幼児期の運動能力をぐんぐん伸ばす!大人の役割とは?
はじめに:なぜ今、幼児期の運動が注目されるのか
現代社会において、子どもたちの運動不足は深刻な問題として認識されています。スマートフォンやゲームなどの室内娯楽の充実、公園でのボール遊びの制限、少子化による遊び仲間の減少など、子どもたちが体を思い切り動かす機会は著しく減少しています [1, 2]。このような現状に対し、文部科学省や厚生労働省は、幼児期の運動の重要性を強く訴え、具体的な指針を提示しています。
特に注目すべきは、文部科学省の「幼児期運動指針」や厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」で推奨されている「毎日合計60分以上の身体活動」という目標です [6, 4, 7, 13, 14]。この目標は、単に運動量を増やすだけでなく、子どもたちの心身の健やかな発達を促し、将来にわたる健康的な生活習慣の基盤を築くことを目的としています。
本記事では、この「毎日60分以上」という目標の意義を深く掘り下げ、園や家庭でどのようにこの目標を達成できるか、実践的なヒントを分かりやすく解説します。子どもたちが遊びを通じて自然に体を動かし、運動を生活の一部として楽しむための具体的なアプローチを提案し、園長先生や保護者の皆様が、子どもたちの未来を育む運動環境を創造するための一助となることを目指します。
1. なぜ「毎日60分以上」?国の運動指針が示す幼児期の運動
文部科学省の「幼児期運動指針」では、「幼児は様々な遊びを中心に、毎日、合計60分以上、楽しくからだを動かすことが大切」と明確に示されています [6, 7, 17]。同様に、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」でも、幼児期の推奨事項として「毎日、合計60分以上、楽しく身体を動かすこと」が挙げられています [13]。
この「毎日60分以上」という目標は、単に時間を埋めるだけでなく、その時間の中で多様な動きを経験し、神経系の発達を促すための「機会の確保」という側面を持っています [6, 4, 7, 17]。スポーツ庁の調査データからも、外遊びの時間が長い幼児ほど体力が高い傾向にあり、小学校入学前の運動頻度が高い子どもほど、入学後の運動・スポーツ実施状況も高いことが実証されています [4]。
ここでいう「60分」は、特定の運動やスポーツに限らず、散歩や手伝いなど、日常生活における様々な動きを含んだ一日の総身体活動量として捉えられています [4, 7, 5]。十分な活動時間があるからこそ、子どもは様々な遊びを試し、動きを洗練させることができます [7, 17]。この量的目標は、運動の「質」を高めるための土台となるのです。量が確保されることで、子どもが飽きずに多様な動きを自発的に経験する機会が増え、結果として運動能力や非認知能力の発達が促進されるという相乗効果が期待できます [6, 7, 8]。これは、園や家庭が「時間確保」を最優先課題の一つとして捉えるべき理由となります。
2. 「遊び」が中心!多様な動きを経験させる重要性
幼児期の運動は、子どもの運動機能が急速に発達し、生涯にわたって必要な多くの運動の基となる多様な動きを幅広く獲得する非常に大切な時期です [6, 7, 17]。この時期に多様な運動刺激を与えることで、体内に様々な神経回路が複雑に張り巡らされ、運動調整能力(タイミングよく動く、力の加減をコントロールするなど)が向上します [6, 4, 7, 17]。
文部科学省の指針では、「体のバランスをとる動き」「体を移動する動き」「用具などを操作する動き」の「36の基本動作」を幅広く経験することが、将来の運動機能の基礎となることが強調されています [6, 7, 19]。
幼児は「遊ぶことが楽しいから」動くのであり、無理強いではなく、自発的に取り組める環境づくりが重要です [6, 28]。この「遊び」は、子どもにとって内発的動機付けの源であり、強制される運動とは異なり、子ども自身がルールを変化させたり、新しい遊び方を創造したりする機会を提供します [6, 7, 8]。この自発性が、多様な動きを繰り返し経験し、運動能力を洗練させる原動力となるのです [7, 17]。したがって、「遊び」は単に運動量を確保する手段ではなく、子どもが自ら探求し、創造し、挑戦する中で、運動能力だけでなく、非認知能力(創造力、問題解決能力)をも同時に育む「二重の価値」を持っています [6, 7, 8]。園や家庭は、単に運動の機会を提供するだけでなく、「遊びの質」を高める視点を持つことが、指針達成の鍵となります。
3. 園での実践例:日々の保育に運動を取り入れるアイデア
園では、日々の保育活動の中に意識的に身体活動を組み込むことで、「毎日60分以上」の目標達成を目指すことができます。
