2025年訪日トレンドの変調と沖縄民泊の実力

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄民泊


2025年の訪日客データをあらためて見てみると、10月までは概ね前年を上回って推移し、観光需要自体は全体として堅調だった印象があります。ただ、月別に細かく見ていくと、市場ごとに伸び方の差が大きくなりはじめ、「好調な国」と「そうでない国」の二極化が進んだ時期でもありました。このため、現場のホテル・旅館からは「夏以降は国によって手応えが違う」という声が聞かれるようになり、全国データの数字とは少し異なる“肌感覚のズレ”が生まれていたように感じます。


私自身、沖縄で17部屋の民泊コンサルティングを行う中で、まさに同じような違和感を抱きました。訪日客の総数が増えていても、沖縄民泊の予約動向がそのまま比例するわけではありません。「どの国のゲストが増えているのか」「どの市場が外部要因に左右されやすいのか」によって、地域ごとの実感は大きく異なります。こうしたギャップを丁寧に読み解くことで、沖縄民泊ならではの強みや特徴が見えてくると感じています。

実際にJNTOの公式データを細かく読み解くと、2025年は10月まで概ねプラス基調で推移しており、訪日全体としては堅調だったことがわかります。ただ、国ごとに見ると“伸び方の濃淡”がはっきり出てきており、ここに2025年の特徴があります。たとえば中国本土は前年同月比+22.8%、台湾+24.4%、韓国+18.4%と数字自体は大きく伸びていますが、香港やタイは前年割れとなるなど、市場によって明暗が分かれました。

つまり、訪日全体の増減は「一様に強い・弱い」という単純な話ではなく、寄与度の大きい国がどれだけ伸びているかによって、地域ごとの実感に差が出やすい構造になっています。特定国に依存しているエリアでは、その国の動きに影響を受けやすくなり、一方で、台湾・香港・韓国のように比較的安定した短距離市場に支えられている地域では、数字の揺れが小さくなる傾向があります。

こうした“国ごとの揺れ方の違い”は沖縄民泊の現場にもそのまま表れています。実際、私がサポートしているある沖縄民泊では、2025年7〜11月のゲストの約80%が台湾・香港・韓国・日本で占められ、中国本土からの利用はゼロでした。過去に運営していた別物件でも、中国本土ゲストは全体の約4%にとどまっています。複数物件で同じ傾向が続いていることを踏まえると、中国市場の変動が沖縄民泊全体の宿泊需要に与える影響は、全国平均より限定的だと感じています。

そこで改めて、「中国の方はそもそもどの宿泊サービスを使っているのか」「どのような場でレビューを書いているのか」が気になり、ネット上の口コミやレビューを時間をかけて確認してみました。ところが、沖縄のホテル・民泊に関する簡体字のレビューは、想像以上に見つかりませんでした。なぜ「中国語レビュー(特に簡体字)が沖縄の宿泊施設にほとんど残っていないのか」を調べていく中で、いくつかの要因が見えてきました。

・中国国内でのインターネット規制により、GoogleやTripAdvisorなど海外サービスにアクセスしにくい
・口コミ投稿の多くが、WeChat・小紅書(RED)など中国国内のSNSに集中している

こうした事情から、日本側の予約サイトや口コミサイトには、そもそも簡体字レビューが蓄積されにくい構造があると考えられます。

さらに、中国本土の旅行者がAirbnbを利用しにくい文化的背景もあります。中国には「水土不服」(外国のサービスは自分たちに合わない)という考え方が根強く、AirbnbのようなC2C(個人間取引)の宿泊サービスに対しては、「品質にバラつきがありそう」「トラブル時に本当に対応してもらえるのか不安」といった心理的ハードルが少なからず存在すると言われています。その一方で、中国人向けに最適化された国内サービス(途家網、住百家など)が広く普及しており、物件審査や品質管理も行われていることから、海外旅行の際もAirbnbではなく、こうした国内系サービスを経由して宿を選ぶケースが多いようです。

これらを総合すると、「沖縄の宿泊施設に簡体字レビューが少ない」「沖縄民泊で中国本土ゲストの比率が低い」という現象は、単に“人気がないから”ではなく、利用するプラットフォームや口コミ文化、政策的要因など、いくつかの要素が重なった結果だと考えられます。

そこで今回は、
・JNTOの公式データの傾向
・沖縄民泊の実際のゲスト構成
・なぜ中国ゲスト比率が低く、影響も限定的と考えられるのか
これらを丁寧に整理しながら、「沖縄の民泊市場は何に強く、どんな外部要因に左右されにくいのか」を私なりの視点で考察していきたいと思います。

