沖縄は持ち家派か、賃貸派か、住宅意識データが示す意外な実像

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄不動産オーナー


沖縄の不動産市場について語る際、「右肩上がり」「売り手市場」「まだまだ上がる」といった断片的な言葉が先行しがちですが、実際に実需市場を支えているのは、もっと生活者寄りの感覚や心理です。投機についてはまだ別の機会にお話しします。今回は、宅建協会が公表している「2025年 住宅居住白書」をもとに、全国調査の結果を沖縄の不動産オーナーという視点から読み解いてみたいと思います。
出典元: https://www.zentaku.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/09/2025-fudousan-anke-to.pdf

この調査は、2025年7月30日から8月4日まで、全国の20歳〜65歳の男女5,000名を対象に行われたインターネット調査です。あくまで全国平均のデータではありますが、だからこそ、沖縄の現在地や特異性が浮かび上がってくる部分も少なくありません。

本コラムでは、調査結果の中から
Q2「持ち家派か賃貸派か」
Q1「今、不動産は買い時か」
Q18「不動産会社に求める安心感」
この3点に絞り、結果の共有と私なりの私見を整理していきます。

【1.Q2「持ち家派・賃貸派」から見える住宅観の変化】
まず取り上げたいのが、「あなたは『持ち家派』『賃貸派』どちらですか」という設問です。この質問は、現在の居住形態に関係なく回答する形式となっており、生活者がどのような価値観で住まいを捉えているのかを把握するうえで、非常に示唆に富んだ結果が出ています。

2025年の調査では、持ち家派(マンション・集合住宅、戸建てを含む)が全体の約63%を占め、依然として多数派であることが分かります。一方で、賃貸派も一定数存在しており、住まいに対する考え方が一様ではないことが改めて浮き彫りになっています。

まず、持ち家派の理由の上位3位を見てみると
1位 「家賃を払い続けることが無駄に思えるから」。
2位 「落ち着きたいから」。
3位 「老後の住まいが心配だから」。
いずれも、資産形成というよりは、将来への不安や生活の安定を重視する意識が強く表れています。特に「老後」という言葉が上位に入っている点からは、住まいを単なる生活空間ではなく、長期的な安心材料として捉えている層が一定数いることが読み取れます。

一方で、賃貸派の理由の上位3位を見ると、対照的な価値観が見えてきます。
1位 「住宅ローンに縛られたくないから」。
2位 「税金や維持管理にコストがかかるから」。
3位 「不動産を所有しない身軽さが良いから」。

こちらは、将来不安よりも、自由度や可動性を重視する考え方が中心です。転勤や転職、家族構成の変化など、ライフスタイルの変動を前提にした住まいの選択であることがうかがえます。興味深いのは、どちらの選択肢も「正解・不正解」ではなく、重視しているポイントが異なるだけだという点です。持ち家派は「安定」や「将来への備え」を、賃貸派は「柔軟性」や「リスク回避」を重視しており、住まいに求める役割そのものが違っているように感じられます。




この結果を沖縄の不動産市場に重ねて考えると、単に「持ち家ニーズが強い」「賃貸が弱い」といった単純な話ではなく、どの価値観の層が、どのタイミングで動くのかを見極めることの重要性が浮かび上がってきます。住宅価格や地価の動きだけでなく、こうした生活者側の意識の違いを把握することが、これからの不動産判断には欠かせない前提になりつつあるのではないでしょうか。

【2.Q1「今、不動産は買い時だと思うか」から見える判断の分岐】
次に見ておきたいのが、「今、不動産は買い時だと思いますか」という設問です。この質問は、住宅取得に対する現在の心理状態を端的に表すものであり、沖縄を含む不動産市場を考える上でも重要なヒントを含んでいます。

2025年の調査結果では、「買い時だと思う」と回答した人は20.8%、「買い時だと思わない」は34.7%、「わからない」が44.5%となっています。注目すべきは、「買い時だと思う」「思わない」よりも、「判断を保留している層」が最も多い点です。市場に対する関心はあるものの、明確な決断に至っていない層が厚く存在していることが分かります。

