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Mybestpro Interview

お客様の気持ちを少しでも軽く出来る人工ボディである為に

身体の一部をリアルに復元する 人工ボディの専門家

福島有佳子

福島 有佳子(ふくしま・ゆかこ)さん
顧客の色を再現している。集中力が必要

#chapter1

会話をする事で顧客に安心感を与える福島さん

 天神橋筋商店街を少し東に入った大阪天満宮のすぐそばに「川村義肢株式会社 工房アルテ」があります。
義手や義足など失われた手足などの機能を補助するのが「義肢」。工房アルテは先天性の障害や事故、病気などで失われた体の一部を本物と見間違うほど精巧に復元した「人工ボディ」を手がけます。血管が浮かび、細かなしわが刻まれた指。テーブルの上に置かれていなければ、その「手」は本物にしか見えません。

 福島有佳子さんが作る人工ボディは「装着時に違和感が少なくなるよう人体用シリコーンを使います。色は赤、黄、茶、青の4色からお客様の色を再現します」と言います。なんと色は1300色以上を見分けることが出来、またそれを再現する技能を持っています。
 硬さは顧客の要望に応じてシリコーンの硬さを使い分け、作業用の硬い手・乳幼児の柔らかい皮膚感を再現しています。
 「細かなしわや色合い、装着感を大切にする事で、着けているのを忘れるような人工ボディを目指しています。おっくうだった事が少しでも『楽』になってもらえたらなと願って作っています」と福島さん。「温泉に気兼ねなく入れるようになった」「結婚式で指輪の交換ができました」など喜びの声が寄せられています。

 その匠(たくみ)の技に対し「なにわの名工」(大阪府優秀技能者表彰)が、そして、接客力・技術力を兼ね備え躍進する福島さんに「男女共同参画社会づくり功労者/内閣総理大臣表彰及び女性のチャレンジ賞」が贈られました。

#chapter2

お客様の声を形にしたいから、ヒヤリングを大切にしたい

 手首から先がない女性がうつむきがちに工房アルテを訪れました。女性は手がない事が気になり、人付き合いを避け、夏でも長袖を来て手を隠していました。
 その女性にはお子さんがいて「保育園に迎えに行った時に走り寄ってくる子供に手を広げて迎えてあげられないんですよね」と。その会話に心を留め福島さんが作った手は「暖かな手」でした。
 「お子さんが抱きしめられた時にほんのりあったかさを感じる手を作りたいな」と言う思いから新たな「手」が誕生したそうです。それが福島さんの工夫です。
 その後、顧客とお子さんが手をつないで来られたそうです。その時にお子さんから「『お母さんの手を治してくれてありがとう!』と。笑顔の言葉が何よりのご褒美で、私の原動力になっているんです」と教えてくれました。

 身体の一部を失った多くのお客様は「○○が出来なかった」「○○を諦めた」と心の内を話してくれます。でもそれは物理的なものだけではなく、心理的な事も含まれます。
 思いに耳を傾けながら顧客が必要としているものをイメージし、「その人仕様」の人工ボディを提案するのです。
 「作れないものは何ですか?」と聞いたら「お客様の要望に合わないもの」と福島さん。
 「どんな要望でもまずは聞き、そしてお客様と一緒に作りあげる。なぜなら、お客様は先生だから」

装着感をよくするために、こまやかな修正を加える福島さん

#chapter3

着する人が安心と希望を持てるような人工ボディを作りたい

 がんで顔の一部を切除した男性は、リアルな人工ボディのおかげで諦めていた娘の結婚式に出席、心からの笑顔で晴れの門出を祝いました。
 義指を作った元暴力団組員は、これで会社の面接を受けられると安心の表情を浮かべました。顧客の心からの喜びが、始まりから一貫して、福島さんを支えているのです。

 一方で、「人工ボディを着けないという選択もある」と福島さんは言います。きっかけは、ある少年の言葉でした。
生まれつき耳がない少年のために人工耳を作っていた福島さん。成長に伴う作り替えのため母親とアルテを訪れた時の少年の様子が気になっていました。すると少年は福島さんにだけ「本当は着けたくない。野球したいけど、人工耳取れたらあかんからって……」。
 「じゃあなぜ着けるの?」と聞いたら、「お母さんが耳ないと悲しむから……」。福島さんは大きなショックを受けたと言います。
 「自分の作っている体が、その子を苦しめていたと知ったその時は、自分のしてきた事はなんだったんだろうと。作る意味を見失ってしまって手が動かなくなりました」。この時、福島さんは少年の思いを尊重し「人工ボディを作らない」選択をしました。
 「ありのままで過ごせる環境」を作るために、家族と話し合い、結果、少年は野球チームに入り、生き生きと小学生時代を過ごしたといいます。もう十分な大人になっている年齢ですが、福島さんのもとには来ていません。「『ありのままで』過ごしている証拠」と、うれしそうに福島さんは語ってくれました。

 「人工ボディは選択肢の一つです。そして、身体の一部がない人が着ける、着けないを選ぶ事が出来る社会になって欲しい。その為にも、多くの人に、身体の一部がない人の事を知ってほしい」。様々な人たちの悲しみや喜びに向き合ってきた福島さんの言葉は優しさにあふれていました。

(取材年月:2014年12月)

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Profile

専門家プロフィール

福島有佳子

身体の一部をリアルに復元する 人工ボディの専門家

福島有佳子プロ

人工ボディ技師

川村義肢株式会社 工房アルテ

完全オーダーメイドの人工ボディは、装着時の違和感も少なく、色も1300色の中から復元する事で見た目にわかりにくい。「諦めていた結婚式が出来た」「外出が楽しくなった」などお客様の「思い」を大切に製作

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