病院か、それとも自宅か
目次
富士市本市場町にあります、ふじやま薬局の栗原です。
富士市、富士宮で在宅医療に関わる薬剤師をさせていただいています。具体的には医院から出される処方箋をFAXで受け取り、お薬をご自宅までお届けにあがる働きをさせていただいています。3年間で地球一周分回らせていただいています。
1)薬剤師の信頼度は?
このような働きに関わらせていただいていますが、さて、皆様は「薬剤師」という働きについてどのような印象をお持ちでしょうか?
薬剤師といえば白衣を着て、寡黙でどこか陰湿??といったイメージを持たれている方もいらっしゃるかも知れません(これは私の勝手なイメージかも知れませんが・・)。
薬剤師のイメージについてとても興味深いデータがあります。それは、日本のそれとは違いますが、アメリカにおける職業別の「信頼度」のランクです。そこでは、1位は医者、2位は消防士、そして3位が薬剤師でした。
医者は昼夜を問わず患者様の命の最後の砦、消防士は命をかけて火の中を潜る働き。それと比べたら日本における薬剤師は、クーラーの効いた部屋で錠剤と向かい合うといった感じで、少し腑に落ちないかも知れません。
でもアメリカの場合は、日本と異なり国民皆保険制度がなく、病気になった時、医療費を抑えるために薬局に駆け込み、自分で必要なお薬を選ばなければならないという状況があります。その際に薬剤師の知見が生かされているという背景があります。そのため薬剤師の信頼度が上がる結果になっているのではないかと思われます。
2)人と向かい合う薬剤師の働き
これと比べて日本における薬剤師は、病院前の薬局でお薬を渡してくれる白衣を着た人、といったイメージしかないかも知れません。
実は薬剤師は、化学系の専門知識を持ちながら医療機関の中で働いているという特殊な立場です。そう、専門は化学(ばけがく)なのに、医療の現場において患者様とも向かい合うという少し変わった働きをしています。医師が白衣を着ていらっしゃるのは、医療の現場で清潔さを保ったり患者様の体液などによる感染の広がりなどを防ぐという意味合いを持っていますが、薬剤師が来ている白衣は、どちらかというと化学者としての白衣でしょうです。それは薬剤師にとって常に自分を化学者として再認識させられる機会となっています。
ところが最近は、もっと薬剤師という職能の特殊性を活かすために薬剤師ももっと患者様という「人」を相手にしないといけないと言われ、その役割が求められ始めました。
たとえば2020年に改正薬剤師法並びに薬機法が施行され、お薬をお渡しした後の患者様についてのフォローアップが義務化されました。
しっかりと患者様の声に耳を傾け、お薬の副作用の発現に注意したり、服用状況がどのようなものであるか、しっかり管理しましょうというわけです。
私たちのさせていただいている在宅での働きも、在宅医療に切り替えざるを得ない事情がある限り、薬局に来局される患者様の必要にもまさって「人」に向かい合う薬剤師の役割が求められているのは言うまでもないことでしょう。
3)薬剤師は1000人に1人
お薬について専門的に学んでいるのが「薬剤師」なのですが、ではその「専門性」はどんなことを意味するのでしょうか?
たとえばそれは、
①一般の人よりも特定の分野について知識を持っていること
②免許を用いて公けに働いている人
など意味するものであるでしょう。
でもここではもっと簡単に、数字の上での専門性について考えてみましょう。
簡単に人口比率で言いますと、日本における薬剤師の人口比率は1000人に1人です。多いか少ないかと言われましたら、間違いなく少ないと言えるでしょう。
今時の小学校の通常サイズでは一学年では、5クラスとして200人程度でしょうか?だとすると薬剤師は5学年に1人という計算になります。
1人当たり、1年のうちに調剤薬局に行く回数は、なんとなく自分の経験で言うと、半年に1度程度でしょうか?200人とすると、計400回。通常薬剤師1人当たり、1日に30枚から40枚の処方箋を扱っておりますから、確かに年間でそのくらいの数に確かになります。
ともあれ5学年に1人だとすると、確かに薬剤師は数字の上でも「専門家」だと言えると思います。
ところがこの1000に1人という薬剤師の人口比率は、外国のそれと比較するととても多く、その数は世界一となっています。
つまり、世界的な視点に立てば、薬剤師は、日本では思った以上に身近な存在となっていると言えます。
4)もっと身近な薬剤師になる
数の上でも身近な存在であればこそ、薬剤師という職業に携わる者は、もっと人に寄り添うものでなければならないと考えています。
医療機関の中で、薬だけ観察していればいいという仕事なのではなく、患者様が実際にお薬を飲んで、そのお薬の効果がなくなるその最後まで見届ける・・。そのような役割が求められている。