年齢別運動遊びの導入:0歳児のマット遊びやふれあい遊び、1歳児のボール遊びやタオルひっぱりっこ、2歳児のどんぐりコ〜ロコロやケンケンパ、3歳児の追いかけっこやだるまさんがころんだ、4歳児のスキップリレーやヘビさんジャンプ、5歳児の平均台じゃんけんやドッジボールなど、発達段階に応じた多様な遊びを取り入れましょう [18, 9]。
常時活動への組み込み:園庭での自由遊びの時間だけでなく、室内での活動や移動の時間、着替えや片付けといった日常の動作の中にも運動要素を見出し、身体活動を促す工夫が有効です [36, 41]。例えば、お散歩中に様々な葉っぱを探したり [41]、歌に合わせて全身で動く手遊びを取り入れたりするのも良いでしょう [18, 41]。
保育者の援助と環境構成:子どもが自発的に体を動かしたくなるような環境を構成するためには、保育者の知識と工夫が不可欠です [16]。例えば、トンネルくぐりや低い姿勢の運動遊びで体幹を刺激したり [41]、2人組でできる運動遊びで協調性や社会性を養ったりするなど [18, 41]、遊びのバリエーションを増やすことが大切です [18, 9, 25, 41]。
4. 家庭での実践例:「ながら運動」や「すきま時間」の活用
家庭でも、特別な時間を設けなくても「毎日60分以上」の身体活動を達成することは可能です。運動を「生活化」することで、心理的なハードルが下がり、無理なく継続できる可能性が高まります。これは、運動を「義務」ではなく「自然な行為」として子どもに体験させる上で極めて重要であり、家庭全体でのライフスタイルの見直しを促す視点となります。
日常生活での身体活動:散歩や手伝い、家事(買い物や掃除)、通勤(自転車や徒歩通勤)など、普段の生活の中に運動を取り入れましょう [38, 5]。
「+10(プラス・テン)」の考え方:厚生労働省が推奨する「+10(プラス・テン)」は、1日10分多く体を動かす工夫を指します [38]。
家庭でできる「ながら運動」「すきま運動」の例:
料理をしながらつま先立ち [38]
テレビを見ながら筋トレやストレッチ [38, 5]
親子で散歩の時間を設ける [11, 35]
ダンス動画を見ながら一緒に踊る [27, 11, 22]
室内用トランポリンなどの室内遊具を活用する [11]
歩いて買い物に行く、庭の手入れをする [38]
これらのアイデアは、保護者や園長先生(大人自身も)が、忙しい中でも運動量を増やす具体的な方法を示しています。運動を「特別なこと」と捉えず、「日常の一部」として無理なく取り入れるための実践的なヒントを提供し、保護者自身の運動習慣改善にも繋がります [35]。
まとめ:無理なく楽しく、運動習慣を生活の一部に
国の運動指針は、子どもの健やかな成長のための最低限の身体活動量を示しています。この「毎日60分以上」という目標は、単に運動量を増やすだけでなく、子どもが多様な動きを経験し、心身ともに健やかに成長するための土台を築くことを目的としています [6, 4, 7, 13, 17]。
幼児期運動指針の3つのポイント [6, 7, 17]
1. 多様な動きが経験できるように様々な遊びを取り入れること
- 神経系の発達を促し、運動調整能力を高める [6, 4, 7, 17]
- 「36の基本動作」を意識し、偏りなく全身を使う遊びを取り入れる [6, 7, 19]
2. 楽しく体を動かす時間を確保すること(毎日合計60分以上)
- 運動能力向上のための量的な保障 [6, 4, 7, 13, 14]
- 散歩や手伝いなど、日常生活の動きも含めて捉える [4, 7, 5]
3. 発達の特性に応じた遊びを提供すること
- 子どもの「今」に寄り添い、無理なく自発性を引き出す [6, 7]
- 怪我の予防にもつながる適切な運動強度と内容 [7, 13, 3]
| 日常生活でできる+10運動アイデア [38, 5] | |
| 場面 | 具体的な行動例 |
| 通勤・通園時 | - 一駅分歩く、早歩きをする [38] |
| - エレベーターやエスカレーターを使わず階段を使う [38] | |
| 園・職場 | - 遠くのトイレを使う [38] |
| - 昼休みにウォーキングや軽い体操をする [38] | |
| 家庭 | - 料理中に「つま先立ち」をする [38] |
| - テレビを見ながらストレッチや筋トレをする [38, 5] | |
| - 親子で公園に行く、散歩をする [11, 35] | |
| - 一緒にダンス動画を見て踊る [27, 11, 22] | |
| - 室内用トランポリンなどの遊具を活用する [11] | |
| - 歩いて買い物に行く、庭の手入れをする [38] | |
| - 掃除の際に大きく体を動かす [5] | |
| 休日 | - 親子で公園に行く、散歩をする [11, 35] |
| - 一緒にダンス動画を見て踊る [27, 11, 22] | |
| - 室内用トランポリンなどの遊具を活用する [11] |
園と家庭が連携し、「遊び」を中心に、多様な動きを楽しく経験できる環境を継続的に提供することが、子どもの生涯にわたる運動習慣の形成と、心身の健やかな成長を支える上で不可欠です [4, 7]。