【1. JNTOデータから読み取れる2025年の変調】
2025年10月の訪日外客数は389万人と前年同月比+17.6%の増加でした。国別に見ると、韓国(+18.4%)、台湾(+24.4%)、中国(+22.8%)など主要市場の多くが前年を上回り、特に中国本土は71万5,700人と大きく伸びています。1〜10月累計でも中国は820万人と前年同期比+40.7%の高い伸び率を示しており、「2025年10月時点では中国市場は明確に回復基調にあった」と言えます。一方、香港やタイなど一部市場は前年割れとなり、国・地域ごとの差が広がっている点が2025年の特徴です。



つまり、10月までの訪日市場は全体として堅調だったものの、市場ごとの“伸び方の差”がはっきりしていた一年だったと言えます。寄与度の大きい国がしっかり伸びている地域では追い風を感じやすく、そうでない地域では「数字ほど恩恵を感じない」という声が出る──そうした構造が、2025年の数字から見えてきます。

【2. 沖縄民泊のゲスト構成は「そもそも中国依存度が低い」】
私が運営サポートしているある沖縄民泊の国別構成比(直近)は、以下の通りでした。

・日本:37.5%
・香港:20.8%
・台湾:18.8%
・韓国:12.5%
・アメリカ:6.3%
・カナダ:4.2%
・マカオ:4.2%
・ブルネイ:2.1%
・ポーランド:2.1%


構成比を見てわかるように、この物件の中心は「日本・台湾・香港・韓国」の4市場です。全国の観光データでは中国本土の増減が全体数字を大きく動かしますが、少なくともこの物件に限って言えば、中国本土からの宿泊はゼロでした。

過去に私が運営していた別の沖縄物件でも、中国本土ゲストは全体の約4%にとどまっており、「沖縄の民泊=中国依存」という構図とはかなり距離があるのが実感です。複数物件で同じような傾向が続いていることを踏まえると、中国市場の変動が沖縄民泊の宿泊需要全体に与える影響は、全国平均よりも限定的である可能性が高いと感じています。

【3. データと現場感から見える「沖縄民泊の強さ」】
ここまでのデータと実際の構成比を整理すると、沖縄民泊には次のような特徴が見えてきます。

① 客層が分散しており、特定の国に依存していないこと
② 全国の「中国本土の変動」とは、影響の受け方がそもそも異なること
③ 口コミプラットフォームと言語の構造が、市場構造にも反映されていること
④ 結果として、外的要因による影響を分散しやすい市場構造になっていること

現場で運営やサポートを続けてきた身としても、「沖縄の民泊は、数字以上に地力のある市場だ」と感じる場面は少なくありません。短距離市場に支えられながら、複数の国・地域からバランスよくゲストを受け入れていることが、その安定感の背景にあると考えています。

【まとめ】
2025年の訪日客数は10月までを見る限り前年を上回り、多くの主要市場が回復基調にありました。その中でも台湾・香港・韓国といった短距離市場は安定して推移し、日本の観光需要を下支えする存在となっています。一方で市場間の伸び率には差があり、地域によって実感が異なる構造が浮き彫りになりました。

沖縄民泊ではもともと中国本土の依存度が低く、「日本・台湾・香港・韓国」の4市場が中心となることで、外部要因の影響を受けにくい安定的な市場環境が形成されています。口コミサイトの言語分布にもその特徴が表れており、繁体字レビューが多く簡体字レビューが少ない理由も、市場構造と利用プラットフォームの違いから説明できます。

こうした点を踏まえると、沖縄の民泊市場は“外部要因の影響を分散しやすい”強みを持った地域であり、データにもその特性が表れています。物件活用を検討されるオーナー様にとっても、Airbnb運営に携わる方にとっても、今回の傾向は今後の判断材料の一つになるだろうと感じています。

―ご質問・ご相談を募集しています―
記事を読んで『もっと詳しく知りたい』『自分のケースではどうなるの?』と感じた方は、ぜひお気軽にご質問ください。今後のコラムで取り上げたり、個別にお答えしたりしながら、皆さまの不安や疑問に寄り添える記事を発信していきたいと考えています。
ご意見・ご質問は下記メールまでお寄せください。
info@okinawa-realestate.co.jp

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

沖縄での新規事業・不動産投資・移住をサポートするプロ

多田進吾プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