いつも変わらないけど、違う顔を見せてくれる富士山
富士市富士宮市にて在宅医療に携わっている薬剤師の栗原です。
皆さんはご自分の体の仕組みについてどのような関心をお持ちでしょうか?今はテレビや雑誌などでも体のことについて分かりやすく専門家が話したりするのを見る機会も多くあるので、それなりに知識もおありなのではないでしょうか?
体の中にはいくつもの臓器がありますが、今日は「腎臓」の働きについて紹介したいと思います。
「腎臓」というと、どんなイメージをお持ちでしょうか?「人工透析」は腎不全の人がやるものなので、何かそこに障害があると大変なことになるというイメージはお持ちだろうと思います。
1)腎臓の2つの働き
腎臓の働きには大きく分けて2つ、あります。
1)血を綺麗にする
1つは、血液から汚れを取り除いてきれいにすることです。
血液は体の隅々に栄養、細胞の成分を届けていますが、その反対に、細胞が出す老廃物を運搬し体から排除するために、腎臓にそれらを運搬しているのです。
腎臓はとても複雑な働きによって、体にとって不必要なものだけを選んで、体外に排出する働きを担っています。人工透析では人間の体ほどある大きな機械が腎臓と同様の働きをしてくれていますが、人間の体の中には2つの、拳ほどの大きさの腎臓がその代わりに機能しているのです。
コーヒーを豆から作るときにはフィルターをセットして、コーヒーの中に余計なものが入り込まないようにしてくれていますが、腎臓は逆に、不必要な老廃物を体外から排出させているわけです。
2)体に必要なものを再吸収する
2つ目は、原尿の中から、体に必要なミネラルや糖分、老化して分解された細胞の成分から、体にとって必要なものを再吸収することです。
まず腎臓の糸球体という部位で、血液から血球などの重要な血液成分を除いて原尿を作ります。しかしこの原尿には体にとって必要な糖分やタンパク質、ミネラルも含まれているため、あらためて糸球体内で再吸収という形で取り込み直します。それから漏れたものが尿という形で体外に排出されることになるわけです。
このような複雑な腎臓の働きがなければ、私たちがどんなに栄養を口にしても、どんどんおしっこから流れ出ていってしまうことになります。
3)人工透析は肉体的、精神的に大きな負担
私も毎日、人工透析の患者様と接しています。かかりつけとして担当させていただいている患者様だけで20人以上います。週に3回。1回あたり4時間かけて血液を濾過して、不必要な老廃物を血液から取り除く機器にチューブを繋いでおられます。
後に触れますが、人工透析患者様は様々な食事制限のみならず行動制限も自ずからかけられています。
肉体的にも精神的にもストレスのかかる人工透析です。腎臓はそういった手間から私たちを解放してくれているのですから、どれだけ大切な臓器であるかはお分かりになられると思います。
4)腎臓の天敵
腎臓を悪くする天敵は、1つは高血糖です。
血液に糖分が沢山あると、血管内の細胞に糖分が結合し血管が傷んでしまうことが知られています。糖尿病の合併症としてよく知られているのは「網膜症」や「腎臓病」ですが、網膜も腎臓も、微小な毛細血管が張り巡らされているため高血糖の影響を受けやすいのです。「糖尿病神経症」と言われる神経性の痛みも、神経に栄養を送る微小血管の障害が1つの原因となっています。
他に高血圧や高脂血症、ストレスなどが腎臓病の原因として知られていますが、これらは腎臓に過度な負担をかけてしまうために腎臓が疲弊してしまうのです。
高血糖、高血圧や高脂血症は、少なからず体質、つまり遺伝の影響もありますが、これらは食生活とも密接に結びついている疾病なので、「良い食事」とは、腎臓に優しい食事とも言い換えることもできそうです。
暴飲暴食を避けること、偏った食事をしないでバランスよく食べること、それから緑黄色野菜など、体の活性酸素を消去するポリフェノールが多く含まれた食品を摂取すること・・。「良い食べ物」は色々定義出来ると思いますが、腎臓の働きについて知ることで1つの基準を手にすることが出来ます。
