訪日外国人数にみる沖縄民泊 11月データから考える回復の実感とズレ

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄民泊


9月にインバウンド回復をテーマにコラムを書いた時点では、年末に向けて沖縄の不動産や民泊市場にも、もう少し分かりやすい動きが出てくるのではないか、という感覚を正直に持っていました。日本政府観光局が発表する訪日外客数は明確な回復基調を示しており、その数字だけを見れば、沖縄がその流れから外れる理由は特に見当たらなかったからです。

ただ、11月の最新データが発表され、改めて現場での実感と照らし合わせてみると、その見立てをそのまま当てはめてよいのかについては、少し立ち止まって考える必要があると感じるようになりました。数字は確かに良い一方で、現場の空気感は必ずしも前向き一色とは言えず、特に民泊の現場では「予約が全く入らない」「理由が分からない」という声も耳にします。この数字と体感のズレをどう捉えるかが、今の沖縄を考える上で重要なポイントではないかと思っています。

ここからはあくまで私自身の仮説になりますが、一つの可能性として考えているのが、中国政府による渡航自粛の影響です。これにより、沖縄県内のリゾートホテルで予定されていた団体客のキャンセルが発生し、その空室を埋めるために、大幅な価格調整やキャンペーンが行われているケースが見受けられます。その結果、本来であれば民泊を選んでいたであろう層のゲストが、価格面の魅力からリゾートホテルへ流れている可能性も否定できません。



もちろん、これは一つの見立てに過ぎず、すべてを説明できるものではありませんが、単に「閑散期である」「需要が弱い」「観光が鈍っている」と片付けてしまう前に、こうした構造的な動きが同時に起きている可能性についても視野に入れておく必要があると感じています。11月のデータは、楽観的に受け取るための材料であると同時に、現場で起きている違和感を整理するための出発点でもあるのではないでしょうか。

【11月データが示す「回復」の実像】
まず事実として押さえておきたいのは、11月の訪日外国人数が3,518,000人と、前年同月を明確に上回る水準まで回復しているという点です。添付のグラフを眺めてみると、2025年は年初からほぼすべての月で2024年を上回って推移しており、特に4月、10月、11月は前年差がはっきりと視覚的に確認できます。1月から11月までの累計でも3,900万人を超え、年間で過去最高だった年の実績をすでに上回っていることを踏まえると、日本全体の観光市場が「戻った」という段階を越え、次のフェーズに入りつつあるという評価自体は、数字の上では極めて妥当だと感じます。
出典元:https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20251217_1615-1.pdf



もう一つ、このグラフから読み取れる重要なポイントは、月ごとの増減の出方です。2024年は季節要因の影響を強く受け、繁忙期と閑散期の差が比較的はっきりしていましたが、2025年は春先から夏、秋にかけて大きな落ち込みがなく、なだらかに高水準を維持していることが分かります。これは、特定のイベントや一部のシーズンに依存するのではなく、訪日需要そのものが年間を通じて分散しつつあることを示しているようにも見えます。国別に見ても、韓国や台湾といった近距離市場に加え、米国、欧州、東南アジアなど多様な地域からの流入が確認されており、日本の観光需要が一部の国に偏らない構造へ移行しつつあることは、この数字の積み上がり方からも自然に感じ取れます。

ただ、ここで一度立ち止まって考えておきたいのは、この「回復」という言葉が、どこまで現場の実感と重なっているのかという点です。確かに総数としての訪日外国人数は増えていますが、その増加分がどの地域に、どの宿泊形態に、どの価格帯で流れているのかについては、このグラフだけでは見えてきません。都市部や大型リゾート、あるいは価格調整やキャンペーンを積極的に行っているホテルに需要が集まっている可能性もあれば、個々の民泊や中小規模の宿泊施設には、その恩恵が十分に届いていないケースも考えられます。

つまり、このグラフが示しているのは、あくまで「日本全体としての回復」であって、「すべての地域や現場が同じように回復している」ことを意味しているわけではありません。数字は間違いなく前向きですが、その数字をどう受け止め、どこまで自分の状況に当てはめてよいのかについては、冷静な整理が必要だと感じています。沖縄のように宿泊供給が多い地域では、回復という言葉の裏側にある構造の違いを意識しないと、数字と体感のズレに戸惑うことになりかねません。この11月データは、単純に安心材料として消費するものではなく、「では沖縄では何が起きているのか」を考えるための出発点として捉えるべきものだと思います。

【なぜ沖縄では「回復」を実感しにくいのか】
日本全体の訪日客数が過去最高水準を更新し、数字の上では観光市場が安定成長フェーズに入りつつあるように見える一方で、沖縄の現場ではその「回復」を素直に実感できていないという声が少なくありません。この違和感の背景には、単純な需要不足というよりも、沖縄特有の供給構造が大きく影響しているのではないかと感じています。

