお薬については、特定の患者様の受診予定日と睨めっこしつつ卸に発注をかけなければなりません。
それに留まらず、それぞれの棚に入ったお薬の在庫を確認して、「もう一箱発注するかどうか?」を判断する必要もあります。
最近はAIの発達により、薬局在庫をコンピューターで管理し、お薬も自動発注することも可能になってきていますが、実際の現場ではまだまだ、修練を積んだ薬剤師や調剤事務の判断に委ねられていると言えます。
お薬は、一度、箱を開封してしまえば、卸さんに返品することは出来ません。
高価なお薬を取り寄せても、それ以降、払い出しされずに、お薬の有効期限切れという憂き目にあうこともあります。
最近はそれら「不動在庫」を抱えた中小の薬局が協力して、必要無くなったお薬を販売し合う流通も生まれてきています。これもまた、「医薬品の供給」という点ではとても大切な作業であると言えます。
2.水剤台
「水剤」(すいざい)とは、シロップ状になった飲み薬のことです。お薬を成分として体に取り込む上で、この水剤という形のお薬は、まだ錠剤の飲めない小児や、嚥下(えんげ)機能の低下した高齢者にはとても大切です。それだけでなく、成分上、錠剤にするのが困難なものも水剤として流通しています。
水剤は、一回分の内服に都合の良いように小分けパッキングされたものもありますが、薬局内で、小瓶からメスシリンダーを用いてポリエステル製の瓶に入れる作業をすることが多い。
処方箋の情報を読み取って、1日分の内服用量と処方日数から総量を計算します。このような作業があるので、薬剤師の国家試験を受験する前に、薬学部の5年生になる段階でオスキー試験という実務上の処理能力が試される試験をクリアすることが求められています。
3.一包化機材
高齢者や、一度に内服するお薬が多くて管理が難しい患者様のために、お薬を一包化する機械が準備されています。
手作業で、シート状のお薬を取り出してセットするものもありますが、機械化が進んで、あらかじめ機械に開封されたお薬をセットして、処方情報を飛ばしてそれに基づいた一包化を行う機械を設置している薬局も多くなりました。
一包化は、一度に飲むお薬が多い患者様には大変助かるやり方ですが、一包化する立場の薬剤師にとっては、大変緊張の強いられる作業です。
入力違いや、何かの手違いで間違った内容のお薬が準備されたら大変なことです。患者様の体に大きなダメージを与えることも予想されます。
一包化の作業では、一包化の機械と向き合って、それを滞りなく運用する知識も必要となります。
何かトラブルが生じたら、その原因を特定し設定し直すこともあります。毎日運用するものだけに、汚れが生じるため、除菌、清掃作業も毎日求められます。これらは薬剤師になるために大学で学ぶ知見ではありませんが、実際の薬局の現場では、習熟が求められるところです。
4.薬歴・指導記録用のデバイス
薬剤師が患者様にお薬を調剤し投薬する上で、患者様の服薬状況を確認したり、併用薬を確認したり、処方箋の内容を検証したりすることは不可欠です。実際、薬局(薬剤師)は、お薬の「服薬管理指導」ということで患者様からお代金を頂いています。
患者様の中には、薬局あるいは薬剤師は、処方箋に基づいてお薬を準備するのが仕事と受け止められている方もいるように感じますが、そうではありません。薬剤師も、患者様にお薬をお渡しする以上は、責任が伴います。「服薬管理指導料」を頂いているということは、その証左です。
こういった服薬管理指導の上で重要になってくるのは「薬歴・服薬指導歴」を記録することデバイスです。
以前はこれらの記録は紙でなされていましたが、今ではパソコン上のデータとして残されるのが一般的です。
薬歴は、いくつかの記載方法が知られていますが、一般的には「SOAP」(ソープ)と呼ばれる記録方法が汎用されています。これは患者様の自覚症状、お薬の変更点などに着目し、薬理学的などを含めて、いかに患者様の状態に薬剤師が介入していくかを記載する記録方法です。
SOAPという記載方法が大事というよりも、いかに薬剤師が能動的に患者様に介入して薬剤師としての職能を発揮しているかということが大切です。SOAPは、その目的に基づいて記載されるものです。
薬歴ならびに指導歴は、現在は専用のプログラムを用いて記載されることが多く、処方内容を登録しているので、それに基づいたお薬の情報や副作用症状なども簡単に検索出来ます。これらを活用すれば、お薬をお出しする前に調べたいことも簡単に検索できるようになっています。
入力は、デスクトップ型のパソコンも使われますが、利便性が高いのがiPadを活用できるシステムです。
