子どもの運動不足はなぜ起こる?現代社会の背景と親・園が知るべき悪影響

近藤健吾

近藤健吾

テーマ:運動

はじめに:現代社会が子どもから奪う「体を動かす機会」


現代の子どもたちは、かつてないほど多様な環境の中で育っています。スマートフォンやタブレット、ゲームといった室内娯楽の充実、公園でのボール遊びの制限や空き地の減少、さらには少子化による遊び仲間の減少など、子どもたちが体を思い切り動かす機会は著しく減少しています [1, 2]。スポーツ庁が2021年度に実施した「全国体力・運動能力調査」の結果は、この現状を明確に示しており、小学5年生と中学2年生の体力合計点が全体的に低下傾向にあることが報告されています [1, 2]。特に、体育の授業を除く1週間の運動時間は男女ともに短縮し、小学生の肥満率も過去最大を記録しています [1, 2]。

このような運動不足は、単に身体的な問題に留まらず、子どもたちの「生きる力」に深刻な影響を及ぼす可能性があります。体力は、豊かな人間性や自ら学び考える力、さらには物事に取り組むやる気、集中力、粘り強さといった精神的な強さにも深く関わるとされています [1, 2]。現代の生活様式が、子どもが自然に体を動かす機会を奪い、結果として身体だけでなく精神面、ひいては社会で生きていく上で不可欠な「生きる力」の基盤を蝕んでいるという構造的な問題が指摘されています。

本記事では、子どもの運動不足がなぜ起こるのか、その現代社会における背景を深く掘り下げます。そして、運動不足が子どもたちの体力、健康、精神面にどのような具体的な悪影響を及ぼすのかを詳細に解説します。園長先生や保護者の皆様が、この現状を正しく認識し、子どもたちの未来を守るために今すぐ対策を講じることの重要性を警鐘として伝えます。

1. データで見る子どもの運動不足の現状:体力低下と肥満の増


近年の調査結果は、子どもたちの運動不足が深刻な状況にあることを明確に示しています。スポーツ庁が実施した「全国体力・運動能力調査」によると、小学5年生と中学2年生の体力合計点は全体的に低下傾向にあり、特に「上体起こし」「反復横とび」「20メートルシャトルラン」「握力」「50m走」「立ち幅とび」といった、基本的な運動能力の低下が顕著です [1, 2]。

また、子どもの健康面にも影響が出ており、肥満の割合が大幅に増加しています。特に男子小学生の肥満率は13.1%(2019年は11.1%)となり、小学生男女の肥満率は過去最大を記録しました [1, 2]。運動時間についても、体育の授業を除く1週間の運動時間が男女ともに短くなっていることが報告されています [1, 2]。さらに、運動やスポーツを「好き」と回答した児童生徒の割合も減少しており、運動への意欲そのものが低下している現状が伺えます [1, 2]。

これらのデータは、単に運動量が減っただけでなく、子どもたちの身体能力や健康状態、さらには運動への興味関心そのものが、現代社会の様々な要因によって脅かされていることを示唆しています。

2. 運動不足を引き起こす現代社会の要因:スクリーンタイム・


子どもの運動不足は、個人の問題だけでなく、現代社会の構造的な変化によって引き起こされています。

室内遊びの充実とスクリーンタイムの増加:ゲーム、スマートフォン、テレビなどの室内娯楽が非常に充実しており、子どもたちが身体を動かす時間が減少しています [1, 2]。特に「学習以外の1日のスクリーンタイムが2時間以上」の児童の割合が増加していることは、運動機会の喪失に直結しています [1, 2]。
遊び場所の減少:子どもが自由に遊べる空き地やボール遊びができる公園が減少しているだけでなく、多くの公園でボール遊びや大声、遊具の使用などが禁止されている場合が多く、子どもが思いっきり遊べる場所が減っています [1, 2, 34, 41]。
生活様式の変化:自動車などの交通手段の発達や、電化製品の普及による家事労働の運動量減少など、生活が便利になった一方で、日常生活における身体活動の機会が失われています [1]。
少子化:兄弟姉妹や近所の子どもなど、遊び仲間が減少していることも、集団での運動機会の減少に繋がっています [1, 2]。
これらの要因は単発で存在するのではなく、相互に影響し合い、子どもが自然に体を動かす機会を奪い、運動不足を「特別な問題」ではなく「常態」として定着させています。例えば、遊び場が減ることで室内遊びが増え、それがさらに運動不足を加速させるという悪循環を生み出しています。子どもの運動不足は、単なる個人の問題や家庭の問題に留まらず、現代社会の構造的変化によって引き起こされているという認識を持つことが重要です。この認識は、園や保護者が個別の対策を講じるだけでなく、地域社会や行政との連携、あるいは生活習慣全体の見直しといった、より広範な視点でのアプローチが必要であることを示唆しています。