特に在宅に出向く在宅担当薬剤師は、患者様とお薬のお付き合いだけでなく、その患者様の生活と向かい合う機会が与えられています。それゆえ患者様の生活様式(家族構成、病態の種類、経済問題・・)と向かい合い、適切に服薬指導をしていくことが当然求められています。
在宅薬剤師を迎え入れる患者様といえば、家に薬剤師を迎え入れるくらいだから人との付き合いがそれほど苦にならない患者様が多いと考えられるでしょうか?確かにそういう方もいらっしゃいますが、実際のところ様々な事情で在宅医療を受け入れているという患者様の方が多いのです。
そのようは背景があるとしても、私がこれまでの経験から言って確信をもって言えることは、患者様は、ご自宅までお薬を届けてくれる薬剤師の働きを喜んでくださっている、ということです。
5)汗をかくことの持つ説得力
私は以前、教会での働きをしておりました。その頃、指導的な立場にあられた先輩から、遠く、教会から離れた場所に奉仕に行くには、新幹線を使うよりもバスを使ったほうが有り難がれる、というお話を聞いて興味深く受け取りました。
新幹線で行くか、それともバスで行くか?そこに何の違いがあるのか?とはじめは分かりません出したが、だんだんと分かり始めました。不思議と人は、汗をかいている人とそうでない人を見分け、好意の態度を示す、ということです。
スポーツ観戦を人生最高のレクリエーションと受け止めている人も多いでしょう。おそらく人は、汗をかいている人を見るのが好きなのだと思います。
汗をかいて一人の元を訪れること。それが説得力を持つのだと私は理解したのです。
6)直接にあって情報を得るメリット
今はお薬を郵便でお届けしたり、テレビ電話で服薬指導をする時代です。コロナ禍になってから、患者様が病院に行かないで電話往診して処方箋が薬局にFAXで送られ、それを届けるということも珍しくなくなりました。アメリカ大手のECショップが処方箋薬の取り扱い開始の計画を立てるなど、お薬の配薬法も変わってきました。
それもまたしかたない時代の変化でしょう。でも私は、汗をかいて患者様のもとにお薬をお届けして、患者様の生活と向かい合いながら、顔と直接に向かい合わせて指導させていただく働きの価値は、決してなくならないと感じています。
お薬の配役方法が違えばお薬の効果が違うわけでもありません。でも、「直接に会う」からこその気づきも少なくありません。
たとえば薬局に電話をかけられたあるご年配の患者様がいらっしゃいました。聞けば、お薬がないから届けて欲しいとのことでした。私どもの薬局ではお渡しするお薬をすべて写真で記録しておりますのでそれを確認してみますと、記録上、お渡ししたことになっています。この患者様は筋ジストロフィーの持病をお持ちだったので来局していただくことはせず、ご自宅まで訪問してみました。ベッドのある部屋を訪れ、しばらく探すと、ベッドの下からお薬が出てきました。
それでその問題は一応解決をみたのですが、このままだと同じ状況が起こりかねないと考え、ケアマネージャーさんに連絡し、二週間に一度、お薬をご自宅まで配薬するサービスをすることにしました。それまでお薬の取りこぼし、飲み忘れがかなりありましたが、今ではそういうことも少なくなり、お薬の効果について確実な情報を処方医の先生にも提供できるようになりました。
結論)よりよいサービス提供のために
人が人からある情報について「メラビアンの法則」というものが知られています。相手の声から得られる情報が4割、視覚情報が5割、そして言葉から得られる情報は1割に満たないと言われています。
電話を用いて患者様の声を聞いたとしても、通信環境に影響されます。4割とはいかないでしょう。言葉の情報を集めても5割にはいきません。でも直接に会えば、残りの5割の情報を簡単に手に入れることができます。しかも在宅では、その情報は裏切られません。
また声から得られる4割の情報も、最初は信頼に値するものではありません。電話口で聞く声は、人格情報について、自分が経験的に知っている人に当て嵌めているに過ぎません。人とのコミュニケーションにおいてトラブルはつきものですが、そこには相手の人格についての先入観が少なかず影響を持っていると思います。医療に関わることならなおさら、その問題は可能な限り避けなければなりません。
すなわち、より良い服薬サービスの提供には、直接に合うに勝る方法はありません。よりよいサービス提供のために時代の変化に対応することももちろん大事ですが、この基本線を見失わないしてきたいと思っています。
富士・富士宮地区で在宅医療について情報が必要な方はふじやま薬局の栗原までお問い合わせください。心よりお待ちしております。