デスクトップ型の薬歴システムだと、パソコンから離れた瞬間に患者様情報を失念してしまうこともあるのですが、iPad型だと、手元に置いて患者様情報を参照しつつ服薬指導が出来るからです。患者様の過去の服用状況も瞬時に検索することができます。
5.水剤、注射剤、坐薬などのための冷蔵庫
注射剤や坐薬などは保冷して保管する必要があるものがあるため冷蔵庫が必要です。管理薬剤師は毎日、この冷蔵庫内の温度を記録することが求められています。
6.無菌調剤室
在宅の医療の働きでは、輸液材の取り扱いも多くなります。無菌調剤では、輸液の中にバイアル材やアンプ材の中に入った薬剤を輸液バックに混注する作業がなされます。
クリーンベンチというものが利用されます。クリーンベンチ内はホコリや浮遊物が入り込まないようにフィルターが使用されています。このような輸液材を取り扱う作業も、薬学部が6年制になってからはオスキー試験でその能力が測られることになります。
7.麻薬・毒薬等用の金庫
在宅では末期患者様が多くいらっしゃいます。末期がんの患者様などには当然、錠剤や貼り薬、舌下錠などの痛み止めが処方されますが、その保管に金庫が用いられています。
麻薬の管理は厳重な取り扱いが必要で、払い出しや納品の度に数を数えて記録する必要があります。
卸(おろし)さんが薬局に麻薬剤を納品される時にも同様の厳重な記録並びにやり取りがなされています。
Ⅲ.お薬の種類
1.内服薬(錠剤、粉剤、液剤など)
お薬は、その剤型から区分がなされています。薬学部では「製剤学」という科目で取り扱われる科目になりますが、お薬をいかに効果的に体内に取り入れるか?という課題がここには横たわっています。
たとえば口から飲んだお薬は胃の中で強烈な酸性条件下に晒されることで、お薬の成分が一部、分解されてしまったりします。そのため、製剤上の工夫をして、胃酸で溶けないようなコーティングがされたりします。
また小児などの場合、錠剤が飲み込めないことがあるため、粉剤や液剤のお薬も多くあります。
粉剤は電子秤(はかり)で計量され一包化されます。
液剤はメスシリンダーを用いて計測され、服薬ためのボトルに入れて患者様にお渡しします。
これらの作業は「製剤行為(つまりお薬を作る行為」とみなされ、薬剤師のみに認められた作業です。
2.外用剤(貼り薬・坐薬・点眼薬・点鼻薬・軟膏など)
「外用剤」としては貼り薬や坐薬、点眼薬、軟膏などがあります。
口から体に入れる内服薬とは違って、症状のある局部に直接にお薬の効果を届けることができるというメリットがあります。
たとえば膝の痛みで痛み止めの内服薬を飲むとすれば、飲んだ痛み止めの成分は全身の痛みに作用します。
ところが目的は膝の痛みを和らげるだけだとしたら、それ以外の四肢に作用している働きは余分ということになります。お薬の働きには副作用が付き物なので、痛み止めの全身への働きは無くて良いはずのものです。
これを貼り薬で直接に患部に貼り付けると、痛み止めの成分は患部に集中して効果を発揮するのです(最近、販売され始めたジクトルテープは例外的に全身作用を目的とした痛み止めの貼り薬です)。
こういったことは、貼り薬に限らず、点眼薬でも坐薬でも点鼻薬でも同じ。
外用薬というものは、こういった優れた剤型上の特性を持つということを知っておいていただきたい。
3.注射用剤
注射剤の代表格は、糖尿病に投与されるインスリン製剤です。
インスリン製剤は体内に投与すると、血液中のブドウ糖を血管外の細胞に取り込みます。高くなりすぎた血糖値により血管が疲弊することを予防します。これは腎臓や神経細胞の疲弊も防ぐことになります。
かつてはインスリンを注射するようになると糖尿病も進行していると受け止められ、余後(よご)不良と見做されることで、インスリン製剤自身が悪い印象を持たれていました。
しかし今の時代、インスリン製剤の性能も格段に向上しました。1週間に一度だけ打つインスリン製剤は、注射した部位に長く留まり、インスリンの作用時間を長くさせたりすることも出来ます。これにより、血中の血糖値をうまくコントロールし、糖尿病に伴う各種の疾病(成人病)の進展を防ぐことができます。
体内に体から放出されるインスリンと同様の成分を注射として投与するのですから、その成分の品質管理はとても重要です。調剤室内の冷蔵庫(とその管理)が、その品質を担保してくれるのです。
4.漢方薬
漢方薬は、かつてはすべて中医学の診断方法に基づいて漢方の専門家が、各人の体質に合わせて調合していました。
しかし現代では、漢方薬も、西洋のお薬と同様、それに含まれている成分を科学的に解明し、それがどのように体に作用しているのかの研究が進められてきました。
