子育て世代のスタッフさんも多くいます
富士市富士宮市にて在宅医療に携わっている薬剤師の栗原です。
今日は、わたしの紹介記事の中で触れられている「移動する薬局」ということについて少し踏み込んで書いてみようと思います。
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移動する薬局って何?
ー在宅訪問をする薬剤師がいる
「移動する薬局」というのは、軽バンに移動式図書館のようにお薬を積んで自宅にお届けする働きのことをさしているのではありません。
最近は食品と共に第3種の医薬品(OTC)を自宅に配達し、場合によっては玄関前でお客様から選んで買っていただくサービスも出てきました。足の不自由な方、高齢になって移動手段がなくなった方、郊外に住んでいる高齢者の方などの需要でそのような働きも散見されるようになってきました。
そういう働きは主には資本力のある大手のドラッグストアチェーンがされています。
でも私たちの薬局は少し違っています。そもそも「移動する薬局」の要件の中に、【薬剤師が自宅にお伺いする】ということがあるからです。
移動時間が必要となりますし、当然ですが、運転免許がなければできる仕事ではありません。片道30分の自宅に訪問することは日常茶飯事ですから、薬剤師が30分程度、車の運転に縛られてしまうことになります。
薬剤師を抱えるには人件費もそれなりになります。決して効率的な働きということはできないと思います。
でも、わざわざ薬剤師が自宅に出向くからこそ出来る仕事というものもあるわけです。
患者様の服薬状況はどうか?家庭環境、生活環境はどのような状況か?そういったことを考慮しつつ、適切にお薬を飲んでいただくために、現地で工夫することが求められているわけです。
患者様によっては、「薬剤師にそこまで干渉されたくない」と思う方も実際、おられます。服薬状況を見ようとすると頑なに拒否される方も、一定数、居られます。
私たち薬剤師は、何も強制的に患者様にお薬を正しく処方通りに飲んでいただくよう指導するわけではありません。結局は患者様の自己決定ということを重視しつつ、その上で、お薬に対する誤解や理解不足といったことからくる問題を解決するためのお手伝いをさせてもらっている者です。
少しづつ、信頼関係を築いて、一歩づつ、患者様の生活圏に足を踏み入れて、より良い医療サービスを提供させていただきたいと思っています。
ー処方箋に基づいてビデオ通信を行い、自宅にお薬を郵送する
最近は、「在宅薬局」といっても、自宅に薬剤師が向かうのではなく、ビデオ通信で、処方箋を持った患者様とビデオ通信を行い、お薬の説明をさせて頂いたり、服薬履歴やアレルギー歴などを確認させて頂いた上で、お薬を自宅に郵送する手続きをするような働きも、少しづつですが、増えてきました。
大きな町の大学病院に受診して、近くの薬局に処方箋を持って行ったところ、受け付けで1時間以上待たされてしまった経験がある方も少なくないでしょう。
代わりに処方箋をもって帰って、薬局にスマホのビデオ通信を使って薬剤師に問い合わせ、お薬を郵送してもらったら、掛かる時間と手間はかなり少なくなるでしょう。
場合によっては、ビデオ通信先と連携するご自宅付近の薬局からお薬が届けられるといった方法も可能になってきました。
実際のところ、多くの場合は、薬局に処方箋を直に持って行った方が返って手間と時間がかからないというのが現状のため、あまり浸透しておりませんが、デバイス革新によって今後はかなり浸透していくお薬の入手方法になるでしょう。
ー自宅を自由に出られない患者さんのためにお薬を自宅にお届けす
「在宅」の働きという場合、自宅に医師が訪問し、その上で処方箋を書いてもらって自宅に薬剤師が訪問すること以外に、病院は実際に行くけども、お薬は自宅で訪問した薬剤師から受け取るということも多くなってきました。病院にタクシーで通っていたり、薬局で待つのが体力的・身体的に辛い方が一定数、居られるからです。
このような働きは、薬局側のサービスであることが多いものです。つまり自宅に伺うからといっても、そのことにより代金が発生するわけではないことが多い(一部、お店によっては手数料を頂戴する場合もあります)。
継続的にお薬を飲んでいて、長く病院に通っている場合、このようなお薬の受け取り方もあり得るので、お心当たりの方は一度薬局に問い合わせされても良いかと思います。
将来性は?
ー高齢社会になって、町はずれに住む人の医療上の必要に応えるた
ではこのような薬局の働きは今後、どうやっていくでしょうか?
薬局の働きは、実際のところ法律によって制約されているので、国の方針が変われば、それに伴って変わってしまうことがあります。
しかしあと数十年は、人口における高齢者の割合が増えていくことが明らかなため、このような変化は当面は継続されていくと思われます。
何より自宅に、お薬の専門家である薬剤師が来てくれて、玄関や居間でお薬の説明を受ける事ができるというメリットは、必ず患者様の健康上の利益につながるものです。
ー病床の確保などが困難になってきている現状では必然的な流れ
一方で別の事情もあります。日本は人口が年々、減り続けています。人口が60万人近く減るなどということは、かつては戦争でもない限りなかった変化と言われています。つまり毎年、大戦レベルの事案で人口が減っているわけです。こんな状況で、病院数を増やすわけにもいきません。過剰な医療施設はサービス品質の低下をもたらしてしまいます。
なのでかつてであれば病院で過ごしていた人たちが、病院を見つける事ができず、結果として在宅に踏み込んでいくような事例も、当然起こりうることなのです。
かといって医療サービスの質の低下をきたして良いものではありません。結果として、医師や薬剤師、看護師が自宅に訪問する在宅医療の増加傾向は疑いのないことです。
ーやはり自宅までお伺いすると重要な気づきがあるもの
在宅医療は、患者様の状態(容態)を、その生活状況と共に「診る」ことの出来る医療行為と言うこともできます。普段、何を食べているのか?どのような生活サイクルを送っておられるのか?患者様が言わなくても、それは医療者が情報としてキャッチ出来ることです。
生活サイクルがグチャグチャだったり、カップラーメンばかり食べるような生活では、治る病気も治りません。当然、生活状況も、医学的指導の勘案事項に入ってくることになります。このことは患者様自身のメリットに必ずつながる事です。
どんな人(薬剤師)が向いている?
