認知症の種類と症状、原因、予防と治療法について
私が師として仰ぎ、尊敬してやまない故山本巌先生は、
漢方薬を主体として治療する開業医でした。
先生はよく『大病をしたことのない医者には、ろくな医者はおらん』とおっしゃっていました。
患者さんの視線からの医療が大切だと教えてくださったのです。
その温かい人柄と共に病気を「治す」技術はすばらしく、
古今東西を通じても屈指の名医であったと思います。
NHKの健康番組にも出演されたことがありますのでご覧になられた方もおられるかと思います。
NHKの健康番組で出演依頼されるのは、有名大学の教授や錚々たる肩書きの人ばかりですが、
山本巌先生のように、町の一開業医がNHKに出演依頼されるのは異例のことです。
それだけ名医としての評判が高かったのでしょう。
大学病院から、先生のもとに手に負えない患者さんを紹介されることもありました。
より高度な治療のためには、ふつうは町の医院から大学病院などに紹介するパターンが多いのですが
山本巌先生のところへは、反対に大学病院から患者さんを送られていたのです。
そしてその数は500人どころではないといわれています。
治した患者さんたちは、ほんとうに壮絶な病気の持ち主が多かったようです。
脊髄小脳変性症の3人の人の治験例についても教えていただきました。 スゴイですよ。
漢方薬はエキス顆粒ではなくて煎じ薬なのですが、私もそっくりそのままの処方を使って上手くいっている人がいます。
脊髄小脳変性症では、まず進行を遅らせる。
できれば進行を止めることが第一目標でしょう。 (でも本音は、少しでも好転して欲しいと・・・・)
私のような凡人が山本巌先生の域に達するまで、あと100年は必要かも知れません。
一方、急性病に対しては、漢方薬の効果判定を15分から30分後の経過で判定する
ということを日常的に行なっていらっしゃいました。
もちろんすべての病気や症状に対してではないのですが、
私の印象深いものとしては、アレルギー性鼻炎、花粉症、小児喘息、カゼ、感染性胃腸炎、などです。
その場で患者さんに多目の漢方エキス顆粒を服用してもらい、20分前後の変化で効果判定するのです。
「20~30分たっても効けへんのは、それは処方がおおてないか、量が少ないかのどっちかや。」
とおっしゃっていました。
「漢方薬は効果が出るまで時間がかかる」というセリフは、どこか全く異次元の世界なんです。
カルチャーショックを受ける人は多いのではないでしょうか。
もちろんすべての病気に対してではないですよ。半年も1年もかかる病気もあります。
先生の診療を見学する医師の数は増え続け、曜日ごとの入れ替え制になるほどになっていました。
意外なことに、先生の素早く的確な胃カメラの検査技術だけを勉強に来る医師もいました。
先生は日本の漢方界では主流派ではありませんでした。
先生の持論は、『東洋医学の道を歩むのならまず西洋医学を勉強し、
西洋医学の長所と短所を理解した上で漢方医学を研究することが大切だ』ということでした。
さらに、西洋医学の「病因」「病態生理」を取り入れれば、治療学としてすぐれた漢方医学は
より正確に効果を発現し、より客観的に評価され、より多くの人の恵みになるはずだ、ということです。
医学の目的は患者さんを治すことなのだから、
中国漢方の「五味」「五行の相乗相克」であるとか、日本漢方の中でも不確かな理論とかは極力排除し、
わかりやすくシンプルにする。
そして、これから漢方を志す若い人達にとって、
誰にでもわかりやすい「漢方医学」を築きたい、という想いが強かったと思います。
先生はちょっとしか寝ませんでした。
ある時知り合いの医師に誘われてヨーロッパを二人で旅行したそうです。
旅行中のある真夜中、誘った医師が目覚めてみると、部屋の片隅の小さなテーブルに、薄明かりをつけて
分厚い数冊の医学書とにらめっこしている山本先生の姿があったそうです。
山本先生は「人間寝てんのは死んでんのと一緒や」と笑っていました。
私は「そんなアホな」とつぶやきながらも「やっぱり山本先生に追いつくのは無理や」と思ったものでした。
旅行に行くのに数冊の医学書を持っていくのは理解できますが、
やっぱり 人間寝なあきません。
先生は、漢方の名医と言われるようになったころ、突然
大阪市立大学医学部の皮膚科に病態生理などを勉強しにいったそうです。
ちなみに、その大阪市立大学医学部、皮膚科の数人の医師が、
山本先生の常識はずれの治療成績(重症の尋常性乾癬も治してしまう)を目のあたりにして、
山本先生の弟子として漢方の世界に飛び込んだそうです。
大阪市立大学医学部付属病院皮膚科として、尋常性乾癬やアトピー性皮膚炎の漢方薬治療を始め、
その画期的な成果を医学会に発表した記録も残っています。
その方たちも当時は同じ医学部の同僚の医師から「変わりものや」とか「変人」扱いされたそうですが、
今ではすばらしい名医になってらっしゃいます。
そうそう、その後 山本先生は、胃カメラの技術を身につけるために、大阪の成人病センターにも通ったそうです。
1つ1つの生薬の薬能を知り、
それらの生薬の組み合わせによって生まれる効能を知り、
そして漢方処方の方意を知り、
さらに西洋医学の病態生理、病理を知ることが「東洋医学と西洋医学の融合」だし、「鬼に金棒」ですね。
ふつうに考えるとこれは当たり前のことなのですが、この東洋医学と西洋医学の融合がなされているのは
わたしは、山本巌先生の漢方医学しか知らない。でもそうすると漢方医学界からも西洋医学界からも反主流派になるのです。
『患者さんが師匠だ』と、山本先生はおっしゃっていました。
さまざまな書物、文献、りっぱな先生よりも、
目の前の患者さんを 真摯にみつめることの大切さを教えてくださったのです。
稀代の名医、山本巌先生も77才にて亡くなったのですが、
亡くなるほんの3ヶ月ほど前にも、私達に最後の講義をして下さいました。
残りわずかの生命を振り絞るような講義でした。
今でも鮮明に 一幅の絵画のように目に浮かびます。
いま天国で、この文章を見た山本巌先生は、
あの独特のホコホコしたあったかい笑顔で、微笑んでくれているでしょうか。
いや、きっと天国に持っていった たくさんの医学書と「にらめっこ」しておられるにちがいない。
合掌。
参考文献
下記の書物を読んでいただけると分かるかと思いますが、
山本巌の漢方医学は、従来の日本漢方や、中国漢方とはずいぶん違っています。
日本漢方の曖昧な部分や、中国医学の好ましくない点を排除し、
患者さんの為の優れた治療学を求めています。
西洋医学の診断学や病態生理を重要視して、
東洋医学の治療学の優れた部分を縦横無尽に発揮されています。
●東医雑録(1)
●東医雑録(2)
●東医雑録(3)
発行所 燎原書店 山本 巌 著
●漢方処方の臨床応用(1)
●漢方処方の臨床応用(2)
●漢方処方の臨床応用(3)
発行所 ジャパンマーケティングサービス
山本 巌 伊藤 良 松田 涇 神戸中医学研究会
●病名漢方治療の実際
発行所 メディカルユーコン 坂東 正造 著
●山本 巌の漢方療法
発行所 (株)東洋医学舎 鶴田 光敏 著