結果として、漢方薬が西洋のお薬と同様に、患者の症状に基づいて保険医療として処方されるように変化してきました。
もちろん現在も、中医学に基づいた漢方処方もされていますが、少なくとも処方医の「思想」や「考え方」「歴史・伝統」といった主観的、経験的な診断方法から漢方薬が解放されて広く浸透してきたということは紛れもない事実です。
漢方医が歴史の中で患者の体質の問題を重視してきた点が抜け落ちているということは、やはり評価の分かれるところですが、体に穏やかに作用する自然由来の薬物である漢方薬が、身近にドラッグストアなどでも購入出来る様になっている点は、積極的に評価されなければならない点でしょう。
Ⅳ.薬局内で働く人材
さて、ここでは調剤薬局の業務に携わる構成員について触れていきたいと思います。
1.薬剤師
言わずもがなですが、薬剤師です。薬剤師は現在は、大学で6年間の学びをして、薬剤師国家試験を通過してきたお薬の専門家です。
刑事罰を受けるといった特別な事例を除いて、この資格は薬剤師免許を取得した薬剤師が生涯に渡って保持するものです。
薬剤師であるということは、お薬そのものの専門家であるということです。
お薬は全て、化学物質です。お薬の化学構造を観察すれば、ある程度、そのお薬がどのような働きを持っているのかを理解できる面があります。そのため薬剤師は、医療現場では珍しく大学で化学系の修士を取る必要があります。
同時に薬剤師は医療者でもあり、お薬を服用したり使用したりする人体の側の専門家であるという側面を持ちます。
お薬が体に取り込まれた時、体の細胞にある「受容体」を介して作用を発揮します。この作用が生じる仕組みのことを「機序(きじょ)」と言います。薬剤師になる上では、このお薬の作用機序を理解することが求められます。そのため体の仕組みを細胞レベルから学習する必要があります。
実際、薬学部では早い段階から「細胞生物学」という分野の学びを、数年かけて太い専門書の全体を学習する過程が設けられています。
また薬剤師は、お薬がどのように体に吸収され、体の中を巡ったあと、最終的にどのように代謝(分解並びに排泄)されていくかを「薬物動態学」という科目で専門的に学びます。薬学部の学びの中でもかなり単位を取るのが難しい分野として知られています。
こういったことをクリアしてこそ、薬剤師のお薬についての知識と理解は説得力を獲得することが出来るとも言えるのです。
2.入力事務
処方箋を受け取った時、処方箋上に記載されている保険情報やお薬の情報をパソコンに登録する作業を担当する仕事がこれにあたります。
薬剤師の指導のもとにこの作業は行われますが、この入力の段階で、処方箋上の疑念が生じれば早めにその対応を検討することで、調剤行為が滞りなく進むことになるため、とても大切な働きと言えます。
既に触れてきましたが、薬局に在庫はあるのか?とか処方箋の記載事項の面で問題はないか?など、注意すべき点は多いため、判断力が問われる仕事といえます。
3.出納事務
出納(すいとう)事務は、特に在宅の働きを担っている薬局ではとても重要な働きです。在宅医療では、医療保険だけではなく、介護保険を用いたサービスも提供されるため、患者様の医療並びに介護の保険の確認を行い、制度に基づいた請求を患者様にする必要がある。
診療報酬は、薬局ならびに薬剤師が患者様に提供する医療サービスに基づいて算定されます。
たとえば「かかりつけ薬剤師」は、かかりつけ薬剤師として患者様と契約関係を取り結んだ場合、その患者様のお薬の服用状況を総合的に管理することで、お代金が発生します。
当然、していないサービスの対価を頂くことはできません。
反対に、本来なら対価を頂くべきサービスについて、保険請求をかけないと、そのサービスは無償になってしまいます。
保険請求の上で正確な知識を持つことがこの働きの上で大切な点です。
4.調剤事務
調剤事務の働きは、薬剤師の指示監督の元に、薬品棚からお薬をピッキング(取り揃え)をして監査役の薬剤師に回す働きです。
通常は薬局内には1,000種類近くものお薬が準備されている中で、処方箋通りのお薬を取り揃えることは、最初はなかなか出来ません。
でも次第に慣れてきます。
お薬の羅列方法は、店舗によって異なり、あいうえお順とか薬効別とかの秩序でなされています。それに従ってお薬を取り揃えることになります。
問題は、お薬には先発医薬品と後発医薬品があるということです。
先発医薬品は、お薬の商品名で表記がされています。それに対して後発(ジェネリック)医薬品は、現在は「成分名」で表示されるようになっています。