5)腎臓を「働かせない」お薬
皆さんは、ではその腎臓を守ってくれるお薬ってあるのかな?と思われるかもしれません。飲むだけで腎臓が元気になる。そんなお薬があれば良いのは間違いありません。
ただ、残念なことに、落ちた腎機能を回復してくれるようなお薬は今のところありません。実は腎臓には、血液を綺麗にしたりする働きのほかに、造血作用を持つホルモンを産生したりする働きもありますが、それを助けるお薬などは開発されていますが、血を綺麗にしたりする腎臓そのものの働きを助けるお薬はないのです。
腎臓病に用いられるお薬の働きは、腎臓の負担を減らしてくれたり、弱った腎機能によって生じる障害を減らしてくれるお薬です。
たとえばカリメート経口液というお薬は、体に取り込まれるカリウムを腸管内で吸収し、便として(体に取り込むことなく)排出する働きを持つお薬です。腎機能が弱ると体内のカリウム値が高まり、不整脈を引き起こすことがあるのですが、それを抑えてくれるものです。
またホスレノールやリオナといったお薬は、食事中のリンを吸着することで体内にリンが取り込まれることを防ぐお薬です。
腎機能が下がると体内にリンが増えます。同時に腎機能の低下によって体内でビタミンDが生成されにくくなると、腸管からのカルシウムの吸収が低下し、それを補うために骨からカルシウムが溶け出ます。体内の過剰なリンがこのカルシウムと結合し、これが心臓や血管の石灰化・動脈硬化をもたらし心筋梗塞などを引き起こしてしまうのです(心筋梗塞は、心臓そのものへ酸素や栄養素を送る冠動脈の石灰化により引き起こされます)。
また吸着炭であるクレメジンというお薬も、腎機能が低下することで生じる尿毒症の原因毒素を、そもそも腸管から吸収させないようにするお薬です。
これらのお薬は、腎臓が働かない場合に生じる障害を軽減させるお薬、また腎機能に負担をかけないこととを目的として内服されるお薬と言えます。
ただし、最近は糖尿病のお薬である、尿中に強制的に糖分を排出させるフォシーガというお薬は、その利尿作用により腎臓の働きを後押しするとして腎不全患者に投与されることが多くなってきました。腎機能が低下している中で強いて腎臓を働かせているわけですが、一定の効果をあげています。
6)結局、食事がお薬
腎機能低下が低下し、人工透析を受けるようになった患者様には、水分制限、タンパク質摂取量制限、塩分制限がかけられますが、水分、タンパク質、塩分は、腎臓の働きの主なターゲットであるため、そもそも腸管からこれを取り込まないようにさせるということなのです。
腎機能を回復させるお薬は今のところありません。バランスの良い食事、暴飲暴食を避け、活性酸素を生じさせるストレスを溜め込まない生活を送ること。これらの健康的な生活そのものが、1番の腎臓のお薬と言えます。
先ほど触れましたが、結局「良い食事」は、腎臓にとって良い食事なのかどうか?という基準を持つことはとても有効だと思います。何故なら体に取り込まれた栄養素は、血中に入り、最終的には腎臓から排出(代謝)されていくのですから、食事の「出口」に対する影響から逆算して「良い食事とはなんなのか?」と考えることは、実に道理に適ったことだからです。いわゆる「良い食事」は、見た目からして腎臓に優しそうなものばかりです。
7)腎臓を労わりましょう
私たちにはそれぞれ趣味があり、時間やお金を投資するでしょう。スマホやゲーム機器もそうかもしれませんが、人によっては高級車が趣味という人もいますでしょう。
それらは私たちの人生を豊かにしてくれるものです。でも私たちの体の中にある2つの腎臓は、人生のいろいろな喜びを味合わせてくれるために、見えないところで日々働いてくれています。腎臓は、お金を出して買うことはとても難しい天からの授かりものです。大切に付き合っていきたいものです。