まず、「買い時だと思う」人の理由の上位3位を見てみます。
1位 「今後、住宅ローンの金利が上昇しそうなので、今の金利が低いと感じているから」。
2位 「住宅ローン減税など、住宅取得のための支援制度が充実しているから」。
3位 「不動産価格が安定、または上昇しそうだと思うから」。

これらの理由からは、金利や制度といった外部環境を根拠に、相対的に『今の条件は悪くない』と判断している層の存在がうかがえます。積極的に価格上昇を期待しているというよりも、将来条件が厳しくなる可能性を意識した「タイミング重視」の判断と言えるかもしれません。

一方で、「買い時だと思わない」人の理由の上位3位は、対照的な内容になっています。
1位 「価格が高騰しすぎて手が届かないから」。
2位 「自分の収入が不安定、または減少しているから」。
3位 「不動産価格が下落しそうだと思うから」。

こちらは、価格そのものへの不安に加え、個人の収入や将来見通しといった内的要因が強く影響していることが読み取れます。金利や制度よりも、「今この価格で買って大丈夫なのか」という感覚的な警戒心が判断の中心にあるように見えます。




この結果を並べてみると、「買い時だと思う」「思わない」という判断の違いは、楽観と悲観の対立というよりも、何をリスクと捉えているかの違いによって生まれているように感じられます。金利上昇や制度変更をリスクと見る人もいれば、価格水準や家計状況をより重く見る人もいる。どちらも合理的であり、一方が間違っているとは言い切れません。

沖縄の不動産市場に当てはめて考えると、価格上昇や取引件数といった表面的な数字だけではなく、こうした生活者側の迷いや分岐点をどう受け止めるかが重要になってきます。「買い時だ」と感じる層が一定数存在する一方で、「まだ判断できない」「慎重に様子を見たい」という空気が強まっていることは、市場全体の動きを理解する上で欠かせない視点だと感じています。

【3.Q18「不動産取引で、何があれば安心できるのか」】
最後に見ておきたいのが、「住まい探しや不動産取引において、不動産会社の担当者にどのようなサポートがあると安心できるか」という設問です。これは、価格やタイミング以前に、誰と、どのように取引を進めたいかという意識を可視化する問いでもあります。
調査結果を順位順に見ていくと、読者の多くが「派手な提案力」や「スピード」よりも、誠実さと理解のしやすさを重視していることが分かります。

1位 「物件の良い点だけでなく、注意点も正直に教えてくれること」。
最も多く支持されたのは、メリットだけを並べない姿勢でした。不動産は高額で、やり直しのききにくい取引です。だからこそ、良い話だけでなく、リスクや前提条件も含めて説明してほしいという意識が強く表れています。

2位 「契約前に十分な時間をかけて説明してくれること」。
これは、専門性そのものよりも、「急かされないこと」「理解する時間を確保できること」への安心感と言えます。契約行為そのものより、そこに至るプロセスが重視されている点が印象的です。

3位 「専門用語を使わず、わかりやすく説明してくれること」。
不動産取引では、用語や制度が複雑になりがちです。だからこそ、知識量の多さよりも、それを噛み砕いて説明できる姿勢が評価されています。

4位 「アフターフォローや入居後のトラブル対応をしてくれること」。
取引が終わった瞬間に関係が切れるのではなく、その後も相談できる存在であってほしいという期待がうかがえます。

5位 「予算や希望条件に合わせて無理な提案をしないこと」。
この順位からは、「売りたい物件を勧められること」への警戒心も読み取れます。自分の事情を理解したうえでの提案かどうかが、安心感を左右しているように感じます。

6位 「住宅ローンや保険など、関連手続きもサポートしてくれること」。
これは利便性というより、「全体像を理解した担当者に任せたい」という意識の表れでしょう。部分的な説明ではなく、取引全体を俯瞰した支援が求められています。