昔から販売されているお薬の中には、ジェネリック医薬品であっても商品名が表示されているものがあり、混乱の原因になっていましたが、この問題はかなり解消されてきました。
ピッキング作業の段階で、いかに「取り揃えのミスを少なくするか?」ということが医療過誤の発生を少なくする上で大切なポイントです。調剤事務の役割は重要なのです。
5.経理事務
経理事務さんは、薬局の備品の購入、卸さん他への各種支払い、勤める医療従務者の賃金の支払いの他に、有給休暇の管理など、職場環境の改善に務めます。
経理を外部の会計事務所にお任せする職場もありますが、やはり会社の内部の動きを把握しやすい内部労働者の方が、社内の必要に目を向けやすいため、環境整備の観点から好ましいと言えます。外部の人に任せた場合、薬局内の環境の綻(ほころ)びが生じてしまうのは間違いないと思います。
6.OTC、食品担当事務
保険調剤薬局の中で一般医薬品(OTC医薬品)を取り扱うことが多くなっています。
患者様の健康管理の上で、お薬の専門家である薬剤師が健康保険を利用しない一般医薬品の利用を推進することが国から求められていることが背景にあります。
この対応力ならびに環境を維持していることが、保険薬局に与えられる処方箋医薬品を取り扱う際に与えられる保険点数にも影響をもたらします。
このことは、全く同じ処方箋を別の薬局に持って行った場合、請求される費用には少し差があることを意味します。
中には「他の薬局では幾らだったが、ここでは違うのはなぜか?」と質問される方がいますが、それぞれの保険薬局が維持している施設基準の違いからそのような違いが生じているのです。
せっかくお薬を薬剤師のいる薬局で受け取るの出すから、色々なことを薬剤師から聞いておくことをお勧めします。
薬剤師に質問してもしなくても、お薬代に変化はありません。しかし質問すれば、お薬について専門の学びをしている薬剤師ならびに登録販売員から薬学的な観点から好ましいお薬の服用方法や、健康管理上の知見を聞くことができるのです。
「今はインターネットの時代だから、自分で調べれば良い」と思われるかもしれません。確かに多くの情報に触れることで、多くの方々の情報リテラシーが向上しているのは間違いありません。
しかし特定の分野の専門家であるということは、「さまざまな見解をバランス良く解釈することができる」ということです。専門外の事柄を調べると、偏った情報の受け取り方や誤解をしてしまうことがあるため、自分がお薬について考えていることや知っていることを、薬剤師などに「そういう理解で良いか?」といった具合に照会して頂きたいと思うのです。
また保険薬局で販売している食品は、健康維持管理の上で、品質の良いものである場合が多いため、健康維持はもちろんのこと、健康意識を高めるためにあえて保険薬局で販売されている食品を購入することもお勧めしたいです。
Ⅴ.輸液等管理室
在宅医療では多くの輸液の取り扱いもおこなっています。
「輸液」とは、体の内部にある中心動脈や、体表面近くにある末梢血管に注射針を打ち込んで、そこから体の機能維持に必要なミネラルや水分を補給する際に用いられる薬剤です。
患者の体調によって、含まれているミネラルのバランスを調節する必要があるため、一言で輸液といっても、種類は10種類以上になります。
輸液も、内服薬同様、一度体に入れてしまうと回収が難しいため、この取り揃えにも細心の注意が必要なのは言うまでもありません。
Ⅵ.監査室
お薬は処方箋の内容に基づいて薬品棚からピッキングされ、改めて薬剤師の監査者によって内容が確認されます。調剤室内にてこの作業が行われることがありますが、監査のために別室を準備することもあります。
シート状のお薬の場合であれば、シートそのものにお薬のバーコードが刻印されているため、それをiPadで読み込ませてパソコンに打ち込んだ情報と照合するかチェックします。
それでも、そもそも処方箋の情報とパソコンに打ち込んだ情報が適合しているかどうかもチェックが必要なため、バーコードで問題なかったことを前提として、改めて処方箋の内容と照らし合わせる作業がどうしても必要になります。
シート状のお薬であれば監査は比較的しやすいのですが、一包化になっている場合、入っているお薬の確認に手間がかかります。
そのため最近は、一包化の中のお薬を専用の機械でAIで判別させ、そのデータを活用して監査行為の効率化が図られています。最終的には薬剤師の目で判断するため、機械監査で自己完結させることは出来ません。機械には監査の責任は担えないからです。
調剤薬局内にある調剤室には以上のような設備ならびに働きがあります。
今度調剤薬局に来られた際には、調剤室での医療従事者の働きを覚えてくだされば嬉しいです。