ー首都圏では女性が自宅に出向くこともある
さて、ではこのような在宅医療の働きに適しているのはどのような人(薬剤師)でしょうか?
首都圏では事情が少し違っているかもしれませんが、地方都市になると、やはり自宅にお薬をお届けするのは、私見では男性薬剤師が多いと思います。片道30分の道のりを運転していくのは、肩のある男性の方が強いでしょう。
では今後もそうかというと、これは違ってくると思います。たとえば在宅医療に携わる看護師の方はほぼ、女性です。
だから地方でも、女性の薬剤師が自宅にお伺いするという事が珍しくなる時代が当然、やってくると思います。
薬剤師の割合は現状、女性が6割なのもありますし、今後は働き方改革でより、女性が職場に留まる機会が増えるのも当然、関係してくると言えます。
ー自宅に向かわなくても店舗内で在宅を支える仕事はたくさんある
在宅に関わるといっても、実際には店舗内で主に働きをする薬剤師も多くいます。実際、店舗内でする在宅系の作業は多いのです。
お薬の配薬状況をエクセルで管理・チェックしたり、自宅にお届けするお薬を一包化したり監査したりなど、むしろ店舗内でする作業の方が多いとも言えます。
私が自宅にお薬をお届けする場合も、店舗内で複数名の薬剤師の働きに支えられています。
実際に自宅に向かわないとしても、在宅に携わる上で考慮しなければならない事柄に、薬局内で多く向き合う必要があるわけです。
よって、在宅医療は、店舗内にいる薬剤師の働きをも変えてしまうものと言えるのです。
結局は何を目的とした働きか?
さて、では最後に、在宅医療に携わる薬局は、結局のところ何と向き合い、何を目的とした働きをしているのかについて書こうと思います。
ー内服薬をはじめとした薬物治療の効果を最大限得るための取り組み
お薬は、服用法を正しく守る事で最大限の効果を得る事ができるものです。
当然、自己調整が可能なお薬も少なくありません。一般には頓服薬として処方されるものですが、朝食後とか夕食後のお薬として出されているものでも、医師の指示で、自己調整が伝えられている場合もあります。たとえば「痛みを感じなくなったら飲まなくて良い」とか「フラつきが出るようなら調整してもらって良い」といった具合です。
でも、全くの自己判断で「飲まなくても構わない」と思って飲まない場合、困った事が生じる事があります。たとえば抗生剤は、一定期間継続して服用する事で初めて効果を発揮するものが少なくありません。なのに飲んだり飲まなかったりすると効果が半減したり、場合によっては耐性菌が生じるなどの悪影響が出る事があります。
こういったことは、それぞれのお薬に特有のものということもできるので、基本的には医師の指示通りに飲んでいただくのが良いのです。
また薬剤師は多くの場合、医師の処方意図を理解していると考えられるので、薬剤師に「どのように飲むべきか」など(たとえば飲むのを忘れてしまった場合どうしたら良いか?とか、晩酌をするのだが夕食後のお薬はそのまま飲んで良いのか?とか)、質問された方が良いと思います。
薬剤師はそのために薬物動態や薬物治療学などの専門的な学びをしているのですから。
ー薬剤師の経験値の向上につながる
在宅に関わることは、薬剤師の経験値の向上に間違いなくつながるものです。
以前は、病院前の、いわゆる「門前薬局」の薬剤師は、お薬を棚からピッキングして、薬袋に詰めるだけの仕事と見られることもありました。そのせいか、今でも薬剤師から色々質問されると「病院で説明したことを何故に薬局で改めていう必要があるのか?」と怪訝な反応を示される患者様もおられました。
でも自宅までお伺いして、患者様の生活の様子を見ながらお薬の服薬指導をするようになると、多くの患者様は、単に薬剤師からお薬を受け取れば良いのではない、と気が付かれるようです。
薬剤師が問題意識をもって患者様に接する事で、患者様も、「何か気をつけないととんでもない事が起こり得るのだ」ということに感づかれるのだと思います。
お薬には副作用もつきものです。お薬の目的とした「主たる効果」というものがあるとしたら、副産物としての効果、つまり副作用も起こるのが必然とも言えます。
主たる目的の効果に対して、この副作用の方が大きくなってしまうと、むしろ飲まない方が良いということになります。
患者様の生活の姿を見ると、薬剤師が副作用の有無を自分の目で感じ取るきっかけとなるわけです。
ー何が求められているのかに気がつく機会を得る
薬剤師は単に、お薬の効能効果や服用方法を機械的に説明すれば良いわけではありません。患者様の理解力に合わせて説明する必要がありますし、患者様が何か誤解を持っているとしたら、それを解きほぐすような指導をすることも求められます。
患者様の側でも、薬剤師に対して期待されていることといったことも当然、あるでしょう。つべこべ言わずに、早く正確にお薬を出してくれたらそれで良い、と考える方もおられるでしょう。
でも薬剤師は、そういった患者様の期待に基本的に向かい合いつつも、患者様に働きかけ、より良いお薬との付き合い方、飲み方を指導していかないといけないのです。良薬口に苦しとはよく言ったものです。もしかしたら、嫌だと思ってた薬剤師の言葉とのやりとりが、皆様の健康に寄与している可能性に関心を向けていただけるなら幸いです。