7位 「セカンドオピニオンとして、他社との比較も推奨してくれること」。
順位としては下位ですが、この項目は象徴的です。不動産会社が自社だけで判断を完結させようとしない姿勢そのものが、安心感につながると感じている人が一定数存在します。




これら7つを並べてみると、不動産会社に求められているのは、強い営業力や情報量の多さではなく、立場の中立性と説明責任であることが分かります。「選ばせる」のではなく、「判断できるように支える」こと。その姿勢が、結果として安心感につながっているように見えます。
沖縄の不動産取引においても、この傾向は決して例外ではありません。価格や立地だけでなく、将来の使い方やリスク、地域特性を含めて冷静に整理し、納得したうえで判断したいというニーズは年々強まっています。

私たちが大切にしているオーナーズエージェントという考え方も、まさにこの延長線上にあります。売る側・買う側のいずれにおいても、結論を急がせるのではなく、情報を整理し、比較し、最終判断を委ねる。そのために、良い点だけでなく注意点も含めて説明することを重視しています。不動産取引は、正解が一つではありません。だからこそ、「どの選択がその方にとって最適か」を一緒に考える存在でありたい。今回の調査結果は、そうした姿勢そのものが、これからの不動産会社に求められていることを、あらためて示しているように感じています。

【まとめ】
数字の先にある「判断の軸」をどう持つか
今回の調査データを、Q2「持ち家派・賃貸派」、Q1「買い時だと思うか」、Q18「不動産会社に求める安心感」という3つの切り口から整理してきましたが、全体を通して共通しているのは、「どちらが正しいか」を決めようとする動きではなく、簡単に決めきれない時代に入っているという空気感です。

持ち家と賃貸の選択においても、購入タイミングの判断においても、かつてのように「こうするのが普通」「今はこういう相場だから」といった単線的な考え方は、徐々に支持されなくなっています。
その代わりに見えてきたのは、将来の不確実性や価格への警戒感を前提としながら、自分にとって納得できる判断をしたいという姿勢でした。

特に印象的だったのは、不動産会社に求める安心感として挙げられた項目の多くが、提案力や情報量よりも、説明の姿勢や立ち位置に関するものだった点です。
良い点だけでなく注意点も伝えること、十分な時間をかけること、専門用語を噛み砕くこと、無理な提案をしないこと。これらは決して派手ではありませんが、取引に向き合う姿勢そのものが問われているように感じます。

沖縄の不動産市場は、全国平均とは異なる動きを見せる局面も多く、価格、需給、地域性、将来の利用可能性など、考慮すべき要素が複雑に絡み合っています。だからこそ、「今は買いか、待ちか」「売るべきか、保有すべきか」といった二択ではなく、その人・その物件ごとの判断軸を整理することが、これまで以上に重要になっているのではないでしょうか。




私たちが掲げている「オーナーズエージェント」という考え方は、こうした背景の中で生まれたものです。
結論ありきで動かすのではなく、情報を整理し、比較し、リスクも含めて共有したうえで、最終判断はオーナー自身に委ねる。そのプロセスを支える立場でありたいと考えています。

市場が分かりにくくなっている今だからこそ、「何を選ぶか」以上に、「どのように判断するか」が問われています。
今回の調査結果が、沖縄で不動産を所有する方、これから関わろうとする方にとって、自分なりの判断軸を見直す一つの材料になれば幸いです。

オーナーズエージェントについての詳細は、下記をご参照ください。
https://okinawa-realestate.co.jp/ownersagent

―ご質問・ご相談を募集しています―
記事を読んで「もっと詳しく知りたい」「自分のケースではどうなるの」と感じた方は、ぜひお気軽にご質問ください。今後のコラムで取り上げたり、個別にお答えしたりしながら、皆さまの不安や疑問に寄り添える記事を発信していきたいと考えています。
ご意見・ご質問は下記メールまでお寄せください。
info@okinawa-realestate.co.jp

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

沖縄での新規事業・不動産投資・移住をサポートするプロ

多田進吾プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