沖縄では、コロナ前後を通じてホテル、リゾート施設、民泊といった宿泊供給が着実に増え続けてきました。その流れに加え、2025年7月に開業した「JUNGLIA沖縄」を一つの契機として、北部エリアでは民泊施設の供給がさらに増加しています。観光需要が一時的に落ち込んだ時期を挟みながらも、新規開業や客室増設は止まることなく進み、結果として現在は、回復した需要を上回る水準の供給が存在しているエリアも少なくありません。



そのため、訪日客数が増加しているにもかかわらず、体感としての「満室感」や「引き合いの強さ」が生まれにくい状況が続いているように思います。数字だけを見れば好調に見える一方で、現場ではその恩恵が均等に行き渡っていないという感覚が残りやすいのも、この供給構造が背景にあるのではないでしょうか。

加えて、沖縄の宿泊市場では、100室から500室程度のリゾートホテルが多く存在しており、これらの稼働が落ち込む局面では、割引やキャンペーンによって民泊と直接バッティングする特徴があります。宿泊単価が下がれば、ゲストの選択肢は一気に広がり、結果として「需要が減った」というよりも、「需要が分散した」と表現した方が実態に近いケースも見受けられます。逆に、マーケティングにおけるシャワー効果のように、リゾートホテルが満室に近づけば、その流れに引っ張られる形で、民泊施設の稼働や単価も自然と上がっていくものです。

このような環境下では、問い合わせの数や成約までのスピードだけを見て、市場の良し悪しを判断してしまうと、実態を見誤る可能性があります。動いていないように見える背景には、価格帯の選別や宿泊形態のシフトといった、より細かな変化が同時に起きているからです。沖縄で今起きているのは、回復していないというよりも、「回復の仕方がこれまでとは変わってきている」という状況なのかもしれません。

この章で整理しておきたいのは、数字が示す回復と、現場で感じる停滞感は、必ずしも矛盾しているわけではないという点です。供給が多い地域では、回復局面であっても競争が先に表面化しやすく、その結果として一部の事業者や物件では手応えを感じにくくなることがあります。沖縄の現状を理解するためには、この構造的な前提を踏まえた上で、次にどのレイヤーで何が起きているのかを丁寧に見ていく必要があると感じています。

【価格が高くなりすぎたことで生まれている「様子見」】
もう一つ、沖縄の現場で回復を実感しにくくしている要因として、宿泊費や関連コスト全体が高くなりすぎているという点も無視できません。建築費、人件費、リネン代、エネルギーコストの上昇を背景に、宿泊単価が上がること自体は自然な流れではありますが、その結果として、ゲスト側の意思決定が以前よりも慎重になっている印象を受けます。



特に最近は、「泊まりたい」という気持ちがあっても、価格を見た瞬間に一度立ち止まり、比較や検討の時間が長くなっているケースが増えているように感じます。実感としても、1泊当たり数百円、数千円を値上げしただけで問い合わせが止まることがあり、価格に対する反応が以前よりもシビアになっているように思います。

年末年始や大型連休といった、これまでであれば自然と予約が埋まっていった時期であっても、空室が目立つ場面が出てきているのは、その象徴の一つだと思います。決して需要が消えているわけではなく、価格と体験価値のバランスを慎重に見極めようとする「様子見」の心理が、以前よりも強く働いているように感じられます。

このような状況では、「高いから選ばれない」と単純に結論づけることも、「値下げすれば解決する」と短絡的に判断することも、どちらもリスクを伴います。価格を下げることで一時的に動きが出たとしても、その先に何が残るのかを考えなければ、長期的な安定にはつながりません。

今の沖縄で起きているのは、需要が弱いというよりも、需要側がより慎重に、より冷静に選択を行うフェーズに入っているということなのかもしれません。だからこそ、数字や表面的な動きだけで判断するのではなく、自分の物件や事業が今の市場環境の中でどの位置にあるのかを丁寧に見直すことが、これまで以上に重要になっていると感じています。

【まとめ】
11月の最新データを見る限り、日本全体の観光市場は確実に回復し、数字の上ではすでに次のフェーズへ移行しつつあることは間違いありません。訪日外国人数の推移からも、インバウンド需要が特定の国や時期に偏らない、より安定した構造へ変化していることが読み取れます。

一方で、その「回復」という言葉を沖縄の現場にそのまま当てはめると、違和感が残るのも事実です。宿泊供給の増加による競争の激化、ホテルと民泊の直接的なバッティング、そして宿泊単価の上昇によって生まれているゲスト側の慎重な姿勢など、複数の要因が重なり合うことで、数字ほどの手応えを感じにくい状況が生まれているように見えます。

重要なのは、「需要が弱い」「観光が鈍っている」と短絡的に結論づけないことです。今の沖縄で起きているのは、回復していないというよりも、回復の仕方や選ばれ方が変わってきているという変化なのかもしれません。だからこそ、表面的な予約状況だけで判断するのではなく、自分の物件や事業が今の市場環境の中でどの位置にあるのかを冷静に見直すことが、これからの判断には欠かせないと感じています。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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