3. 運動不足が心身に与える深刻な悪影響:体力・健康・精神面


子どもの運動不足は、心身に多岐にわたる深刻な悪影響を及ぼします。

体力低下:基礎体力が低下し、これまで普通にできていた動作がスムーズに行えなくなるだけでなく、身体の動きが鈍くなることでつまずいたり転んだりする機会が増加します [1]。ひどくなれば、寝起きが悪くなったり、疲れが取れにくくなったりと、日常生活にも影響を及ぼすことがあります [1]。
肥満・生活習慣病リスクの増加:運動不足は1日の消費カロリーを減少させ、基礎代謝を悪化させるため、肥満の一因となります [1]。肥満は高血圧や高脂血症などの生活習慣病のリスクを高めるため、子どもの頃から運動習慣を身につけることが重要です [1]。
意欲・気力の低下:運動はストレス解消にも繋がり、子どもの体力や知能の向上に寄与します [1]。運動不足が続くと、判断能力や意欲が低下し、結果として意欲や気力がない子どもに育ってしまう可能性があります [1]。
免疫の低下:運動不足は子どもの免疫力も低下させます [1]。免疫力の低下は、感染症や生活習慣病のリスクを高め、特に肥満を抱える子どもにとってはさらに危険です [1]。また、自然治癒力も低下するため、怪我をした際の回復に時間がかかるようになります [1]。

4. 「勉強優先」の風潮がもたらすもの:運動と学力の関係


現代社会では、子どもの将来の選択肢を広げるためとして、幼い頃から英会話や塾に通わせるなど、「勉強優先」で運動が軽視される傾向が見られます [1]。体力作りのために運動をさせる家庭もありますが、全体的には勉強を優先する家庭が増加しています [1]。

しかし、運動と学力の間には密接な関連性があることが指摘されています。スポーツ庁の調査では、体力低下が学力に悪影響を及ぼす可能性が示唆されています [1, 2]。また、運動は血流を良くして脳を活性化させ、集中力や記憶力を高める効果があることも報告されています [9]。

保護者や社会が「勉強」と「運動」を排他的なものとして捉え、一方を優先することで他方を犠牲にする傾向がありますが、実際には運動が学力向上に間接的・直接的に貢献するという相互補完的な関係があります [6, 8, 9]。これは「運動すれば勉強ができるようになる」という単純な因果関係ではなく、運動が「認知的機能の発達促進」に寄与する可能性を示唆しています [6, 8]。 「勉強優先」の風潮は、子どもの運動機会を奪うだけでなく、結果的に学力向上という本来の目的達成をも阻害する可能性があるという逆説的な状況を生み出しています。この誤った二項対立を解消し、運動が学習の土台となるという認識を広めることが、子どもの総合的な発達を促す上で不可欠であると言えます。

まとめ:子どもの未来を守るために、今こそ運動環境を見直そう


子どもの運動不足は、体力低下、肥満、意欲・気力低下、免疫低下といった多岐にわたる深刻な悪影響を子どもに与える問題です。その背景には、スクリーンタイムの増加、遊び場の減少、生活様式の変化、そして勉強優先の風潮といった現代社会の構造的要因が複雑に絡み合っています。

子どもの運動不足による悪影響 [1]
体力低下
- 基礎体力・運動能力の低下(走る、跳ぶ、投げるなど) [1, 2]
- 身体の動きが鈍化し、つまずきや転倒が増加 [1]
- 寝起きが悪くなる、疲れが取れないなど日常生活への影響 [1]
肥満・生活習慣病リスクの増加
- 消費カロリー減少、基礎代謝悪化による肥満 [1]
- 高血圧、高脂血症など将来の生活習慣病リスク上昇 [1]
意欲・気力の低下
- 判断能力や意欲の低下 [1]
- 意欲・気力がない子どもに育つ可能性 [1]
免疫の低下
- 感染症や生活習慣病のリスク増加 [1]
- 自然治癒力の低下、怪我の回復遅延 [1]


運動不足の主な原因と対策
原因 対策
室内遊びの充実(スクリーンタイム増加) - テレビ視聴やゲーム、スマホ利用のルール化 [1, 2]
- 寝る前のスクリーンタイムを控える [1, 2]
- 室内でできる運動遊びの導入 [1]
遊び場所の減少 - 親子で公園やスポーツ広場などに出かける [1, 2]
- 地域社会での運動イベントへの参加 [1, 2]
- 室内でできる運動遊びの工夫 [1]
生活様式の変化(車移動、電化製品普及) - 徒歩や自転車での移動を増やす [1]
- 日常生活に「ながら運動」「すきま運動」を取り入れる [1]
勉強優先の風潮 - 運動が学力や非認知能力に与える好影響を理解する [1, 2, 6, 8, 9]
- 運動と勉強を両立させるライフスタイルの提案 [1]
- 運動を「楽しみ」として捉え、無理強いしない [7, 3]


園と家庭、そして社会全体が、現代社会の構造的要因を理解し、連携して運動環境を改善していくことが、子どもたちの健全な成長と未来を守るために不可欠です。

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近藤健吾
専門家

近藤健吾(講師)

わくわくキッズ

子どもも大人も集いわくわくが生まれる体操教室を運営。専門知識と幼稚園教諭経験をもとに、心と体を育てる運動指導の研修を行うほか、YouTubeなどで体を動かす楽しさを伝える活動にも注力しています。

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